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Novel
★【男主夢】12星座と濃い物語13








〜――の部屋〜


壁も床も天井も、眩しい程の白。最初の部屋と同じ…かのように思えたが、最初の部屋よりも格段に小さい所だった。振り返ると今入ってきた扉は消えていて、向こう側の壁にはまた扉がある。


「………」


先に進めという事だろうか。
俺は意を決すると、扉に歩み寄り白いドアノブに手を掛けた。扉を開け、次の部屋に移動する。するとまた、全く同じ部屋が…。


「…えー……」


振り返ってみると、またまた入ってきた扉は消えている。向かい側には扉…。……くそ、何がしたいんだ!さっさと元の世界に帰しやがれぇぇ!!…って……その為にはやっぱ進まなきゃ駄目か。


「チクショー!こうなったらどこまででも行ってやる!!」


俺は持ち前の前向きさで気合いを取り戻すと、力を込めてドアノブを握った。
どのくらい進んだか数えていたのだが、かれこれ今は十二個目の部屋だ。いくつもの部屋を通過してきたから、ひたすら扉を開ける事に流石に飽きてきた。


「……」


まだ続いているらしい部屋の、次の扉を睨みつける。まったく…!


「いい加減にしろー!!!!……って…、………え…」


怒りに任せて思い切り扉を開けると、目の前にでかい白蛇がいた。






















〜13.蛇遣い座待機室〜





濃紺の空に浮かんだ雲は、太陽に照らされて赤みを帯びている。濃紺から水色へのグラデーションが綺麗で、流れる雲は星を眠らせるようだった。"夜空の廊下"と同じく、この朝焼けは壁に描かれたものだったが……いや、そんな、部屋の事について感心してる場合じゃない!


「………ッ!!」


全長5mはあるだろうか…常識を無視した大きさの白蛇に、俺は硬直する。扉を開けて、目の前で蛇が身体を起こして2mくらいの高さから自分を見下ろしていたら…誰だって驚くわ!


「……名無し」


「だー!うわー!神楽坂ぁぁぁ!!!」


白蛇に気を取られていて見えなかった!少し離れた壁にもたれて寝ていたらしい神楽坂が眠そうな声を掛けてきて、ようやく存在に気が付く。俺は白蛇の脇をすり抜けて傍に駆け寄ると、神楽坂の向かい側に腰を下ろした。目は普通だし、鱗も牙もない普通の神楽坂だった。伸ばした足の上には蛇のぬいぐるみが置いてあり、そういえば最初の部屋で落ちてきたのはコイツだったなーと懐かしくなる。


「疲れた…?全部回るのは。」


「そりゃそれなりにな。
…っていうかお前、さっきは仕方ないにしても、なんで"天秤座の部屋"の次の廊下で待っててくれなかったんだよ?心配しただろ」


俺は苦笑しながら言う。後ろからやってきた白蛇が神楽坂に擦り寄るのに若干ビビったが、敵意はないようなので緊張が解ける。
すると神楽坂は白蛇を撫でながら…耳を疑うような事を言った。


「俺は…最初の部屋を出た後、ずーっとこの部屋にいた」


「……は?」


ずっとこの部屋にいた…!?


「な…っ、お前!いつも廊下にいてくれたじゃん!どういう事だよ!?」


俺を驚かせたり、回復してくれたり、励ましてくれたり……。十二もの部屋を回るのは、神楽坂がいなければ到底成し得ない事だった。それなのに…廊下にはいなかったって…。呆然としている俺に、神楽坂は続ける。


