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頑張る君が(影白)
いつのまにか眠っていたようだ。
スティングは机から顔をあげ、ぼんやりと思った。
最近マスターとしての仕事が増え、休む暇もなく働き詰め。知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたのだろう。少し眠ったことで大分楽になった気がする。
(ローグにどやされる前に仕事、終わらせねぇと…)
そう思い体を起こす。すると肩からなにかがずり落ちる感覚がした。
なんだろう、と振り返ってみれば落ちていたのは黒いマントーーーローグのだ。
来てたのかよ…とぼそり呟く。
「起こしてくれてよかったのに…あのバカローグ」
「……誰がバカだ、バカスティング」
突如降ってきた声に、スティングは「ひっ」と情けない叫び声をあげた。
「ろ、ローグ…さん」
ゆらり、とそれこそまるで影のようにたっている相棒に、スティングはひきつった笑いを浮かべる。
「……人が労ってやったものを……」
ローグは呆れたように溜め息をついた。
「いや、だってさぁ……仕事残ってんだから、寝かしてくれなくてよかったんだって」
スティングは苦笑混じりに机の上を見回し、はた、と気づく。
あれだけ山積みだった仕事(主に始末書)がなくなっている。
小首を傾げるスティングの姿に、耐えられないといった体で笑いを溢したのはローグ。
「スティング……ふっ……」
「なっ、なんだよ!笑うな!」
頬を赤くしながら睨み付けるも、ローグは小刻みに震えるだけ。
ーーー1発殴ってやろうか。
そう考え、ふと止める。
「……なあローグ」
「……なんだ」
「ローグが、やってくれたのか?」
そう問うと、ローグは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「……さぁな。仕事を頑張る新米マスターへの神様からのプレゼントじゃないかな」
「…はは、なんだそれ」
「…いいだろう?そういうのもたまには」
ローグは緩く笑うと、スティングの頭を撫でた。
「お疲れ様…だな」
「……ん、サンキュー」
擽ったさに目を細めながら笑うと、ローグの手が頬に伸びる。
そして頬をひと撫ですると、後頭部に手を回し引き寄せた。
「………………んっ」
唇が触れる。
そこから伝わる熱に、心が暖かくなる。
「……頑張っているからな…ご褒美だ」
柔らかな笑いを含んだ囁き声に、思わず抱きつく。
「…バカ、上から目線…」
「…少なくともヤるときには俺が主導権を握ってるからな」
「ば……!……変態」
「……ふっ、可愛いヤツめ」
ローグがぎゅっ、と抱き締めてやれば、スティングは体を預けてくる。
可愛い……などと思いながら髪にキスを落としていると、スティングがなんだか居心地悪そうに身じろいだ。
「どうした」
そうローグが問うと、スティングは顔を真っ赤にして俯いた。
なんだかわからず呆けていると、スティングは少し涙目になりながらローグに告げた。
「し、仕事……ないから、久しぶりに………………シたい……」
蚊の鳴くような声とはこの事だろう。聞きとれるかとれないか、ギリギリの大きさの声。しかし、滅竜魔導士の耳には拾うことなど簡単だ。
「……その言葉、後悔するなよ」
ニヤリ、と口角をあげたローグにスティングは頷くと、どちらともなくキスを交わした。
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