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Novel
★07*04【66666企画:AKNK様リクエスト】
※現代パロ、誘拐、監禁

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★錫也:一樹のストーカー。一樹が登校の際に通る通りに部屋を借りてそこで毎日一樹を見てる。電話を掛けたりとか、追い掛けたりとか、直接的な行動は取っていない(怪しまれるので)。
★一樹:学生。同じ学年の誉に想いを寄せてる。ゲイではなく、誉の人の良さに惹かれて好きになった。誉にだったら抱かれてもいいと思ってる。
★誉:学生。一樹が好きで、一樹も自分の事を好きだと知っているが、性別の事を気にして中々踏み出せない。誰にも分け隔てなく穏やかで優しいが、一樹には殊更甘くスキンシップも多い。




















「…………」


朝の日差しが澄んだ空気を照らす。
十階建ての小綺麗なマンションの、道路沿いの四階の部屋の窓から錫也はいつものように道路を見下ろしていた。日課となったこの行為だが、今日は中身のない無意味な行動だった。毎日この窓の下を登下校の為に歩く一人の男子学生を、時には肉眼で、時には双眼鏡で、時にはカメラのレンズ越しに眺めていたのだが…今日は彼がこの道を通らないと分かっているからだ。しかし身体に染み付いた習慣というのは面白いもので、足は自然と窓際に向かう。


「…………はは」


つい、笑みが零れる。錫也はくるりと窓に背を向け、室内のベッドを目を三日月にして見つめた。
白いシーツのみが敷かれたベッドには毎日の観察の対象だった学生・不知火一樹が穏やかに眠っており、自分が誘拐された事などまるで知らない安らかな寝顔だった。
錫也は窓のカーテンを閉めると、口枷も手枷もない状態で眠り続ける一樹の元まで歩み寄る。昨夜、入念な計画の元遂に遂行した誘拐という行動だが、錫也は首枷以外の拘束具の類を一樹につけていなかった(首輪には長さ1m程の鎖が繋がれていて、ベッド冊にしっかりと固定されている)。窓の外を見られて場所を特定されてしまっては後々面倒になる。己の保身と、何より一樹の為に「此処は何処なのか」「自分は誰か」を気付かれてはいけないのだ。故に、ベッド上から移動する事を制限しなければならない…その為の拘束だった。そして手足でなく首輪で行動範囲を狭めたのは、この誘拐がただ監禁する事が目的ではないからである。
睡眠薬で眠らせた為、中々眠りから覚めない。錫也は個人情報を特定されるものが目に付く場所にないかを確認して暇を潰した。

そして小一時間程経った頃、一樹が身動いだ。ベッドに腰掛けて一樹を見つめていた錫也は、彼が瞼を上げて自分を見上げてくる過程をじっくりと観察していた。そして、きょとんとする一樹に声をかける。


「おはようございます」


「……誰だ?…っ、なんだコレ!?首輪ぁ!?」


にこりと微笑む錫也に首を傾げる一樹だったが、寝ぼけた頭は首輪とじゃらりと弛む鎖によって一気に覚醒した。慌てて身体を起こし枷を取ろうと躍起になるが、それを解く鍵はこの鎖の長さでは移動しても届かない場所に保管している為、一樹がどう足掻いても解く事はできない。
一樹が慌てる事も想定済みだった錫也は淡々とそう説明すると、鎖が固定してあるベッドの頭側に逃げた彼ににじり寄った。


「誰だ、…お前は」


「……貴方の事が好きで好きで堪らない男、と言っておきます。」


「は…!?何言ってんだよ俺は…」


「男、というのはわかっていますよ。貴方だって男が好きなくせに」


一樹が息を飲む。
名乗るわけにはいかない。顔が割れるのは仕方ないとしても、それ以外は知られてはならないのだ。
錫也は一樹の事を知っている。身長、体重、誕生日は勿論、毎日何を食べどんな音楽を聴き何時に寝て起きて一週間に何度の割合で"好きな男"を想って自慰をするのか。一樹が息を飲んだのは、自分が男だというのに男が好きである事を錫也が知っていたからだ。同性愛というのは軽蔑の対象になりやすく、だからこそ隠しておきたい。隠していたはずなのに、何故目の前の見ず知らずの男はそれを知っているのか?一樹はそれに驚愕した。