「……最初に、この世界の事から説明した方がいいかな…」


「この世界の事…?」


神楽坂が頷く。


「夢の中…、この世界は。」


「はあぁ!?夢!?」


夢オチ!?いや、それにしては感覚は目茶苦茶リアルだった。痛みだってあったし…か、快感も。…だが、現実味の無い数々の出来事も、夢だというのなら納得できる。


「だからお前も蛇だったんだな…」


「俺は蛇座じゃないよ、…この世界でも、俺は人間のまま。」


「はい!?だって廊下で…、って…廊下にいなかったんだったか。…んんん?」


俺が眉間にしわを寄せていると、神楽坂は「まあ聞いて」と声を掛けてきた。


「そもそもの始まりは、ぬが変な機械を作ったところから…。」


「ぬ、って…会計君の事だよな?」


話を聞いていると…、どうやら会計君は"こいゆめマシーン"なるものを作ったらしい。十四人の人物を設定して、そのうちの一人…つまり主人公がRPGみたいに十二のフィールドをクリアしていって、残りの一人が主人公をサポートする。…とまぁ、そんな夢を見られる装置のようだ。主人公は俺で、くじ引きで負けたという神楽坂はサポート役だとか。


「揃った十二人の星座が、偶然バラバラで…」


「だから、全体の設定がこんなだったんだな…」


「そう」


「…まぁ大体わかったよ。それより、お前がこの部屋から出てないって……どういう事なんだ?」


「………これに、任せた…」


「これ、って…蛇に…?」


ルールにより、神楽坂は最初の部屋とこの部屋以外の移動を禁じられているらしい。しかしそれでは俺のサポートに回れないという事から、なんと…この巨大な白蛇を魔法で神楽坂の姿にして"夜空の廊下"に送り込んでいたらしい!!!!
性格も神楽坂にしてあったらしいのだが、時が経つにつれ魔法が薄れ…意識しないと蛇の姿に戻りそうになったり、本能が出てきてしまったようだ。思い返すと、成る程……頷ける部分がある。変な音や鱗は、やはり神楽坂の…というか蛇のものだったのだと確信した。
そして蛇は聴覚が弱く、代わりに皮膚感覚がとても優れている生き物だ。接近してくる存在は、地面の振動で敏感に感じ取る。寝ている神楽坂を二度起こしたが、一度目は声をかけて起きた。それはまだ、魔力が強く人間らしい身体構造になっていたからだろう。だが二度目…俺が襲われた時は既に魔力が薄れ、更に眠っていたという状況の為蛇そのもののようになってしまっていたのだ。そっと近付いたから振動が殆ど発生せず俺の接近にも気付けなかった蛇は、突然肩に触れられた事に驚き反射的に俺に襲い掛かってきた…、そういう事だろう。
まさに蛇遣い座らしいサポートの仕方だと思った。


「"夜空の廊下"で何があったかは、俺も把握してる…。攻撃したのは、…ごめん」


「蛇を通して?いいよ別に、どうせ夢だし」


「あの後、蛇はこの部屋に戻した。また攻撃したら危ないから…」


「あー、だからいなかったんだな」


「あと、十二人はそれぞれがどんな夢を見ているか知らない……。けど、俺だけは知ってる。」


「へー…そうなん…………、…………ちょっと待て…」


説明されるままにうんうんと神楽坂の言葉に頷きかけたが、引っ掛かる事があった。十二人は、お互いにそれぞれの部屋で何があったのかは知らないって事だよな。確かに、さっき梓君も宮地に対して「ちゃんとやってくれたんだ」と言っていた。でも、神楽坂だけは知ってるって…まさか……っ 嘘だろ!!
目茶苦茶恥ずかしいじゃんソレ!!
俺が顔を真っ赤にして口を開閉していると、神楽坂は困ったように目線を下げた。


「夢で寝たらどうなるのかと思って…。……そしたら、夢…なのかな。夢の中に、部屋を進んでいくアンタがいた。」


「……あ、…のさ…、ちなみに………どのあたりから…」


「最初から」


「寝んの早ぇよ!起きてろよサポーター!!!」


思わずツッコミが入る。あークソ、恥ずかしい!神楽坂もお前何笑ってんだよ!


「お前なぁぁー……男の…、その、ソウイウの見たってなんも面白くねぇだろ…」


むしろ、夢に出てきたら悪夢だ悪夢!さっさと起きればいいものを…。
夢…と言えば、今この時も俺は夢を見てるっていう状況なんだよな?という事は…今は夜?


