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Novel
03*04【吸血鬼】【上】
玲さんにネタを頂きました┌(┌^o^)┐
吸血鬼モノです。時代は…、……昔(アバウト過ぎる!)。哉太が吸血鬼。
痩せてて色白とか、吸血鬼の特徴にピッタリですなぁ…^P^ww


















透き通るような肌と髪、そしてあらゆるものを魅了する為だけにあるような美しさを持つ双眸。身体の線は細く、儚げなオーラを纏っている。だがその美しさを閉じ込めるように、彼は銀の檻に幽閉されていた。
冷たい石の床、壁…。地下にあるこの牢には窓など無く、古ぼけたランプが一つあるだけだった。しかしランプはその身に光を灯さず、哉太は冷たい壁に寄り掛かり静かに時が流れるのを待っていた。
霧になって逃げようともしたが、元々苦手な銀に加え格子の一本一本には呪文が彫られており、格子間を覆う特殊な結界によって脱出する事ができない。呪文は"吸血鬼"である事に反応するのではなく"哉太自身"に反応するように刻まれているらしく、どんなに姿を変えようと無意味だった。


「………腹減ったー…」


ちょっとしたミスだった。灰色の髪をした、凛々しい男。普段通り、吸血鬼である自分の美貌に釣られる獲物を待っていればよかったものを、何故か彼にはふらりと揺らいでしまったのだ。太陽という餌から顔を背けた向日葵が、影の背徳に溺れ枯れていくように。一人の人間に魅了された吸血鬼は、餌にするには神聖で危険なものに囚われた。
彼―一樹は幼い頃この村の教会に預けられ、育った青年である。数日前の夜、一樹を見掛けた哉太は人間のふりをして彼に近付いたのだが吸血鬼であると気付かれてしまい、結果地下牢に閉じ込められてしまった。…そこが妙なのである。教会で育った人間であるなら、哉太を殺してしまう事もできたはずだ。それなのに何故生かしたままなのか?哉太は一樹の心中も知りたいと思い、容姿だけでなく、ますます虜になっていった。しかしその一樹は、哉太を捕えて以来この地下牢に姿を現していない。


「………ん?」


何度目かの欠伸をしたその時、普段は物音一つしない地下牢に微かな音が聞こえた。近付いて来るのはどうやら足音のようで、哉太は薄目を開けてそちらに目をやる。この牢一つしかない狭い地下への扉の前で、足音は止まる。そしてガチャリと鍵が開けられる音が響き、古びた扉がゆっくりと動いた。


「っと。ふーっ、やっと来れたぜ…。」


「貴方は…!」


扉を開けた人物は、地下牢に入ると急いで、しかし隠れるように静かに扉を閉めランプに火を灯す。暗闇の中に照らされた彼は、数日前に哉太を此処に閉じ込めた一樹当人だった。吸血鬼である哉太は視力が優れているためランプはあまり必要ないのだが、明かりが灯ったためより鮮明に一樹の姿を確認する事ができた。同性に惹かれるなんて、と思いもしたが、改めて見てもその端正な顔付きに心を鷲掴まれてしまう。


「悪かったな、別に放置しようとしてたワケじゃないんだが……。」


一樹は鍵を上着のポケットに押し込むと、檻の前にしゃがみまじまじと哉太を見つめた。


「…、…なんですか?」


「いや、別に?…やっぱキレーな顔してると思ってよ。吸血鬼が容姿端麗ってのは本当なんだなー」


「………」


なんだ…この人間は…。
哉太はまだ若い吸血鬼だが、それでも何十年と年を重ねている。今までの記憶では、教会の人間というのは真っ先に自分達を殺そうとしてくる存在であった。だが目の前にいるこの男は、無抵抗な自分に傷一つ負わせないどころかのんびりと観察をしているだけで、直接何をしてくるわけでもない。やはり、謎だった。