「なんで…それを…」


「金久保誉。」


「―――ッ!!!」


「成る程、いい人だと思いますよ?成績優秀、人柄もいい、プレッシャーに弱いところはあるけど責任感も強いし人望も厚い。」


ぺらぺらと片想いの相手について述べてやると、一樹はカッと顔を赤くして錫也を睨みつけた。
何故知っている。そういいたげな眼だ。
その眼を受け流し、錫也は続ける。


「貴方が彼を好きなように、彼も貴方が好きですよ。でも…男同士だからって踏み出せないなんて、…世間の目を気にするなんて………そんなの本当の愛なんですかね?」


「お前…誰だか知らないけどな、誉の事を悪く言うな!」


「っははは、すみません…。でも、それが現実ですよ。
……ところで、貴方は彼に抱かれたいんでしょう?」


再び一樹が息を飲む。図星か、と口角が上がるが…それも既に知っている事だった。錫也は一樹の鎖を引き顔を近付けると、苦々しげに睨みつけてくる一樹に微笑む。


「一樹さん、貴方は男同士のセックスを知らないからそう思えるんですよ」


「…な、……に…?」


「……………貴方を…金久保誉には渡さない…。」


地を這うような声で吐き出すと、錫也は一樹の服に手を掛けた。わざと、乱暴に。



















人の想いを変える事は難しい。しかも相手は、性別の壁を越えてでも愛し合いたいと思っている男なのだ。
錫也は一樹の恋慕の対象を自分に移行させようとか、そういう目的で彼を監禁しようとは考えていなかった。相手にとって自分は突然現れた見ず知らずの犯罪者……どう考えても誉から自分に恋情が移るとは思えない。むしろ、そんな簡単に移ろう心を持つような不知火一樹なら、錫也は好きにならなかったであろう。
しかし自分はこんなにも彼を好きなのに、自分だけ報われず彼等だけが幸せになるなんて不公平ではないか?矛盾がある事を認めながらも、こう思わずにはいられなかった。
…だったら、せめて一樹と金久保誉の仲を裂いてやる。恐怖心で、間接的に。
錫也の目的は、好きで好きで堪らない一樹を傷付ける事だった。
無理矢理服を剥ぎ取り用意していた荒縄で一樹の手首を後ろ手に縛り上げ、腰だけを掲げた格好で頭をベッドに押さえ付ける。拘束を解こうと手首を動かすがそうすると荒縄が皮膚に食い込み、摩擦でヒリヒリと痛んだ。


「クッ……!」


「一樹さん…、あぁ………綺麗だ…」


錫也にとっては夢にまで見た、一樹をこの手で捩じ伏せる光景。


「貴方は喧嘩をしませんから…、傷も無くて綺麗な肌ですね…」


細身のジーンズを履いた下半身は既に痛い程に張り詰めている。
一樹を傷付けるといっても、何も刃物で切り付けようとか肉体的に酷い傷痕を残そうというわけではなく、錫也はあくまで男同士のセックスをトラウマにしようというのだった。一樹を解放したのち、二人が付き合い出したとしてもなんら不思議ではない。誘拐という危機からの解放で想いを伝えやすい心理状況になるからだ。しかし恋人としての次の段階、つまりはセックスに至る時、それさえトラウマにしてしまえばいずれ必ず二人の関係に亀裂が入る。何もセックスが恋人関係を繋ぐ唯一ではないが、拒まれ続けて心に慈愛以外を抱かない事が果たして可能だろうか?
そうしてゆっくりと時間を掛けて壊れてしまえばいい、どんなに愛していても報われない苦痛を味わえばいい…錫也の考えは、つまりはこうだった。
付き合っている間にトラウマが癒えるかもしれない。恐怖を克服するかもしれない。その危惧もあったが、ならば簡単に癒せない程に傷付けてしまえば…。

