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君と二人で高みの見物
6
「アスマは本当ひどいなぁ」

その声の持ち主は、歓声を気にもせず俺の元へとやってきた。

「あ、えと、ゆーさん、そのね?」

どうしよう!何も言葉が浮かばない。

桜は不思議そうに俺たちを見ている。

っていうか、食堂中の視線はおそらく全て俺に集まっていることだろう。

視線が痛い。…いや、それ以上にゆーさんの視線が怖いっ!

「今日は二人で昼食を食べる約束だったよね?」
「ううっ、ごめんなさい、すっかり…」

すっかり王道展開に惹かれて、約束を忘れていました!

多分、ゆーさんは俺の言いたいことを理解していることだろう。

「それなら、もう十分だろう?ちょーーーっとお話をしに部屋に戻ろっか」

ちょっとじゃないでしょ!絶対!もう教室に戻らない前提デスよね!!

「ね。行くよね」
「……ハイ。」

もはや疑問系じゃないし…。



こうして俺は大量の視線を背に抱えて、ゆーさんに腕を引かれ食堂を後にした。



* * *



side 桜


「あの人は…?モモ連れていかれちゃったけど…」

俺が純粋に疑問を口にすると、礼が答えてくれた。

「あれは…藤堂はこの学園で知らない人はいない程の有名人で、竜牙が学校での一番の権力者であるなら、藤堂は寮での一番の権力者だ。というよりも、藤堂が寮の規律みたいなものなんだ」
「寮の規律って……あ、寮長ってこと?」
「そう。桜、入寮したときに会わなかったのかい?」
「うん。不在だったから、管理人のおじさんからカードキーだけ貰ってきたんだ」
「そっか、まぁ良かったかもね。藤堂をもしも怒らせてしまったらこの学園を去らなきゃいけなくなるから」
「…そんな危ないヤツなのか?」
「別に藤堂自身は小さなことは気にしないけど、もしも百地アスマを傷つけるようなことがあったら、その時は……」
「容赦は全くねぇんだ。」
「─竜牙。っていうか、そいつとモモの関係ってなんなんだ?」
「恋人、だ。」
「恋…人…」

まさかモモに付き合っている人がいたなんて…ビックリだ。

いや、モモはめちゃくちゃ美人だから頷けるんだけど…そうじゃなくて、身近に男と付き合っている人がいるということに、改めてここはそういうところなんだと実感した。

「「ふふっ、由良(ユラ)くんは嫉妬深いしねー」」

由良くんとは多分、…藤堂先輩のことだろう。モモも“ゆーさん”って呼んでたし。

「「由良くんは、恋人のモモくんがキャーキャー言われるのが嫌でモモくんの親衛隊を解散させてしまったんだ。もちろんモモくんの許可は得ているけど」」
「青葉、若葉、じゃあ今はモモに親衛隊はいないのか?」
「「親衛隊はね。今はその元親衛隊メンバーで“アスマ様を見守る会”というものを発足させてるらしいよ。由良くんも“アスマに対して恋愛感情を抱かないなら”って了承したんだ。モモくん自体はそういうのには興味なかったみたいだから、流れにまかせて、って感じだったなぁ」」
「そうなんだ」

色んなことにビックリしたけど、一番ビックリしたのはこんな長い言葉にも関わらず、青葉と若葉が息ぴったりに話していたことに俺は驚いたのだった。

そうして、時間もそろそろヤバくなってきたので、俺たちは皆教室に戻ることにした。



ちなみにその日、モモは教室には帰ってこなかった。




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あきゅろす。
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