Novel 11+12【欲張りな僕は生まれ変わる】 「退屈だなぁ。」 天空から地上を見下ろす事の出来る泉を覗き込む。飽きもせず戦争を繰り返す人間を見て、その代わり映えしない光景にため息をついた。僕が生まれて数百年しか経っていないけど、人間からしたらかなりの年月だろう…。そんなに長い間、同じ事を繰り返していてよくまぁ飽きないものだ。この戦争を始めた首謀者を殺したところで簡単に収束しないのはわかっているけれど…、"神"って、退屈な役回りなんだよね。 「それっ」 下界に雨を降らせ、首謀者目掛けて雷を落とす。雷が見事に命中したのを確認すると、退屈だった心がスッと軽くなるのを感じた。 僕は神だ。天界に生まれて、この世界を管理している……のだけど、人間よりも"力"があるから大抵の事を意のままにできてしまって(全てとはいかないけど)…物凄く退屈している。…いや、神にはそれぞれ司るものがあり、人間達の模範となるよう振る舞わなくてはならないから、普通は常に規律ある態度でいる事が望ましいのだけど…。僕が司っているのは"努力"。目的の為に、気を抜かず力を尽くして励む事が求められる。…でも、大抵の事を出来てしまう神にとっての"努力"とはなんだろう。目的とはなんだ?何を励めばよいというのか…?そう考えているうちに、僕はすっかり"怠惰"となってしまった。 「はぁ…」 「…エフォーティア。」 「……なんですか、レイラ。」 「やれやれ…、まったくお前は…。人間は暇潰しに殺す玩具ではないと教えた筈だが?」 泉の横の草むらで横になっていると、そこに一人の神がやってきた。明るい茶色の髪に、無駄に整った顔…。彼こそ、今の僕に相応しい"怠惰"を司る神・レイラだった。怠惰を司っているにも関わらず、努力を怠らずにいる彼は、ある意味僕と同じに職務怠慢である。僕より千年程早くに生まれたからと、ことあるごとに説教をしてくるから気に食わない…。 「…暇を潰す"努力"をしているんです。貴方のように"怠惰"を怠惰しているよりもマシというものでしょう。」 「あのなぁ…。いいかエフォーティア、怠惰とは怠ける事だ。向上心を持たず努力しない事を指す。つまりそこに"努力"というものがあってこその"怠惰"であってだな…」 「あー、はいはい、わかりましたわかりました。」 長い襟足を指先で弄びながら、僕はレイラを軽くあしらった。 「はあー…。なんでも出来る、って…なんてつまらないんだろう。」 僕は寝返りを打ちながら、柔らかい風に促されるように目を閉じる。もし命が尽きて生まれ変われるとしたら…、次は無力な存在になってみたいものだ。そうすれば努力の意味もわかるかもしれない。…なんて、まだまだ若い僕にそんな話は無意味か、な。 天界に住む毒蠍が足元に潜んでいた事にも気付かず、僕は眠りについた。 ガシャンッ 「ASー012はもう使い物にはならないな。」 「うむ…、感情のプログラムは中々上手くいったのだが…。」 「しかし、次は身体の構造を強化して感情プログラムを組み込めば、ついに完成も目前…という事ですよ!」 「ああ、そうだな。完成は近いぞ!」 「よし、気持ちを切り替えよう。宮地君、ASー012を廃棄庫へ頼むよ。」 「了解しました。」 ある研究所の一室。鉛色の床に落ちた自分の右腕を見つめていたら、研究者達の身勝手な声が音声データとして僕の中核に送り込まれてきた。僕は感情を作り出す研究の一環の中で生まれたロボットの一つ…、…いや、まさに今"失敗作"の一つとなった。 僕は知っている。失敗作は捨てられる事を。 僕は"知っている"、捨てられる事が"悲しい"事であると。 "悲しい"とは、辛かったりして泣きたくなる(僕は泣けないけれど)ようなものだ。でも僕は、"悲しい"事から逃れる為に自ら動く(逃げる)事を"恐怖"している。何故なら、徒に動いては今以上に身体が壊れる可能性があるからだ。"恐怖"とは僕の身体を動かなくさせるものだ。