「あぁ!成る程!」


ピン、と閃いて俺は手を叩く。"乙女座の部屋"で副会長が「こんばんは」と挨拶してきたのは、ここが夢の世界だと知ってたからなんだ!思えば、部屋が青空だったからってすぐに昼間だと思い込んだ俺は中々浅はかだな…。副会長が挨拶を「間違えた」と言ったのは、神楽坂も今まで頑なにこの世界の話をしなかったし、クリアするまでそういう話はしてはいけないルールだったのかもしれない。ははあー、そういう事かー。


「…あ、そうだ。ついでだから聞いてもいいか?」


「…?」


神楽坂が知ってるかどうかはわからないが、一つ気になっていた事を聞いてみる。同じく"乙女座の部屋"の事で…、あの、マカロンについてだ。


「あのさ、"乙女座の部屋"の扉の前に置いてあったマカロン…知ってるか?」


「…あぁ……、うん。俺が入れ替えた、あのマカロン。」


「えぇぇぇ!?」


予想外な答えが帰ってきて、俺は思わず声を上げる。そもそも存在自体知らなかったかもしれないという仮定を持って聞いたのに、知っていたどころか入れ替えただと!?


「ちょ、ちょ…神楽坂クン、どゆこと?」


白蛇がどこか得意げにちろちろと舌先を出す。神楽坂は目を柔らかく細め、その頭を撫でていた。


「俺が、というよりも…蛇が?」


「俺に聞くな俺に聞くな。
お前と蛇の区別があんまつかねーから細かい事は抜きにしてくれ」


「んー……、取り敢えず、青空は抜け駆けしようとしてた。だから…阻止した。」


「抜け駆け………?」


「はぁ……アンタは、鈍感。」


「は?」


なんでいきなり溜息つかれなきゃならないんだ…。抜け駆けだのなんだの、ただマカロン置いとくのがなんで抜け駆けになるんだ?すると神楽坂は、もう一つ溜息を吐いてから口を開いた。


「青空は、強い惚れ薬をマカロンに仕込んでた……。」


「ほ、…惚れ薬ぃ……?なんで副会長がマカロンにそんなもん仕込むんだよ」


「…名無し。」


「なっ…何?」


俺が「ワケわからん」という顔をすると神楽坂は手招きしたあと、自分の太股を指差した。なんだよ、足に座れってか。座るわけないだろ!


「……」


「…」


「いや、座らねぇよ!」


「蛇の俺には座ってくれたのに」


「あれは悪戯するから…って、……う、わ!?…、わかった、わかりましたよ…」


白蛇が長い胴体で俺の背中を押してきたものだから、俺は諦めて腰を上げた。元神楽坂とはいえ、こんなにでかいとやっぱ怖さがある。俺が蛇のぬいぐるみをどけて座ると、神楽坂はどこか満足そうに俺を抱きしめてきた。


「か……神楽坂…!?」


「………やっと、触れられた」


「……は…?」


「名無し…、考えなかった?皆なんで…部屋であんな"お願い"してきたか。」


「…なんで、って………」


"此処は異世界だから、そういうものなんだろう"という考えでいた。だから、特に深く考えずにいたのだが……。俺が「考えなかった」と答えると、俺の胸に顔をくっつけていた神楽坂がこちらを見上げる。そして、思ってもみなかった事をさらりと…言ってきた。


「………好き」


「好き?」


「この夢にいる皆……、アンタが好き」


「……、え…ッ!?」


一瞬理解が追い付かなかった。待て…、待てよ…。羊、会計君、哉太、不知火会長、金久保先輩、水嶋先生、錫也、陽日先生、……それに副会長と星月先生と、宮地と梓君…!?
うわ、元男子校怖い。…じゃなくて!冗談言って逃げてる場合じゃねぇって!


「マジかよ…」


文字通り呆然とする。俺はこの世界から出る為に"仕方なく"えろい事をしたのに、皆はそうじゃなかったって事か…?