錫也は手の平の部分に長さ3mm程の棘が無数に生えた、悍ましい革製の手袋を取り出すとそれを両手に嵌めた。素肌の一樹を堪能したい気持ちもあるが、今は"触れる"という行為の恐怖を刷り込む方が先決である。


「くっそ!外せ!!」


「一樹さん、約束をしましょうか」


「はあ!?」


棘の生えていない甲で一樹の尻を撫でながら錫也は一つ提案をした。


「いいですか?この空間での支配者は俺です。
一樹さんの首輪を外せるのも俺、食事だって俺が用意しなければ貴方は空腹に苦しむ事になる、…殺そうと思えば、いつでも殺せる」


「…ッ」


「俺は貴方が好きだ、……もう、愛なんて言葉では表現できないくらいに…!!だから、殺したくない。殺すつもりも無い」


「……」


「ねぇ、一樹さん…、約束は簡単な事です。
…俺の言う事を、拒まないこと。」


それが守れれば、この手袋は貴方を傷付ける事もないでしょう。
人差し指を曲げ、傷付けないよう背中を撫でる錫也は、一方的な約束を押し付けてにやりと笑う。一樹は苦虫を噛み潰したような表情をするが、目にはまだ反抗の光があった。誘拐犯の言うことなど誰が聞くものかと舌打ちをし、口を開く。


「ふざけん…っ、うあ゙ぁぁ!!」


しかし彼が言い終わる前に、突然襲ってきた痛みに言葉は途中で悲鳴へと変わった。無情にも錫也が、棘の生えた手の平の面で一樹の尻を打ったのだ。棘は皮膚に刺さりはしないが無数の点が激痛を残し、じんじんと肌が熱を持つ。


「あっ、…くうぅ……ッ」


「あぁぁ、可哀相に……一樹さん…」


心底嘆いているような声色で(いや実際錫也は心底嘆き悲しんでいるのだが)そう言う錫也に、自分を容赦なく叩いておいて何を言っているのかと一樹は眉間にしわを寄せた。だが痛みの中で、ふと思い付く。
もしかして、本当は傷付けたいわけじゃないのではないか。見たところ自分と大して年も変わらなそうなこの若者が、誘拐どころか強姦まで犯すだなんて、普通そんな事をするだろうか?
お人よしの部類に入る一樹は錫也の声色からそう考察し、事情でもあるのではないかと思い至る。そしてなんとか首を動かし、自分を見下ろしている錫也を見上げその表情から更に感情を読もうとしたのだが…一樹は錫也を見た刹那、寒気すら覚えて硬直した。


「な、に…笑って……!?」


こんなにもどす黒い笑みがあるのか、と、一樹はなんとも楽しそうに笑みを浮かべている錫也を見てゾッとした。錫也は、一樹をこの手で征服しようとしているのだという状況にたまらなく興奮していた。強気だった態度は痛みを与えた事により揺らぎ、引け腰になった身体は緊張に強張っている。毎日毎日毎日一樹を遠目に観察していた錫也にとって、本物の一樹が目の前にいる事だけでも嬉しくてたまらないというのに、一樹は今自分の事で頭が一杯なのだ。頬が緩まない方がどうかしている。


「一樹さん…痛い思いはしたくないでしょう?いや、痛くて悶えている一樹さんも勿論素敵なんですけどね……。」


「……」


駄目だ、コイツは……頭がおかしいんだ…!
一樹は錫也から目を逸らすと、クッと唇を噛み心の中で好きな彼の名を呼んだ。


誉……!























20分程過ぎた頃、既に一樹の尻や背中は手袋による平手打ちで赤く腫れていた。抵抗したり、悪態をついたり、その度に錫也は一樹を痛め付けた。流石に何度も激痛を食らい学習…否、無力感を覚えたのか、今錫也が手の平で引っ掻くように肌を撫でてもその口から暴言は吐かれない。しかし目は死んではいなかった。ヒリヒリとする皮膚を棘が擦る度にピクリと瞼が引き攣る。
錫也は左腕で身体を支えながら、幾分大人しくなった一樹にのしかかると、脇から右手を差し入れゆっくりと胸を撫で回した。


