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Novel
★01*07【堕胎】















避妊具を着けないセックスを、錫也はいつも頑なに拒否した。理由は一つ、妊娠するから、だ。勿論錫也は男であり子宮などは存在しないのだが、卵子も無いのに何故か毎回腹膜に妊娠する。そして胎児は僅か一週間で超低出生体重児程度には成長し、"ソレ"を羊が"素手で取り出して殺して"いた。


「もう、錫也はいつも暴れるんだから!」


「く…ッ!いい、加減にしろ…、羊!」


羊は"出産"の時、必ず錫也を縛り付ける。防音性の高い部屋に特殊なベッドを置き、ベッドから生えているベルトで錫也の首、腕、胸、腰、足…特に処々の関節は指先に至るまでもを確実に固定する。指先も固定するのは、以前激しく抵抗した錫也が爪を剥がした為だ。
"出産"前は重度の貧血様症状に襲われ、失神から気が付くとこの部屋にいる(胎児が体内からいなくなると不思議と症状は消える)。
羊は、錫也から生まれた子の殺害を楽しむ。正常に成長した女性の胎児と違い、錫也の子は悍ましい姿をしていた。目は横ではなく縦に切れており、耳と鼻と口は尖り獣の様に裂けた口の中には小さな牙が生えている。毛が一本も生えていない小さい身体は錫也の血に濡れ、著しく骨が浮いた身体は、鱗が埋め尽くしている時や甲羅の様に固い時など生まれてくる度に異なる姿をしていた。こんなにも異様な姿をしているというのに、錫也の母性はこの子供を憎ませてはくれない。むしろ愛おしくて堪らない…、それなのに、錫也は我が子が殺されているまさにその時に全く悲しまなかった。
いや、正確には"悲しめない"のだ。
堕胎の回数がまだ十回程の時は、それはもう筆舌に尽くしがたく錫也は絶望した。尖った舌を突き出し黒板を爪で引っ掻くような声で泣き叫びながら殺されていく我が子を見て、錫也はただ泣いていた(首だけになってもしばらく生きられる程生命力が高い為、段々と弱っていく様は親には辛い)。妊娠しても正常に育たないのは分かっていたが、それでも無残に殺され続ける事には耐え切れず、錫也はいつも抵抗する。学習性無力感に陥る事もなく抗い続ける錫也を羊は呆れもしたが、同時に強く抱きしめたくなった。僕達の子供を、そんなにも愛してくれているなんて……と。だから、羊は考えたのだ。大好きな錫也に悲しい想いをさせたくない…、なら、せめて殺す間だけでもいい気持ちでいさせてあげたいと。


「そんなに暴れたら、痛いでしょ。」


「あ゙、ゔあ、あ!ぅ…五月蝿、い…ッ!」


「ほら……コレ、欲しいんじゃないの?」


二十数回目の堕胎。ただ拘束しているだけなのに、錫也は激痛の為額に脂汗を浮かべ息も絶え絶えに呻いた。室内はひんやりと涼しいのに、身体は酷く熱く…燃えるようである。
羊が取り出したのは小さな注射器で、それを見た瞬間錫也の表情はあからさまに変わった。


「あ……っ、ぁ…!」


歯を食いしばって耐えようとするのに、瞳は嘘をつけず淀んだ色に染まっていく。羊が持つ注射器の中身は強い麻薬であり、高い鎮痛作用があるがその分依存性が高く禁断症状も重い。錫也が感じている苦痛は、そこからきていた。羊は錫也に麻薬を注射し、子を目の前で殺されても彼が強制的に悲しまないようにしていたのだ。注射された直後の激しい快感の中では生物の死などちっぽけで、羊の気が進むとそのまま犯され再び妊娠させられる。(麻薬が切れている場合は、勿論抵抗するのだが…ボロボロになった身体による抵抗などたかが知れていた。)錫也は、全てが終わった後にならなければ新たな死を悲しめない。


「最後に打ってあげたの、何時間前だっけ?……って、錫也〜…凄く物欲しそうな顔してるよ」


「…ッ!!!」


「いつもみたいに、ちょうだい、って言って…?そしたらあげる」


シリンジの側面を指先で弾き、中の気泡を針先に移動させる。そして内筒を僅かに押すと、ピュッと中の液体が先端から溢れ注射の準備が整い、錫也は溢れた数滴すら惜しむような目をする。この痛みを紛らわせてくれる麻薬を目の前にしてしまっては強い精神力で押さえ込む事も出来ずに、痛みを増強させるとも忘れて注射器に手を伸ばそうとベルトを軋ませた。