「必要以上に、アンタの心に干渉するのは禁止。…それなのに青空は…薬を仕込んだマカロンを、アンタに食べさせようとした…」


「副会長……」


夢で惚れ薬入りのマカロンを食ったとしても、目が覚めてからも惚れたままという事にはならなそうだが…。いや、例え夢を忘れたとしても、思考の中の無意識の領域に「副会長が好き」という意識が残るかもしれない。
男に対する好きだなんだの感情はよくわからないが…。


「……もう大体話したかな。そろそろ起きないと…」


神楽坂は俺を抱きしめる腕に力を込めると、じい、と俺の目を見つめてくる。なんか甘えてるみたいで可愛いな。


「なんだよお前ー、寂しいのか?」


俺が笑いながら頭を撫でてやると、…神楽坂は目を逸らした。


「あ…嫌だったか?」


「……そうじゃない…」


「じゃあなんでそんな顔…」


「名無し」


「…っ」


また、名前を呼ばれる。俺の言葉を遮った神楽坂は珍しくその表情を歪ませると、苦しそうにぽつりと呟いた。


「……わかる…?アンタに…」


「え…?」


「もう一回、考えて…。この夢に………、…アンタを好きな人が、何人いるか。」


「何人、って……十…」


そこまで言って、俺はハッとする。確かに通過してきた部屋は十二個…つまり十二人いた事になるが、俺は………神楽坂をカウントする事をすっかり忘れていた…!


「十…三……」


「うん」


「神楽坂……まさか、お前も…?」


「………」


「…なんで何も言わねぇんだよ…」


「……言っちゃいけない決まり」


「あのなぁ…」


神楽坂は答えなかったが、答えないという事は…"そう"なのだろう。全然そんな素振りを見せなかったから気が付かなかったが…真剣な表情の神楽坂が嘘を言っているとは思えない。


「皆みたいに…俺はアンタに何もできない。だから…」


いや、お前がそういう事を考えてたという事に驚きだ…。
俺は段々と心臓の音が速くなっていくのを感じながら、神楽坂の言葉を聞いていた。


「……だから代わりに…この夢での記憶を消す…、俺以外の。」


「はっ!?」


突然突拍子もない事を言い出した神楽坂だったが、その表情は相変わらず真剣だった。


「さっきの、白い部屋…」


「あ、あぁ、アレか?アレがなんだよ…」


「あそこは"記憶の部屋"。十二個、あったでしょ…?」


「で、でも……っ、さっきまでの記憶、あるぞ…?」


部屋は十二個あった。恐らく、白い部屋を一つ通過する毎に一つ分の部屋の記憶が消える…といったところだろう。だが俺には、"山羊座の部屋"の記憶から全て…残っていた。


「記憶が消えるのは目が…、…………、…え…?もう…7時…?」


「7時!?」


白蛇が神楽坂の耳元に寄り、何かを伝えるように頭をこすりつける。言葉の途中だったが、神楽坂は少し驚いたように目を大きくした。白蛇は時間でも伝えたのか…、神楽坂が聞き返すように言った時間に俺は驚いた。


「ちょ…っ、俺6時30分に目覚まし時計セットしてんのになんで起きてないんだよ!?」


「あぁ…、……俺の仕事だった、アンタに睡眠薬飲ませるの。」


「いつの間に!?昨日の晩飯か!?」


「とにかく、アンタは夢からしか起きられない…。」


「夢からしか、って…どうやって!?」


神楽坂の話も気になるが、今日も普通に学校なのだ。起きれなければ困る…!
すると神楽坂は白蛇に目配せをして、蛇が離れたところで名残惜しそうに俺の頬を撫でた。少し熱い手の平に、今更ながら神楽坂を感じる。


「か、神楽坂…」


「…いい、何も言わなくて。ほら、立って…」


「…………」


俺は……どうすればいいんだ…?神楽坂とは今まで、ただの友達だった。何でもない、ただの…。
特に嫌悪感はない。でも…嫌悪感がないのと好きなのとは別物だって事くらい、俺にもわかる。
俺は神楽坂に促されるままに立ち上がると、困ってしまって頭をかいた。