「……く…!」


「痛いですか?」


「……ッ」


分かりきっている事を聞く。しかし素直に痛いと言うのも癪に障るので一樹が黙っていると、錫也はふ、と笑い、乳首を人差し指で内側から外側へと強く弾いた。


「ぅああ゙ああっ!!!!」


ガリッと嫌な音共に反射的に背中が反り、その拍子に後ろ手に縛られた肩が無理に曲がり関節が軋む。錫也はそれを面白がるように、何度も何度も乳首を捏ねくり回した。指先で押し潰したり、親指と人差し指で挟んでぐにぐにと捻るとビクッビクッと一樹は痛みに跳ねる。


「く…ぅッ、…あ゙ああ!!」


歯を食いしばり痛みに堪えるが、それでも声を抑える事はできなかった。


「痛かったら、"痛い"って言ってもらえればすぐに止めますから…遠慮なく言ってくださいね?」


「あ、ぐぁ……ッ、く…!」


痛い事をわかっていながら、敢えて一樹に泣き言を言わせるための"道"を示す。棘が敏感な乳首に刺さる痛みを止めるには錫也に懇願しなければならない。それは一樹にとって非常に屈辱的な事だった。


「うっ、く……誰が、ぁ、あ…!」


「………言う気はありませんか。いいですよ、それでも」


手の平全体で平らな胸を揉み、棘に引っ掛かる乳首の感触を楽しむ。触る事で勃ち上がってしまったが、そこは快感を拾う事もなく余計に赤く痛んだ。
錫也は左手で一樹の腰を撫で、そして肌を引っ掻きながら腹側に手を滑らせ萎えている陰茎を掴むと、ギョッとしたように息を飲む一樹を見下ろして笑った。


「やっ、やめろ!」


こんな悍ましい手袋をした手で濡れてもいない自身に触れられ、扱かれでもさたら一体どれ程の激痛に襲われるのか…一樹は考えたくもなかった。錫也は乳首を弄るのをやめ一樹の髪の毛を乱暴に掴むと、無理矢理に頭を上げさせる。


「っ、ぐ……!」


痛みと苦しみに呻く一樹に、ぞくりと腰が疼く。


「どうしましょうか、一樹さん。俺は一樹さんのをいっぱいいっぱい扱きたいんです。でも萎えたままだなんて………、乳首はあまり感じませんでしたか?」


「気、持ち悪い事…っ、言ってんじゃね、…ッ!?」


「反抗的ですね…」


「くっ、…!やめッ、あ!ああああ!!!!」


錫也がゆっくりと左手を動かすと、薄い皮膚に引っ掛かる棘の痛みに声が上がった。力強く握られていない事が一樹にとっては不幸中の幸いであったが、いつ気が変わるかも知れない錫也の恐ろしさに冷や汗が伝う。
錫也は右手を伸ばし、予め傍に置いておいたローションの容器を取り片手で器用にキャップを開けた。目だけを動かし、ローションが錫也の手にある事を視認した一樹は「な…っ!?」と声を漏らし目を見開く。男同士のセックスのやり方だけは知っている一樹は、錫也がローションを取り出した事に一気に緊張が高まった。
―――――逃げたい
逃げたい、逃げ出したい、…しかし陰茎は手袋を嵌めている左手に握られており、下手に動いては自分に不利であると利口な一樹はしっかりわかっている。だが、そうだとわかっていても、易々と身体を許すわけにはいかなかった。


「や、めろ…!」


「……」


容器を傾けローションを尻に垂らしながら、錫也は無言で左手に力を込める。少しずつ手をスライドさせると一樹は呻くが、それでも彼は言葉を続けた。


「あっ、ぐぅぅ…!はぁっ、はぁ…ッ、お前なんか、とは…ヤりたくねぇ!!」


「お前なんかとは、ね。金久保誉だったらいいんですか?」


一旦陰茎から左手を離し、その手の平にもローションを垂らす。錫也の問いに一樹は答えないが、聞かずとも答えは分かっている。錫也はローションに濡れた左手で一樹の尻を撫でながら、自嘲気味に笑った。