「…ッ、あ、……羊…、羊…っ!」


先程まであれ程厳しかった表情はガラリと変わり、荒い呼吸を繰り返し目は涙に潤む。縋るように睫毛を震わせると、錫也は我を忘れて声を上げた。


「はぁ…っ、はぁ…っ!…羊…ッ、う、っく………ちょうだ、い…クスリ、…クスリ………ッ!早く…っ」


「あはははっ 錫也可愛い!うん、勿論あげるよ!ほら、動かないで……」


「よ、う……っ」


「錫也、本当に痩せたね…。でも血管が浮くから注射はしやすいや」


麻薬の影響で、健康的な体型をしていた錫也はすっかり痩せてしまっていた。加えて顔色も悪くなり、幼なじみの哉太よりも更に青白い程だ。
羊は錫也の腕を押さえ、縦に連続しているかさぶたの下に針先を宛てがうと、ゆっくりと刺入していく。傷が癒える暇もない高頻度の注射により、注射痕はハッキリと目に映り皮膚は硬くなっていた。内筒を押し麻薬を注射していくと、錫也は液体が血管壁を優しく撫でていく感覚に恍惚の声を漏らす。


「はあ…ぅ、あ………はぁ、はぁっ…あぁぁ…」


「錫也…、錫也…………あぁもう、可愛い…」


空になった注射器を床に放る。ぶつけたわけでもないのにつぅ、と伝う鼻血を舐めとり、羊はうっとりと囁いた。羊自身は麻薬を打たない為わからないのだが、打ってしばらくの間、錫也は多幸感に襲われろくに会話すらできない(なんとか言葉を返そうとする錫也を見ると、何だかんだで自分を愛してくれているのを実感できた)。自分の言葉をちゃんと理解出来ているのかも疑問だが、ただでさえ想像を超える快感を味わっている錫也とセックスをすると、普段の彼からは到底聞けないような言葉が聞く事ができた。健常者が聞いたら顔をしかめそうな言葉も、羊にとっては興奮を煽る材料にしかならない。


「ね、もう産んじゃおうか。」


錫也のTシャツの裾を捲り上げ、少し膨らんだ錫也の腹を撫でる。まともに了承の言葉が帰ってこない事などわかりきっている羊は、"五本の指を突き立てずぶずぶと腹の中に侵入して"いった。


「ひぃっ!あ゙、あ゙あ゙ぁッ、ああああ゙ああーっ!!」


ベルトに押さえ付けられた身体が跳ね、開かれた瞼はカラカラに渇いてしまうのではないかと思わせる程に固まる。虚ろな表情で絶叫する錫也は、しかし痛みに震えているわけではなく"出産"の激しい快感にわけがわからなくなっているだけだった。
手首まで埋め込み胎児の首根っこを鷲掴みにした羊は、力を込めて腕を引き上げていった。血でぬるつく為、首が絞まる事も厭わない力を加える。ずるずると体内から引きずり出されていく感覚は、抜かれる陰茎が延々と前立腺を擦っていくようで、錫也は穿いていたジーンズの中で勃起してしまう。


「あぅっ、あ、あああぁっ!!ああー…んぐぅぅっ!産まれぅうぅぅっ!赤ちゃん…出ちゃ……っ!んっあ、やああああっ!!!」


「ほら、あと足だけだよ」


両手で首を掴み、よいしょ、と身体の全てを外界に晒す。錫也の腹には多少の血液が付着しているのみで傷一つ無く、青黒い痣だけが恨み骨髄に徹す様に残っていた。今回の子は背中にUMAのチュパカブラを彷彿とさせる棘が生えていて、口から唾液を流してキイキイと泣いている。涙の跡が、血液に染まった肌に残る。肌の色は浅黒かった。
羊は産まれた我が子の腋の下から手を入れ嬉しそうに掲げる。いつもの明るい笑顔でその頬にキスをすると、見て見て!と声を弾ませ錫也の視界にその子を入れた。


「可愛いでしょっ?」
「この子、ちょっと重いよー。ふふっ健康的って事だね!」
「目が大きいのは僕に似たのかなぁ?でも瞳は錫也似だ、綺麗な色〜」


錫也の視界には入れても、果たして錫也の目に子が映っているのかは定かではない。何を見ているのか、何を感じているのか、錫也は羊が話し掛けても意味不明な言葉や呻きを漏らすだけで、全く会話になっていなかった。けれども羊は「それが普通」だとでもいうようにペラペラと喋り続ける。どう見ても可愛くなどない子を、親の情故か可愛い可愛いと連呼する。羊は何も、子が憎くて殺すのではない。ただ単に、楽しかっただけなのだ。