だから大人しく廃棄庫に運ばれる。"悲しい"という"恐怖"に近付いているのに動けないなんて、感情というのはつくづく難しい。 「ASー012…動かなくなったが、どうした?」 若い研究員である宮地龍之介が、僕を大きめの台車に乗せて廊下を歩く。僕は破壊の"恐怖"から、廃棄庫に自ら動く事もできなくなってしまった。彼の押す台車の振動は"心地好い"もので、"優しさ"を感じているような気がした。 「破壊ハ…右腕ダケデ十分デス。セメテ最期クライハ綺麗ニ終ワリタイ。」 「お前…本当に人間臭くなったな…。」 「人間…、…ソウデスカ?"感情"ノ定義ヤ当テ嵌マル状況、アル程度ノ応用性ハ分カッテモ、人間ノ様ニ複雑ニ絡ミ合ッタ感情ノ理解ハマダ出来マセン。」 「複雑…?例えばなんだ?」 「僕ハ今、廃棄ニ対シテ"悲シイ""怖イ"ト感ジテイマス。ソシテ僕ハ、廃棄カラ逃レルニハ逃ゲテシマエバイイト知ッテイマス。シカシ身体ノ破壊ノ恐レヲ考エルト、目前ノ"恐怖"ニ囚ワレテシマイ後アトカラヤッテクル、ヨリ大キナ"恐怖"ヘノ対応ガ出来ナクナッテシマウノデス。」 「成る程、確かに目の前の事に囚われて動けなくなってしまう…というのはあるな。後に、より大きな代償が待っていても、だ。」 「デモ人間ナラ、ソノ"恐怖"ヲ乗リ越エテ行動スル事ガ可能デス。何故、乗リ越エラレルノカガ分カラナイ。」 宮地龍之介は「ふむ」と考える素振りを見せる。現在地から廃棄庫への距離、台車の進む速度から計算すると、もう時間は残されていない。宮地龍之介は僕に答えをくれるだろうか…?せめてそれを知ってから…捨てられたい。 僕は無力だ。廃棄庫に入ると自動的に、行動が制限される機能が起動し、もう自分の意思では動けなくなってしまう。話し相手を作る事も出来ない為、自力ではこの問題は解決できないのだ。 新しい見解を分析しながら最終処分を待つのもいいかもしれないしね…。 「ASー012、お前、"愛"は分かるか?」 「ハイ。僕ノ中ニモ、"愛"ノデータガアル。」 「俺にもよくわからんが、愛があると、人間は時に大きな力を発揮するらしい。」 「……今、人間ガ作ッタ映画ノデータヲ参照シマシタ。確カニ、愛ニヨリ得ルモノガアルト言エマス。」 「む…。」 「ソレガアレバ、計算上ハ僕ハ"恐怖"ヲ乗リ越エラレルカモシレナイ。デモ、僕ハ"愛"ガ分カラナイ。 ソモソモ、ココデ足掻イタトコロデ何ニモナラナイ事ヲ僕ハ知ッテイル。ソシテ…モウコノ話ハ無駄カモシレマセン。」 廃棄庫の大きな扉を視覚機能が捉える。不思議と、この宮地龍之介と話す時間は"楽しかった"。 「無駄、か…。 …俺は、この世に無駄なものは無いと考えている。」 廃棄庫の扉を開きながら述べる様には、どこか矛盾を感じる。何故なら、僕は「無駄なもの」となったから捨てられるのだ。…そんな僕の考えを悟ったのか、宮地龍之介はこちらに目を向けて苦笑する。 「お前の事だ、もう自分の存在を"無駄"だなんて感じたんじゃないか?」 「ハイ。」 「俺はそうは思わん。お前というものがあるから、俺達はより発展的な研究を続けられる。お前が廃棄される事になってから捨てられるまで、というこの短い間にも、お前は実に興味深い事を俺に示してくれた。」 この扉を越え、廃棄庫内部へ通じているベルトコンベアーに乗ると…センサーにより僕は動けなくなる。僕に残された自由は、残り数メートルだけだった。 この距離なら、歩いても壊れないかな。 僕は良い乗り心地だった台車を降りて、"恐る恐る"立ち上がる。 「宮地龍之介。」 「ん…?」 「貴方ハ、何故研究ヲスル?」 「……興味、…好奇心。…分かりやすく言うなら、"好き"だから…か。」 「"好き"…、…"愛"ニ近イ言葉。」 「俺はどうも感情云々の微妙な変化に疎くてな。感情の"データ"を知りたかったんだ。…だが、お前が計算しても分からない事が沢山あるんだ。感情っていうのは、本当に難しいものなのだろうな。」 