「悲しいですよ、一樹さん…。俺は金久保誉よりもずっと貴方の事を見てきた、金久保誉よりも貴方の事を知っている。
…なのに、……俺じゃなくてアイツを選ぶなんて。あはは、酷いじゃないですか」


「…っう、ぅ…………気持ち悪い…!」


錫也は両手で、ローションを塗り込むように尻を揉んだ。革製の手袋は、ローションに濡れててらてらと光る。ローションでぬるつく為、棘による痛みは少ないがそれでも"手袋をしているという状態"は一樹の緊張を解かせなかった。精神的に疲労させ、そこに重ねて苦痛を加える為に、錫也は手袋を外すわけにはいかないのだ。錫也は指を曲げ、刺のない第二関節部分で後孔をぐいと押す。すると、初めて押し開かれようとしている事への恐怖に、一樹は息を飲んだ。


「っ!ぅ、あ…ッ」


「ふふ、そんなに力を入れないで下さい。」


手首を捻り、強弱を付けて抉る。逃げようと腰を動かせばすかさず左の手の平に尻を叩かれ、引っ掻かれ…その痛みに一樹からは段々と抵抗の意思が薄れていった。尻から手を離し手の甲で一樹の背中に触れる。すると刺の感触があるわけでもないのに、彼は何かされるのではないかと身体を緊張させ、錫也はその反応に満足げに口角を上げた。それは"触れる"という行為を、一樹が恐怖し始めている証拠だった。


「何もしてないのに怖がるなんて、酷いなぁ…」


「怖がってなんか……!っ、あ゙ぁあ!!!…く、うぅ………っ」


錫也はすぐさま手の平を返し、一樹の背中を強く打つ。やはり"触る"は"痛み"とイコールなのだという思い込みに、一樹は囚われていった。
錫也は指を伸ばし、刺の生えた指先で後孔に軽く触れる。すると、一樹はいよいよ驚愕した。そのまま指を捩込まれてしまっては、無傷で済む筈がない。


「…っ、嘘…だろ、……!?」


「ん?なんの事ですか?」


「とぼけんっ、…やめろ!!あ、うぐ……ッ、」


「あぁ、もしかして…俺に直接指を入れて欲しいんですか?嬉しいなぁ」


錫也は、手袋のまま本気で指を入れようとぐいと力を込めた。棘が容赦なく敏感な所に食い込み、一樹は痛みと恐ろしさとに勝手に手が震えてしまう。
本気なのだ。この男は、先程言ってきた通り「痛い」と言わなければ本気で自分を傷付けてくるつもりだ…と。
こんな気持ち悪い奴の指なんか、入れられたいわけがない!一樹は内心毒づくも、もうこの状況を自力で打破出来ないのだと悟ってしまった。


「うぅぅッ!………っ…」


「あれ、気持ち悪い…とか返ってくると思ったんだけど。」


ニヤリとして、錫也はもう一度指を捩込もうと腕に力を込める。早く折れろ、とでもいうように、きつく閉ざされた後孔にぐりぐりと棘を押し付けると、流石の一樹もついには悲鳴を上げた。


「ひっ!あ、あ゙ぁあああ゙あ゙!待っ…待っ、あ、ああ…ぐぅぅっ!!」


赤くなりだした後孔にローションが滲みる。一樹が制止を掛けるも、錫也は力を抜かなかった。


「い、ぃ…痛い…ッ!頼む……やめてく、れぇ…!!!」


「はい、約束ですからね。」


呆気ない程にあっさりと、錫也は手を離した。痛い時に「痛い」と言えば止めるという約束を錫也が守った事にほっと一息つくも、彼が約束を守ったという事に一つの危機を覚える。
この誘拐犯は最初に言った…「俺の言う事を拒まないこと」という理不尽な約束を。あちらが約束を守ったのに、理不尽とは言え自分自身がもし約束を破ったら…?最初は手の平で打たれる程度で済んだが、錫也は棘の生えた手袋で、本気で後孔に指を突き入れようとするような人間なのだ。それ以上に恐ろしい事………最悪本当に、死すら覚悟しなければならないかもしれない。