「ねぇ錫也、聞いて」


着ている真っ白なワイシャツが汚れてしまうのも気にせず、子の顎を肩に乗せるようにして左腕で抱える。そして片手でゆっくりと一つ一つのベルトを外しながら、錫也に語りかけた。


「はぁ…あ、ん………うぅぅ、…よ、……羊ぅ…」


「動物実験をしてる施設が、僕達の子が欲しいんだって!この子なら人間みたいな構造してる上に凄く丈夫だし、監査の目が入っても"突然変異の動物"で済ませられるからって。
殺せないのは残念だけど、高く買ってくれるならクスリもちゃんと錫也にあげられるし…錫也も僕がこの子を殺すの嫌なんでしょ?売れば生きられる、それに…これからも錫也が僕達の子を産んでくれて"ソレ"を売るなら、この子達が実験に耐えて生きてた場合…二ヶ月後には返してくれるんだって!
錫也、これからも、僕の子を産んでくれるなら、この子は、殺さない」


必死に言葉を理解しようとする錫也に、羊は最後に一言一言ハッキリと言った。
"殺さない"
この言葉が、強く残る。今の状態でなら、子を殺されようが何をしようが全く悲しくもないし気にもならない。だがそれはマイナスがプラスに転じたものであり、今回は最初から"殺さない"というプラスなのだ。錫也に動物実験の過酷さを考える余裕はない。ただ"殺されない"のだという、プラスの二乗のような意識に何度も何度も頷いた。


「あ゙ぁ、あ……は、あ…ころ、さ、な…い……?…」


「oui!いいよね…?」


「…んっ、んん……!」


「ふふふ…ありがとう。じゃあ、沢山産まなくちゃだね!
だから錫也……、えっちしよ…?」


普段なら真っ先に惨殺するはずの我が子を、丁寧にタオルにくるんでベッド脇のサイドテーブルに乗せる。左右から閉ざされた瞼は穏やかで、羊は何度目とも知れぬ「可愛い」を頭を撫でながら呟いた。
両手が空いた羊は残っていたベルトを全て外し、また鼻血で汚れた錫也の顔を優しく拭ってやる。羊がサイドテーブルの引き出しからローションを取り出すと、そのワイシャツの裾を錫也が弱く掴んだ。ふらふらと身体を起こし、愛しい我が子には見向きもせずに羊をじっと見上げる。


「あ、ぁぁあ…あー…、……はや……、ぅあ…っ、……羊…羊、羊………!」


「早くシたいの?もー……錫也ったら仕方ないなぁ!」


羊は満面の笑みで錫也を押し倒す。その隣で眠る子は、姿こそ歪だが少なくとも二人よりまともに見えた。






















ぐちゅぐちゅと半ば乱暴に三本の指を掻き回すと、腰だけを掲げた錫也は、呂律の回らないままに喘ぐ。ベルトだらけのベッドシーツは、錫也が頬を擦り付ける度に鼻血や唾液や涙で濡れていった。


「ひゃうっ、ぐ…あ、あーっ、あぁぁぁんっ!もっ…とぉ…もっと奥…ぁ、あ…はぅぅん…っ」


「指、そんなにきもちぃ?」


「ああ゙ぁ…っ、あ!きも、ひ…い……んんうっ!ぐちゅぐちゅされぅと…きもちい、ひぅぅっ!あっ、あんんっ!」


だらし無く半開きになった唇から覗く舌はろくに動いておらず、目はやや上を向いている。


「あはっ ひくひくしてるー……」


「やぅぅっ!あ、…らってぇ……欲し、の…羊のおちんぽ欲しくてひくひくしひゃうかぁ…、…ちょうらい…、ッうぐ!、……っ、…っ、…ぐ…、うぇ……ッ!」


錫也は引き付けを起こしたようにビクビクと全身を痙攣させ、同時に羊の指をぎゅうぅと締め付ける。嘔吐しそうになり慌てて(慌ててはいるがその動きは緩慢である)口を手で覆うが、もう一度身体を震わせた後思い切り吐血した。指の隙間からぼたぼたと溢れ、きつく閉じられた瞼の上までも血が跳ねる。錫也は二度三度連続して大量の血を吐くと、浅い呼吸を繰り返した。しかし自分に何が起こったのか今一理解出来ないらしく、手の平とシーツを赤く染めたモノを無感情に眺めている。