「お前、名前は?俺は不知火一樹だ。」


「…哉太」


「へぇ、哉太っていうのか…。
あーあんま警戒しなくていいからな?俺は餓鬼の頃にこの教会に引き取られたってだけで、神がどうとか……ぶっちゃけ信じてないんだよ」


「はっ、仮にも教会の人間が…敵にそんな事言っていいんですか?」


どこか逸る気持ちを隠すように、哉太が呆れた様に溜息混じりに返すと、一樹ははははっ、と軽く笑った。


「敵かどうかは、自分で決める。」


「……神なんて信じなそうなタイプですね」


「お前はどうだ?」


「さあ?鬼がいるなら神がいてもおかしくないとは思いますけどね。」


「成る程、一理あるな。」


人間など今まではただの餌としてしか見ていなかったのに、哉太は夢中になって一樹と会話をしていた。普段人間を堕とす時の癖で口調は敬語のままでも、会話を続けるうちにいつしか親しみの色が滲む。檻には近付かず相変わらず壁に寄り掛かっているだけだったが、瞳はどこか生き生きとした光を持った。
話していて、何故数日前に自分が殺されていなかったのか哉太は何と無く合点がいく。単純に、自分が一樹を攻撃しなかったからだろう。極めて単純だが、それは逆に物事を正しく見る素質を持ち合わせているともいえる。"吸血鬼"としてだけではない"個"としての哉太を見たという事は、互いに理解し合う機会を持てたという事だ。しかし一樹一人がどう思おうと、吸血鬼と人間とは根本的に相容れない存在である。食糧となる生き物と、手を取り合い生きていく方が無理な話だ。
それでもやはり、哉太は一樹への関心が高まるのを止められない。


「やっぱり…貴方は面白いな」


「ん?」


「"カミサマ"の手先かと思えば、俺を殺そうともしないで呑気に雑談…。普通じゃ考えられないですしね。
…………なんで…俺を捕まえた?」


哉太は、牢に閉じ込められてからの最大の疑問を口にした。それに加え、一樹が先程地下牢に入ってくる時の動作も気掛かりである。"捕らえた吸血鬼の見回り"なら、何故隠れるようにする必要があるのか?
一樹はランプの明かりを背にどこか悪戯っぽく笑うと、「やっぱ気になるよな」と頷いた。


「……お前ら吸血鬼の、人間を魅了する力にまんまとやられちまったのさ」


「…え……?」


どこか愛おしむように呪文の刻まれた格子をなぞりながら、一樹はちらりと哉太を見遣る。そしてうっとりと呟かれた言葉に、哉太は思わず声を詰まらせた。


「お前……ホント綺麗だよな」


「なっ…!」


「ん、何赤くなってんだ?
……へぇ…吸血鬼も照れるんだなー」


「べっ、…別になんでも…。……ランプの色ですよ」


綺麗だのなんだの、今まで飽きる程に人間の女に言われてきたが、今まではどんなに讃美を受けようと何も感じなかった。その筈なのに、目の前の男の囁きに…不覚にも心臓が跳ねてしまう。
お、落ち着け…!
哉太は自分に言い聞かせる。だが、頭では分かっていても一樹の言葉、行動の一つ一つに、今まで知らなかった心の高鳴りを覚える。反らした目の先でぎゅうと強く握り締められた手は、間違いなく高揚を表していた。


「お前を気絶させた後にじっくり顔見たらさ……、あまりにも綺麗なんで手放したくなくなった」


「ち、…ちょっと待って下さい。それじゃあ俺を檻に入れたのはまさか…」


「あぁ、俺の独断だ。」


普通は、吸血鬼は殺せって話なんだがな。
一樹がさらりと漏らした、自分が生かされ、牢に閉じ込められている理由。人間側からしたら裏切り行為とも取れる行動に、吸血鬼である哉太自身も目を丸くした。自分が一樹に惹かれたように一樹もまた自分に興味を示したなど、哉太は信じられなかった。しかしこれで一樹の不可解な行動にも、吸血鬼を隠しているのが他の人間に知られるのが不都合だからという説明がつく。銀の格子の結界も、単に一樹の欲から作られたものだったのだ。つくづく妙な人間に惹かれてしまったものだと、哉太は苦笑する。