「難シイ。分カラナイ。貴方ガ言ウ"好き"ハ僕ガ知ル"愛"デハナイ。」 「それでも、"好き"なんだ。…難しいな。同じ言葉でも、意味は大きく異なる。」 「……。」 「さあ、もう行け。此処で悩んでも結論は出ないぞ。お前よりも長い間"感情"について考えている俺ですらわからないんだ。」 促され、僕は右足を踏み出す。 「ナンテ無力ナンダロウ。」 次いで、左足。もげる心配はなさそうだ。 「少シ壊レタダケデ、捨テラレルナンテ。」 もう一度右足を踏み出す。 「僕モ、マダマダ感情ニツイテ考エテイタカッタ。」 「…そうか。」 ベルトコンベアーの手前で、一度立ち止まる。 「……そうだな。」 ああ、たかがロボット一台が処分されるだけなのに…何故貴方はここまで付き合ってくれるのですか?…これが"情け"だろうか。研究所では中々感じる事の出来ない感情…。これは貴重だ。 「『また、会えますか?』」 「む?どこで覚えた、そんな言葉。 「"愛"ニ結バレタ人々ハ、コノ言葉ヲ交ワシテ"悲しみ"ヲ柔ラゲルトイイマス。…ダカラ僕ハ、貴方ニコノ言葉ヲ送リタイ。」 「……悲しいのか。」 「…"悲しい"トイウ事ハ"分かる"。」 「そうか…。」 「……『また、会えますか?』」 「おいおい、あんまり繰り返し使うものでもないぞ?くくっ」 「? コノ言葉ニハ笑イヲ起コス効果モ…!」 「無い。無いからな。」 「デハ何故笑ッタノデスカ……。人間ハ不思議過ギル。」 疑問は増えたけど、宮地龍之介の笑顔を見たら"悲しみ"が薄らいだような"気がした"。よくは分からないけど、"また会えたらいい"とは思う。 「次は、お前の努力が報われる事を祈る。」 僕はベルトコンベアーに足を踏み込んだ。 「はあっ…はあ……」 やれやれ、寝坊するなんて…休日だからって気が抜けてたなぁ…。お陰で、真夏の昼間にロードワークをやる羽目になってしまった。普段と同じ量でも、昼間に走るのは流石に息が切れる。 「ふうー…」 さてと、今日はやるべき課題も無いし…弓道場に行って自主練でもしようかな?周りには気付かれていないようだけど、ブランクがあるから納得のいく弓が中々引けない時がある。やはり何度も弓を引いて感覚を取り戻すしかないわけで…、宮地先輩の言葉を借りるなら、努力は人を裏切らない、というやつ。悔しいけど、これにつきる場合もある。うん、悔しいけど。 弓道場には、当然だけど誰もいない。僕は着替えて黙々と弓を引き始めた。 そういえば今日、変な夢を見た気がする。懐かしいさでいっぱい、という感じだったけど…なんだっけ? 「あ、そうだ。蠍に刺されたんだ。」 的の真ん中に矢が命中したのと同時に、ふと夢の一場面を思い出す。そして蠍といえば、蠍座の宮地先輩も浮かんでくる。…恨めしい、なんちゃって。でも僕…生まれて此の方蠍に刺された事なんてないのに、なんで懐かしいんだろう。 「まあ、夢は夢だよね。」 茹だるような暑さを裂く様に、僕は矢を放った。 END や…、思い付いて突発的に数時間でバーッと書いたらなんだこれ意味わかんねぇ!笑 神(なんでも出来るからつまんない) ↓ ロボット(無力過ぎて何もできない) ↓ 人間(元々の素質も勿論だけど、努力故の天才) …的に、生まれ変わっていくうちにちょうどいい感じになれた、と?ww 「エフォーティア(梓)」と「レイラ(龍之介)」は造語です神様ごめんなさいw; それぞれ、努力と怠惰を意味します。 神様になっても龍之介が龍之介過ぎる…ブツブツ 「ASー012(エーエスートウェルブ)」は、単純に梓(A)・スタスカ(S)ー射手座の12月(012)←単純過ぎ 作中では、12体目のロボットの意味で、"AS"は深い意味はありませんw うた○リの藍ちゃんを彷彿とさせるパクりのような設定で面目ないです…(書いてから気付いた←) そして前世?を夢にみた梓…。 2013.8.18 前へ*次へ# [戻る] |