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爪先より外側(影白)



爪先より外側。

いつしかそれが、俺がローグに近づく限界になっていた。


もともとベタベタつるむような関係でもなかった俺たちの、気づきもしないような些細な変化。
今までならもう少し踏み込んでいたところに、少しだけできた空間。


………………まぁそれは、俺がローグへの恋心を自覚した所為だろうけど。





俺はローグが好きだ。
相棒としては勿論………………恋愛としても、だ。
理由とかきっかけはわかんねぇ。でも、なんかふとしたときに思う。俺はローグが好きだって。
そして自惚れかもしれないが、ローグも俺のことは嫌いじゃないと思う。好きかはわからないけど。

そんな淡い期待を抱いた結果が、コレ。下手に意識して、ローグに触れられない。



「………………なんでだよ…」

恨みがましく呟いてみても、なにかが変わるわけでもなく。
俺は盛大にため息をついた。


「好きだっての…ばかローグ」





「…なにかいったかスティング」

ぼそり、と誰にも聞かれていないつもりで溢した言葉に、低い声が返事をした。
慌てて立ち上がると、派手な音をたてて椅子が倒れた。

「ろ、ローグ…」

不機嫌そうに眉をひそめゆらりと立つのは、紛れもなく俺の想い人。
狼狽える俺を怪訝そうな目で見つめると、短く息をつく。

「今、俺の名を呼んだんじゃないのか」


………無駄に耳のイイ奴。

低く唸り、ちらりと相手のか顔を盗み見る。
整った顔立ち、透き通った紅い瞳、綺麗な黒髪。
コイツ、モテるよな…なんてぼんやりと考えていると、

「聞いているのか、スティング」

ぱしっ…と突然腕を捕まれた。
そして、ローグに引っ張られる。


「っ…!ローグ!ち、近い!」

鼻と鼻がぶつかる距離。間近に見るローグの顔。自分の頬に熱が集中していくのがわかる。
当のローグは涼しい顔をして、コツンと額を合わせてきた。



心臓の音が煩い。
ローグにも聴こえてるんじゃないだろうか。



1分にも、はたまた10分にも感じられる沈黙の末、ローグが口を開いた。

「熱はないようだな」

「へ」

思わず間抜けな声がこぼれる。

「最近頬が赤いように感じたからな。仕事のしすぎで体調を崩されても困る」

真面目な顔でそう告げるローグを前に、俺はなんとも言えない羞恥心に駆られた。

心配してくれて嬉しいやら、ローグの鈍感さに悲しいやら…。
よくわからない感情が渦巻くなか、あ、やっぱり俺ローグのこと好きだわ、なんて呑気な言葉が浮かんでくる。



「無理はするな。だが、マスターの仕事はしっかりこなせ」

休めといっているのか仕事をしろと言っているのかよくわからない言葉に、曖昧に頷く。
それを見たローグはなんだか呆れたように1回ため息をつくと、また俺に接近した。


「だから、近い近い近い…」

慌てて距離を取ろうと引いた腰に、ローグの腕が回る。そして俺は、そのままローグの胸元に引き寄せられた。

「ちょ、ローグ!?なにを………」

顔をあげようとしたその時、






「………………好きだ」


ちゅ………と軽いリップ音を額の辺りに感じる。


「ろ………………ぐ………………!?」

パニックになる俺にローグは悪戯っぽい笑顔を向けると、

「マスターとして頑張っている褒美と………………最近距離を取っている罰だ」

そう言い残して、立ち去ってしまった。




遅れて真っ赤になったであろう頬に手を当てると、俺はその場に踞る。



「あのバカ……気づいてたのかよ………!」




遠くなるアイツの後ろ姿を睨み付けながら、明日からさらに意識してしまう予感がした。








………………………………………………………………………………………………………………


「可愛い奴………………」

一人呟き、くつり…と笑う。

気づいていた、自分とスティングとの距離、その理由。



「奥手すぎるな…」

普段の姿からは想像できない繊細さ。
………………かくなる上は。


「覚悟しておけよ…?」

真っ赤になったスティングの顔を思い浮かべながら、俺は目を細めた。







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あきゅろす。
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