「頭がおかしいんじゃないですか?吸血鬼を監禁なんて」


「ははっ、教会の人間なんて、皆どこかしらおかしいもんさ」


「ふっ…、本当に面白い………、……あ」


「ん?どうした、哉太」


言葉半ばに、哉太は腹が小さく鳴る音に顔を顰める。一樹との会話で忘れてしまっていたのだが、哉太は一樹に捕まって以来血を一滴も口にしていなかったのだ。腹が空くのも無理はなく、やれやれ、と哉太は溜息をついた。


「腹ぺこなんですよ……俺」


「あー…、そうか、ずっと閉じ込めてたもんなぁ」


肩を竦めて苦笑すると、一樹は顎に手を当てて尤もらしく頷く。そんな一樹に、哉太は冗談半分に「貴方が血をくれれば早いんですけどね」と歯を見せた。すると、


「おう、そのつもりだったからな」


と一樹がすんなりと了承したものだから、哉太は何度目とも知らぬ驚きに言葉を失った。


「は…!?」


「だから、最初からお前に血をやりに来たんだよ。腹減ってんだろ?」


「…………どういう事か、わかってるんですか…貴方は…」


仮にも聖職者が吸血鬼に自ら血を差し出すなど、背徳もいいところである。空腹に苦しむ吸血鬼を助けるのは、いよいよ人間への裏切りだ。


「好きでやってんだ、お前が気にするなよ。
………優しいんだな」


「っ、…そういうわけじゃないです」


「吸血鬼ってのは血も涙もない奴だ、っておじさんが言ってたけどよ。やっぱ自分で確かめなきゃわからない事もあるよな」


流石に首筋はまずいと思ったのか、一樹はシャツの袖を捲り白い左腕を檻の中に突き入れた。哉太は一樹が人間達の中で不利に追い込まれるのではと危惧したが、美味そうな肌を見せ付けられては、空腹も相俟って余裕がなくなってしまう。


「……っ」


ごくり。寄り掛かっていた壁から背を離し、久々の餌に喉がなった。痩せた身体を起こしふらりと格子に近寄ると、一樹に合わせてそっと床に膝をつく。今までに喰ってきた女の細腕とは違う、魔物との戦いの中でついたしなかやな筋肉は、肉を喰らわない哉太でさえもかぶりつきたくなるような芳香を感じさせた。人間に恵まれるという屈辱的状況にも関わらず、哉太はじんわりと満たされる。


「噛んだら、…万一の時に怪しまれますから……。…ナイフでもあったら……」


「そうだな」


本当はそんな事など無視して、この差し出された腕に噛み付きたかった。牙を立て、溢れる血を吸い尽くしたい…!だが、この人にそれをしてはならないと、哉太の中で小さな想いが芽生えていた。
受け取ったナイフを、一樹の腕の内側に当てる。


「……あの」


「なんだ?気にしないで切っちまっていいぞ」


「いや、そうじゃなくて…。俺達に血を吸われるとどうなるか、って」


「?」


「……知らないならいいです。」


吸血鬼に血を吸われると性的な快楽がある、という事をどうやら一樹は知らないらしい。
まあ、聖職者様が快感云々とか言ってられねーよな。
牙を立てるのではない為どうなるかはわからないが、一樹の快楽に歪んだ顔を想像するだけで身体が熱くなる。哉太は舌なめずりをすると、刃で一樹の腕を切り裂いた。


「ぐっ…!!」


加減はしたつもりだが元々力の強い吸血鬼が人間の腕を裂くとなると深手を覚悟しなければならないようで、真一文字にパックリと切れた肉から次から次へと赤黒い血が溢れてきた。


「っと、勿体ねぇ…」


ナイフを放り、血の一滴も零さないようすかさず傷口へと吸い付く。腕を切るなど今までに試した事のない"食事"の方法だが、嚥下する度に舌先が割れた傷口に触れる柔らかい感触に食欲をそそられる。


