Novel ★モブ12【痴漢】 電車に乗ってる梓 微裏くらい 久しぶりに電車に乗ろうと思ったら、運悪く遅延に巻き込まれてしまった。駅に着くと、遅れてきた電車に我先にと乗り込む乗客に押され、優先席付近に立っていた梓は車両連結部まで流された。 「…ッ」 扉と人とに押し潰され、息が詰まる。重々しく動き出す電車に揺られ、梓はやれやれと内心溜息をついた。 まったく、…ツイてないな。 サラリーマンが壁になり、身長が高くない梓は外の景色を満足に見る事も叶わない。諦めて目を閉じ、向かおうとしている都心での用事をのんびりと思い出して時間を潰した。 ガタン、ガタンという電車の音も、寮生活をしている梓にとっては随分久しいものだ。子供の頃は翼の手を引いて電車に乗せてたっけ、と過去を懐かしんでいた。 と、その時。太股に触れられているような感覚があり、扉に寄り掛かっていた梓はちらりと目を開けた。 「………」 手の甲が、梓の反応を確かめるようにゆっくりと動いている。万が一「痴漢です」などと声を上げられても「混雑で触れてしまっただけだ」という言い訳の為のように、その動きはさりげない。 ……またか。 梓は大して動揺せずに、面倒臭そうに眉間にしわを寄せた。今まで、梓を女子と勘違いして痴漢をしてくる男が何人もいたため、扱いには慣れたものだった。早く身長伸びないかな、と思いながら、触ってくる手首を思い切り掴んだ。そして「やめてくれませんか?」と低い声で唸れば、大抵の痴漢は間違いに気付き慌てて手を引く。梓は今までと同じように、じとりと目の前の男を睨みつけながら口を開いた。 「…やめてくれませんか」 「おや…驚いた、男の子だったのか」 「………ッ!」 どこにでもいそうなサラリーマン…、だがこの男は大して驚いた様子を見せないどころか、梓の手を引きはがし手首を返して太股を撫でさすってきた。男とわかっていながら触ってくる、そんな痴漢に遭った事がなかった梓は、柄にもなく焦りの表情をあらわにした。痴漢は梓に密着し、扉と身体で動きを封じてしまうと、クツクツと小さく笑う。 「おじさんは男の子も好きでねぇ…君みたいな子は特に好みだよ。」 「な…っ!?」 「あと五駅で降りるから、それまで付き合ってね…?」 その言葉に驚愕する。だが梓は、怯んでされるがままになるのは御免だった。 声を上げるのが恥ずかしいとか、そういう問題じゃない…! この満員電車で声を上げれば、いくら他者に無関心な人が多いとしても、いくらかは反応を示すはずだ。梓は「痴漢です」と声を上げる事に恥じらいはない。寧ろ躊躇し、流される方が恥ずかしいと思っている。 痴漢に掴まれている手に力を込め、梓は息を吸う。そして、目の前の男が痴漢であると声を上げようとしたのだが、男がそれを許すはずもなく、太股を撫でていた手がすかさず梓の口元を覆った。 「ぅ、…!」 「おっと、危ない」 「…っ……」 「いい目だね…、堕とし甲斐があるよ」 そして意識が逸れたところに両足の間に男の膝を割り入れられ、梓はいよいよ身動きが出来なくなる。男は梓の反応から、焦らすよりもさっさと手を出した方が良いと判断したらしい。太ももを股間に擦りつけるようにゆっくりと動かすと、驚きにまた声を上げようとする梓の口を更に強く塞いだ。 「……っ、ぅ、ぅぅ…!」 「本当に男の子みたいだね…、ふふ、可愛いよ」 他の乗客に聞かれないよう、男は梓の耳元で囁く。痴漢をしてくるような下卑た男の囁きなど気持ち悪くて仕様がなく、首を捻りなんとか逃げようとしるのだが、それでもすぐにその唇に捕まり耳のふちを舐められる。 「ひ……ッ」 幾分荒い呼吸、熱を持った舌…そして股間に伸びてきた手が、梓に"痴漢されている"のだという意識を改めて鮮明に伝えた。いつもならすぐに手を引っ込めさせていたのにこんな事は未経験で、梓は足元からじわじわと恐怖が沸いて来るのを感じた。