「手袋が嫌…という事は、指が良いんですよね?指で直接、ナカを掻き回して欲しいんでしょう…?」


「…ッ!」


錫也は右の手袋を外し、直にそこに触れた。撫でると痛みに時々ひくつく後孔に愛おしさを感じ、一樹の言葉など聞かずに今すぐ捩込みたくなる。一樹は「気持ち悪い」と言いたくなるのを必死に堪え首を振るが、これも拒否に含まれるのではないかとハッと息を呑む。恐る恐る錫也を見ると、一樹が"気付けた"という事に気付いたのか、彼はじっと一樹を見詰めていた。


「……っ、う、ぅ…」


もう、避けられないらしい。一樹は白くなる程に唇を噛み、消え入りそうな声で言った。


「ゆ、び………ッ、直接…入れろ…っ」


酷い屈辱だった。好きでもない男に、何故強請るような事を言わねばならないのか。だが、悔しいがこうする事で自分への危害を極力抑える事が出来る。一樹は諦めの感情の中で、静かに目を閉じた。
ところが、背後から聞こえてきた音に一樹は振り返り、その目を見開かせた。錫也はファスナーを下ろし陰茎を右手で扱くと、あろうことか慣らしてもいない後孔に宛がい、クスッと笑う。一樹は初めて感じる他人の熱に引け腰になるが、怖じけずに上体を起こした。


「やめろ!約束が違…っ、ぐアッ!!!!」


しかし錫也の左手に背中を強く叩かれてしまい、言葉は打ち消される。指を入れられるのは嫌だが、いきなり陰茎を突っ込まれるよりはマシの筈だった。それなのに、錫也は僅かな希望すら悉くへし折る。


「気が変わりました」


一樹の頭を左手で押さえ付け、皮膚に棘が食い込むのも気にせず力を込める。


「痛ぅ…っ!変わっ、た…って……!う、っ…ぁ…!」


「言ったでしょう?此処での支配者は………俺なんです」


"支配者"はその空間で自由に振る舞える。
錫也は笑ったまま、絶叫を上げる一樹に無理矢理陰茎を捩込む。太股を、まるで涙のように血が伝っていった。




















錫也が一樹を監禁し始めてから一週間が過ぎた。毎日毎日肉体も精神も削り取るような凄惨な凌辱を受け、一樹は錫也が近付いてくるだけで恐怖に身体を強張らせるようになった。錫也の命令に逆らえばどうなるか、嫌という程に教え込まれている。否、逆らわずとも、錫也は好きだの愛してるだのと言いながら暴力を振るうのだが、一樹は自分に何か落ち度があったのではないかと考えてしまう。擦り減った精神状態で常に「どうすれば錫也の機嫌を損ねないか」を考え、…そして当然のように打ち砕かれる。数日も経つうちに、一樹の中で"愛"と"暴力"が結び付いてしまい、錫也に好きですと言われる度に恐怖に震えてしまっていた。


「一樹さん、おはようございます」

昨夜もいつものように午前二時頃までひたすら犯され、死んだ様に眠った。現在の時刻は六時過ぎであり、これがここ一週間の一樹の睡眠時間であった。ろくに休息もとれない状況では最初の対抗心もとっくに枯れ果て、顔色も悪い。


「ぅ……ん、…」


「まだ寝ぼけてるんですか?その顔、凄く可愛いですよ…」


パシャリ、と一樹を起こしに来た錫也は、持っていたカメラのシャッターを切る。一樹は眠そうに眉をひそめるが、写真を撮られているという事に気が付き身体を緊張させた。勿論拒否したいのだが…最早、抵抗が何の意味を持つというのだろうか。
一樹はシャッターの音に、もう朝が来てしまったのかと目を開ける。すると錫也は、にこりと微笑んだ。