「んっ…」


「っあ、く!うぁっ、…な、なん…だよ……コレ…ッ」


じゅるっと血を吸い上げると、一樹は声を上げて悶えた。直接牙を突き立てるには及ばずとも吸血にはやはり快感が伴うらしく、予想だにしていなかった一樹はビクビクと身体を震わせる。


「きもち、いぃ……ですか…?」


「ひ、…ぃ!」


腕が逃げないようにがっちりと固定し、血を啜りながらちらりと上目に一樹を見る。先程までの凛とした眼差しは、不意に襲ってきた快感に濡れていた。


「っ、くそ…!」


「はう、あ、あぁ…!かなた…ッ……んん!」


「あまり可愛い声を出さないで下さい…っ、……噛みたくなる…!」


哉太は吸血鬼としてはまだ若い。若い故に、自制心が弱い事を知っていた。今すぐに噛み付きたい、噛み付いて、身体の深くを流れる新鮮で甘い血を堪能したい。その欲求は喉が潤えば潤う程に膨れ上がり、ついに哉太は耐え切れなくなった。


「……!」


血に濡れた牙を腕に突き立てそうになった刹那、哉太は慌てて傷から口を離した。幾分緩やかになった出血を見て、「すみません」と小さく謝る。


「ぁ……っ、かな、た…?」


「っすみません…、今治しますから」


熱に浮されたようにとろんとした一樹の目に、哉太はうっと呻く。
簡単な傷の回復術なら、哉太はお手の物だった。手の平でそっと傷口を撫でると、うっすらとした痕を残して傷はあっという間に癒えてしまう。その鮮やかさに、ぼうっと熱っぽく呼吸していた一樹がハッと我に返った。


「あ…!」


そして自分の痴態を思い出し見る見る頬を朱色に染めると、気恥ずかしそうに腕を引っ込めてしまう。


「き、傷…サンキュー」


「大丈夫ですか?」


「…あぁ……。………凄かった」


捲っていた袖を戻し頬を掻きながらぼそぼそと返す一樹に、哉太はぷっと吹き出した。気丈な態度が赤面の下に潜ってしまった可愛らしさも宛ら、子供のような簡単な感想にも笑ってしまう。


「ふっ、あはははっ」


「おい!何笑ってんだよ!
くっそ……吸血があんななんて知らなかった…!」


「ははは…っ あー…久々に笑った…。
そういえば、貴方の年齢は…?」


「あぁ、19だけど。」


「成る程………、道理で血が美味いわけだな…」


若い人間程、血液は生命力に溢れていて美味い。腕でも夢中になる程の味なのだから、首筋から吸えばより甘美なのだろう…。しかし再び、それはしてはならないと、哉太の中で一際強く声がした。


















落ち着いた頃、一樹は「また来る」と言って地下牢を後にした。


「……」


自分の年齢を知った瞬間、あの吸血鬼は一樹を視覚からも食すかのように目を輝かせた。その瞳に臆さなかったと言えば嘘になる。だが恐怖だけでなくどこか高揚する気持ちも湧いたのもまた事実だった。


「アイツ………」


血を啜られる快感の中、一樹は哉太が自分に牙を立てるのを必死に抑えていたのを見た。"餌"が餌の仲間にどう扱われようが、彼には関係ないはずなのにだ。自分がいなくなれば結界も解かれ、自由になれる。それでも一樹を優先させたのは何故なのか。


「…哉太、か。」


治った傷を服の上から押さえながら、一樹は不思議な吸血鬼の名前を呟いた。
地下牢からの階段を上がり、教会の中の隠し扉をそっと閉める。どこで誰が見ているかわからない為、一樹は慎重に慎重を重ねていた。
もしも見付かったら、自分も哉太もただでは済まない。それなのに、彼に固執する理由はなんなのか…。それはもう、単なる興味ではないと、一樹自身もどこかで感じていたのだった。















continue










2012.8.29

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あきゅろす。
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