「錫也!」


吐血には流石に慌てたのか、羊は後孔から指を引き抜くと錫也に声をかける。
…しかし、羊は相も変わらず無邪気だった。


「顔真っ赤だね!なんかあの子みたいで可愛いー…。うん、可愛い!」


サイドテーブルで眠る二人の子を指差し、羊は錫也に笑い掛ける。錫也は羊が笑っているという"事"が嬉しく、壊れた人形のように血に濡れた唇で笑みを作った。
目元の赤を拭いてやり、さてと、と羊はスラックスの前を寛げ勃起した陰茎を取り出す。錫也は先端が後孔へと宛がわれると、血塗れの手を握り締めて「早く」とせがんだ。


「はっ、あ、あぁ…!はやう挿れ、て……っ、羊のおちんぽ欲しい…ほしぃ…ッ!」


「oui、可愛くおねだりできた錫也に、ご褒美…っ」


「ひぐぅっ!んあ、あ、あっ…キタ、ぁ…ああぁ!あついの入っれひたぁぁっ、あぅ…おっ…きぃぃ……!」


ずぷずぷと挿入し、羊はすぐに腰を動かした。最初から呼吸など整っていない錫也は、奥を突かれる度に悲鳴に近い嬌声で快感を伝える。前立腺を擦られると、声にならなかった。


「あ゙、あー……あうあぁぁ…っ!う、ぁ…はぁっ、あん!
……ひッ!!や、らぁ…みあいれ、みや、ゃうやぁぁ、ん…ぁぅぅーっ」


「んー?錫也、今何て言ったの…?」


「よ、う……っ!あ、あぁっん…、みん、ら…俺、たひの、せっくす…みれうぅ、…!ひあ!、あぁぁぁーっ!」


発声すら上手く出来ず、麻薬の中毒になった錫也と長くいる羊ですら言葉が聞き取れない。錫也はなんとかして意思を伝えようと、ちゃんと発音しようとするのに…それでもようやく伝わる程だった。羊は内壁を擦り上げながら、錫也に返す。


「誰かが見てるの?大丈夫、この部屋には僕達家族しかいないよ……」


「う、そ…っ!いっぱ、いる…あ、ああっ、あー…!みあえうと感じひゃうっ、あぅぅああああっ!みなぃでぇ…あっ、や………そんらころいあないれよぉっ、あ゙、ぁぁぁっ」


「ちょっと錫也、僕とえっちしてるのに僕以外と話さないで!嫉妬しちゃうよっ」


羊はぷう、と頬を膨らませると、幻視と幻聴に翻弄される錫也の身体をぐるりと反転させた。向かい合っても錫也は幻覚が気になるのか、目が泳いでる。羊は錫也の頬を両手で包むと、強く言った。


「錫也、錫也!今君は誰とえっちしてるの?この部屋に僕達以外を入れると思う?ほら!君のナカに入ってるのは誰の何っ?」


ゆるゆると腰を動かし、錫也を促す。錫也は喧しい幻聴の中に聞こえた声に一生懸命耳を傾けると、羊の手に自分の手を添え聞こえる筈のない声を振り払おうとした。


「ん、あ…ぅ、ああ゙ぁ゙ぁっ!羊らけ…羊しかいらいぃぃっ!れも聞こえう…ッ、こわ、い…怖い…っ!あああああぁぁっ!羊…っ、んあぁっ、あ…きもち、のに…こわい…うぅんっあ、はあぁ!う…ぁあっ!」


「錫也…錫也……、錫也怖いの?大丈夫だよ…錫也のえっちな姿を見てるのは僕だけだから、誰にも見せないから…!」


泣きそうになる錫也にキスをし、羊は咥内の血を舐めとっていく。余す事なく貪り、舌を吸って柔く噛んだ。錫也も何とかキスに応えようとするが舌が動かず、されるがままになる。舌が擦れ合う度に感じるずくりとした甘い痺れに徐々に身体の緊張が解けていき、錫也は急かすように自ら腰を揺らした。


「んっ…!ぷはっ、……っ、錫也ったら…誘ってるの…?」


「あ、あっ、あぁ…あー……、いい…そこもっと奥突いれぇ…っ!ぐりゅぐりゅ…って………うぅんんんんっ」


「きゅうきゅう締め付けちゃって…。ほらっ、こう?」


「いぅぅああああああーっ、あ、ああんっ!ん…らカが羊のかあいにらぅぅうー…っ!にゅあぁぁっ、あ!ぐちゅぐちゅぃぃよ、あぅぅぅっ」


腰を回す様にして奥を抉ると、錫也は完全に光を失った瞳であちこちを見た。口を開閉させ、端からは唾液と血液が混じったものが伝う。
羊は段々と腰の動きを激しくさせていくと、錫也の陰茎を扱いた。