「おはようございます」


「………お、…はよう…」


ギシリ、とベッドに乗り、錫也は一樹の首に繋がれている鎖をグイと引いた。


「う…ッ」


「一樹さん…好きです、大好きです…」


「…っ!」


「膝の裏、持って……俺を誘ってみて下さい…。ちゃんと出来たら、一樹さんが欲しいものをあげますからね」


"好き"の言葉が、まるで鼓膜を針先で撫でているような不快感と恐怖を与える。首輪が首を圧迫するので張った腕は小さく震え、唇は戦慄いた。
脅されている、と一樹は思う。好きだと言われた後、一樹は今までに何度か躊躇ったり抵抗した事がある。しかしそんな事をして無事で済む筈がなく、現に今、一樹が素直に膝裏に手を回してしまう程に、恐怖を植え付けられた。


「………」


「なんですか?」


「"早く……ザーメン垂れ流しの俺の"…っ、………"ココに…おっきくて太いの…下さい…"」


一樹は右手を後孔への運び、そこを開き…自分で指を入れていく。昨夜中出しされたままの錫也の精液を掻き出し、誘わなければ暴力を受けるのだ。一樹はわざと淫靡な振る舞いをして錫也の気を損ねないよう演技をしていたのだが、ところが、日を重ねるごとに一樹はこの"誘い"が本当に気持ち良くなってしまっていた。


「んっ、んん……ぁ…ん…っ」


最初は一本だった指が二本に増え、ゆっくりとした快感と掻き出され皮膚を伝う精液の感覚に、つい演技でない声が漏れてしまう。


「自分の指を入れただけで勃っちゃうんですか?一樹さん、凄くいやらしい…」


「ふぁっ!あ、やめ……っ、触っ!っあ゙!ああ゙ぁぁあぁ!!!」


「"やめ"ろ…?」


錫也は勃起した一樹の陰茎に触れたのだが、思わず漏れてしまった拒絶の言葉にその笑みをより暗くさせた。亀頭を抓り上げ、激痛に悶える一樹の返事を待つ。


「ひっ、あ…!ごめ…っ、なさい…!はぁ…う、ぅ…………気持ちいいです、…もっと…触っ、て…下さい…ッ」


「はい。ふふ…最初から素直になればいいのに…。一樹さんは俺に虐められるのが好きなんですね」


錫也はスラックスと下着を脱いでしまうと、指を抜かせ屹立を一樹の後孔に宛てがう。


「…っ、"いっぱい突いて…、一樹のことぐちゃぐちゃにして下さい"…」


「よくできました。」


挿入をねだる時の"台詞"を言った一樹に満足げに口角を上げると、錫也は"言われた通り"に挿れて"あげた"。


「んんん!!あ、あぁぁっ!」


「っ、ほら…欲しかったんでしょう…?貰えた時はなんて言うんでしたっけ?」


「ひゃうっ、あ…ぁ、あ……!
嬉し…です…っ、……挿れて、もらえ…っ、て……あぅっ!や、ぁ、あんっ!」


ぐちゅぐちゅと、一週間前の一樹なら嫌悪の余り萎えてしまっていた音が今はただ興奮を煽る。しかし興奮しているのは表面だけで、一樹の心はかたく閉ざされたまま凍ってしまっていた。


「好き…、」


「ひ…ッ!ぁ、…」


嫌だ、嫌だ、と一樹は涙を流す。その言葉は一樹にとって、暴力の前触れでしかないのだ。恐ろしさに声が出なくなる。
名前も分からない男に心まで犯され、それでも感じてしまう身体が憎い。


「も…イく、ぅ……っ!は、っあ…あぁ!イかせ…て……っ、奥もっとぐじゅぐじゅ突いてイかせて下さい…っ!!」


「あぁ…、可愛いです…一樹さん…っ!愛してます、本当に…!」


絶頂を迎え、一樹はぼんやりとした頭で考える。いっそコイツを好きになれれば楽なんだろうな、と。勿論微塵も好きになれる筈がないのだが、そう考えてしまう程、一樹は追い詰められていた。






















明くる日、一樹は誰かの声で目が覚めた。聞き慣れた、そして凄く優しい…。


「一樹…、一樹!!」


「……?」


瞼が重い。だが無理矢理押し上げると…そこには、誉がいた。
昨夜錫也に「帰してあげます」と言われた後から記憶がない。どうやら最初の時のように深く眠らされたようだが、何故目の前に誉がいるのか?