一体何をされてしまうのかという恐怖は梓の抵抗を弱め、男はそれを敏感に感じ取ったようである。梓の口を塞いでいた手をそっと離すと、耳たぶを甘噛みしながら言った。 「そうそう…。大人しくさえしてれば、酷い事はしないから」 「ッ……!」 股間にあった手はゆっくりと動き出し、手の平で陰茎を上下に撫でる。誰かに触られた事などない梓はその感覚を無視する事が出来ず、男の手の動きに不器にも集中してしまう。力ずくでなくじわじわと快感を引き出すような手の動きと、それでいて時折強く押し上げるように指先で刺激され、梓は不覚にも息を詰めた。 「…っ、く、ぅ………」 舌先でつぅ…と耳のふちを舐めてくるが、梓が極力嫌悪感を抱かぬように耳に舌を捩込んではこない。相手が痴漢に慣れているとはわかるよしもない梓は、ただ感覚を甘受するしかなかった。 「電車の中でこんな事されてるのに……、…勃ってきてるよ」 「…ぁ、……!」 耳に軽いキスを受け釣られるように小さな声が漏れてしまい、梓は慌てて口を閉じた。今まで撫でるだけだった手が、今度は握り込むような手つきに変わる。上下に動かされる度に、ズボンの上からでもはっきりと分かる程に勃起した陰茎の形が生地に浮かび、梓は周りの乗客が自分を見てやしないか気になりだした。 なんで…っ、こんな……! 電車の中でこんな事をされているのに感じるなんて、まるで僕が変態みたいじゃないかと梓は悔しさに歯噛みする。顔が熱くなり、気持ち悪いだけだった筈の舌の感触すらも、ぞくぞくと身体を震わせてくる。最初抵抗していた手は、今は漏れそうになる吐息を抑える為に口を塞いでいた。 「っふ、ぅ……!〜〜ッ」 「ん?そんなにおじさんの手が気持ちいいのかな…?もうおちんちんぴくぴくしてるねぇ…」 「も…っ、やめ……ろぉ…!」 「あと少し、あと少しね…。」 車内のアナウンスに耳を傾けると、あと二駅で男の降りる駅だと分かった。二駅我慢すれば解放されるのだという安堵の感情が湧き、梓は早く駅に着け、とひたすらに願う。…だが無理矢理高められた快感と熱がきゅう、と腰を切なくさせ、梓は思わず男の足を挟むように足に力を入れてしまった。男がそれに気をよくし、口角を上げるのに気付いた梓は慌てて足の力を緩めるが却って徒となってしまい、力の抜けた足の間に男は更に膝を入れ股間をぐりぐりと刺激してきた。 「っ、!!」 びくんっ、と身体が跳ねる。自分の身体がもう快感に負けてきてしまっているのかと思うと悔しく、梓はせめてもの抵抗として男を睨み上げた。 「くく、怖い怖い…。折角可愛い顔なんだから、もっとえっちな表情見せてよ」 「…ぁ、っ……うぅ…ッ」 陰茎を扱く力を加えられる。ぞくりとした痺れが腰からせりあがってきて、梓は必死に声を押さえ込んでいた。 だが、それも少しの事で、男は電車が停車する揺れに任せるようにしてあっさりと梓から身体を離すと、驚いたような顔をする梓に笑いかけた。 「はい、これでおしまい」 「……ぁ…」 気が付けば、既に最初男が言っていた駅に到着しており、不気味なまでにすんなり解放され、その呆気なさに梓はぽかん、と口を開ける。 「もしかして…もっとシて欲しかったのかな?」 「……!…気持ち悪い…っ」 「素直じゃないねぇ。ま、もしまた気持ち良くなりたかったら…また同じ電車に乗りなよ」 一方的に語り、閉まりそうになる扉に向かい歩き出す男の背中を見て、梓は急に疲労感に襲われた。中途半端な状態で投げ出された身体は、どうしてか"続き"を求めてしまう。だが梓は「有り得ない」と首を横に振る。自分はそんな浅ましい人間じゃない、何かの間違いだ、と。 深く溜息をついて、先程まで無理矢理押さえ付けられていた扉にもたれ掛かる。 電車…嫌だなぁ、と考えながら、梓は身体の熱が治まるのを静かに待った。 end 2012.7.16 前へ*次へ# [戻る] |