「―――っ!!うあ゙、あ゙あ゙ぁー!らうぇ、ぇ、ああぁぁぁぁああんっ!ちんぽ擦っはらもっとひもちよぅなっ、なぅぅんっ!!ひゃぅぅうーっ、イっひゃ…イっちゃうぁぁあぅっ」


「はぁ…っ、ク……!すずや…っ、ナカに出すよ…!」


「らひぇぇぇっ!みうくらして、うにゅあああっ、あ!赤ちゃんあうぅうあ、んう…ぅからあ……っ!」


「…っ、ぁ……錫也…錫也、…!」


「ひっ!くぅあああんっ!あ、あぅうーっ、んあぁぁああー…!ナカ…びゅーびゅーれてぅよぉ…羊のせーえき…にんひんひひゃうぅー………」


奥まで捩込み、射精後も精液を染み込ませるように陰茎を擦り付ける。釣られる様にして絶頂を迎えた錫也だったが、壊された身体は精液もろくに作り出せず、射精の量はほんの僅かだった。しかしまるで通常の何十倍も射精したような感覚に襲われ、母音だけの呻き声を上げる。


「いっひゃいれはぁ……ん、んんっ!せーえきいっぱい…ぁ、あー………っ」


「……そうだね。錫也のみるく、いっぱい出ちゃったね」


「もういっ…はい………もっとみるくちょうらい…羊ー…」


がくがくと震えてしまう手を伸ばし、錫也はもっととねだる。羊は、快く承諾した。




















「はい、…はい、ではこれから伺いますね。…え、声が?あはは、今セックスしてたんですよ。って、笑わないで下さいよ。貴方達だって僕達が子作りしないと困っちゃうでしょ?…ふふ、可愛いですよ、錫也は。………はい、それじゃ、二時間くらいで着くと思うので。失礼します。」


携帯電話の終話ボタンを押し、羊は動物実験を行っている施設との通話を終了した。
"あの部屋"ではなく、此処は至って普通の寝室である。寝室に移動してからしばらく後、羊はもう一度錫也に麻薬を打った。錫也の禁断症状が出る間隔は、最初の頃よりもかなり短くなってしまっており症状自体も重い。禁断症状のショックで死んでしまうのを防ぐには注射を続けるより他なく、しかし回数を重ねれば重ねる程身体は壊れていく。
もう、どうしようもないのだ。ここまで麻薬に蝕まれた身体では、二人の子が運良く帰ってこれたとしてもその頃には…。


「錫也ー、あの子を施設に送ってくるね?クスリ、此処に置いておくから」


「………うん」


「ちゃんと妊娠したかなぁ、楽しみだね!」


「そう…だな」


ベッドサイドに移動し、布団の上から錫也の腹辺りを撫でる。大きな窓から差し込む陽光は、まるで羊の様に暖かかった。


「行ってきます!」


子を抱え、羊は部屋を出ていく。一人取り残された錫也は、手の平に残る我が子の温かさを思い出していた。
自分は、あとどのくらい生きられるのか。いつ死んでしまうのか。死への恐怖は、いつも離れない。


「…………」


二ヶ月も持つのか?俺は…。
麻薬が無ければ死に、麻薬があっても死ぬ。どちらにせよ悪い方向にしか進む事は出来ないのだ。


「…羊………」


どうしてこんなになってしまっても、自分は羊を嫌えないのだろう。
一番愚かなのは俺自身…か。
スカイブルーに暗い雲がかかり、しとしとと雨を降らせる。
正気でいられる短い時間…、錫也の瞳はいつも雨だった。

錫也と同じ、美しく晴れ渡る空色の瞳に、彼は再会出来るのだろうか。
疲労からくる眠気に負け、錫也は静かに眠りにつく。涙が蟀谷を伝う感覚が、少しくすぐったかった。

















end















※麻薬はヘロインをモデルにしましたが、小説の構成上禁断症状等がかなり抑えた描写になっていたり(精神力云々の問題じゃねぇだろ、等々ツッコミ入れたくなった方、まさにその通りです)、実際には無いかもしれない状態が表現として入っています。
とにもかくにも\ダメ、ゼッタイ!/ですね…!(;'^')ゝ





2012.06.17

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あきゅろす。
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