「此処…どこだ………?」


「一樹の部屋だよ。少し前に…一樹が帰ってきた、っておじさんから電話があって…飛んできたんだ」


「っ!?」


ベッドに寝ていた身体を、勢いよく起こす。辺りを見回すと確かに此処は自分の部屋で…意識を失う前に見ていたあの部屋ではなかった。首輪も着いておらず、動いても鎖がじゃらじゃらと言う事はない。
よかった、と床にしゃがみ込む誉は、心底安心したように微笑んでいた。


「よかった…本当によかった…。僕………凄く心配した…っ、…でも、何も…できなくて…」


「誉…。いいんだよ、気持ちだけでもすげー嬉しい。………ありがとな…」


「一樹…」


「ったく、何泣いてんだよお前!」


涙を流す誉にデコピンを食らわせてやると、一樹は笑った。
呆気ない程だ。目が覚めたら知らない部屋にいて、そしてまた目が覚めたら自分の部屋に居る。アイツなら、誰にも気付かれずに自分を家に帰す事くらいやれそうだな、と根拠もなく一樹は思った。身代金などを目的とした誘拐ではなかった為、錫也は外部に一切連絡を取っていなかったらしい。「誘拐された」と一樹が言った事で、誉は初めて事実を知ったようだ。
でも、もうそれも過去の事なのだ。手を握ってくる誉の温かい体温を、一樹は穏やかな気持ちで握り返した。



















錫也は一樹の部屋のコンセントに仕掛けた盗聴器から、二人の会話を聞いていた。良い雰囲気になるに従って、錫也は顔の緩みが抑えられなくなる。それは勿論、嬉しいからだ。誘拐する程に愛した人が他人とそのような雰囲気になっているのに、錫也は笑う。
分かっているからだ、愛する気持ちが深まる程…二人が壊れていく事を。


『ねぇ一樹…、こんな時に言うのも難だけど…』


『ん?』


『……あのね、僕…、僕…一樹のこと…っ』











イヤホンから聞こえて来る一樹の悲痛な声と、恐らく誉の頬が打たれるバチンという音。そして動揺、身体の震え、謝罪。錫也には一樹の反応が手に取るようにわかった。まるで、目の前に一樹がいるかのように。パソコンを操作し、一樹の部屋の置物の目に仕込んである隠しカメラの映像を映し出す。すると、泣きながら謝る一樹の背中をあやすように撫で、「大丈夫だよ」と笑いかける誉の姿が映し出された。それでも一樹は震えている。


『ごめんね、怖かったのに…いきなりこんな事言って』


『ち、がう…っ、俺………っ、俺もお前の事…ッ』


その先が…言えない。好きだと、それを言う事がどんなに恐ろしい事か、一樹は思い知らされているからだ。無論一樹が誉に暴力を振るう事も、またその逆も有り得ない。それでも、"怖いものは怖い"。
錫也は椅子の背もたれに身体を預け、締め切る必要のなくなった窓から差し込む日差しを受けながら薄ら笑いを浮かべる。


「金久保誉…貴方は分かってないんでしょうね。なんで一樹さんが、大好きな貴方に撫でられているのに震えているのか…。」


「好き」は一樹にとって次にくる暴力の予告である。それなのに、慰める為とはいえ一樹に触れては…。


「一樹さんを貴方のものにはさせない」


これからが楽しみだな、と、一樹をこの部屋に繋ぎ止めていた鎖にキスをしながら錫也は胸を高鳴らせた。

















end















AKNK様、66666企画へのご参加ありがとうございました!遅くなってすみません;><


書いてる途中で、監禁って…コレなんか違くねぇか……と…なりました…←
もっと愛のある!…あ、いや、愛あるか……。なんだろう、とにかく…普通の監禁モノじゃなくて申し訳ありません…(;´瓜`)ウァァァァ

普通他の男出てこねぇよ!(自己ツッコミ)





こんなのですが、もしよろしければお持ち帰り下さい!(^o^)!










2012.6.23

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