「…気を遣わないで。」


「そういう…わけじゃ……、…って、悪い……。こういう態度が一番…困るよな…。」


「………。…名無し」


「…ん?」


「今日……来て、俺の所に。」


「神楽坂……」


「俺も、その時に言う。だからアンタも、その時に言って…正直な気持ち」


答えは出さなくてもいいから、と言う神楽坂は…今までに見た事のない表情をしていた。


「取り敢えず、起きなくちゃ…。」


「お、おう…。でもどうやって?」


「丸呑み」


「……何だって?」


「丸呑み」


「無茶苦茶だ!」


夢の中で物凄く驚けば現実で目が覚める、とか言われたが…。理論はわかるが、ま、まさか…。


「……お前が?」


背後に気配を感じ、恐る恐る振り返ると……白蛇が舌を出して俺を見つめていた。蛇に丸呑みとか…っ、そりゃあ驚くけどさ!!待てよ!怖すぎるだろ!!


「神楽坂…他の方法は…」


「………」


「無いのかよぉぉーっ!」


「7:10になる…もうすぐ」


「…わ、わかったよ……一思いにやってくれ」


「目は…開けておいて」


改めて白蛇に向き直ると、今まで優しい目をしていたのだが…突然攻撃的な表情へと変わった。一度、神楽坂の姿をしたコイツに襲われた時の事を思い出し…身体が強張る。


「……っ、早くしろよ…!」


緊張感を高めるように、ジリジリと迫ってくる。目を閉じたくなるのを必死に堪え、整った鱗を見つめていた…その時…!俺の恐怖心が極限まで高まった瞬間を見抜いたように、突然大きな口をガパッと開くと俺に飛び掛かってきた!


「――――ッ!!!」


あまりの恐怖に声も出ない俺に、鋭く尖った牙が食い込―――――




























「セーフ!!!!」


「あ、おはよう名無し!」


「おは羊!」


「何…その挨拶…」


「ん?今思い付いた」


朝礼まであと五分!というところで俺は教室に飛び込んだ。一番に挨拶してくれたのは羊で、俺は机に鞄置きながら返事をする。俺のつまらないギャグに呆れたように苦笑すると、羊は俺の隣の席に座った。…というか、そこは錫也の席……


「あれ?錫也まだ来てねーの?」


「大方…」


「哉太か…」


俺と羊が、また寝坊か、と肩をすくませていると…タイミングよく錫也と哉太の声が聞こえてきた。


「ちゃんと翼君に返すんだぞ?」


「わーってるよ……ったく、」


何やら会計君の名前が聞こえたが…、哉太なんか借りたのか?取り敢えず二人に向かって挨拶しながら手を振ると、錫也は普通に「おはよう」と返してきたのに…哉太は顔が真っ赤になっていた。


「なんだよ哉太、夜久のパンツでも見た?」


「はあぁ!?んなワケねーだろ!」


「だって顔真っ赤だぜお前!錫也、なんかあったか?」


「んー……恥ずかしい夢でも見たんじゃないか?」


「うっわ、哉太〜…」


俺がわざとらしく引いてやると、哉太は更に顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。俺がごめんごめんと笑いながら謝ると、そういえば、と羊が声を掛けてきた。


「名無しは何か見なかった?夢。」


「夢…?……なんだったかなぁ…、………あんま覚えてないかも…」


「…覚えて、ない……?」


俺の答えに何か変なところでもあったのだろうか。羊は首を傾げ、錫也と哉太は顔を見合わせている。


「俺の夢がどうかしたのか?」


「お前らー!席につけー!」


羊は何かいいたげだったが、丁度そこに陽日先生が出席簿を持って教室に入ってきた為、何でもないよと微笑んで席に戻って行った。


「…錫也、何だ?」


「いや……、」


難しい顔をしている錫也だったが、陽日先生に名前を呼ばれる頃にはいつも通りの顔になっていた。哉太は俺と顔を合わせないし、陽日先生もなんか変…?


「なんだよー……」


俺は髪の毛をくるくると指先で弄りながら、誰に言うでもなくぼやいた。



















放課後、特に用事のない俺は真っすぐ帰寮した。しかしなんだか落ち着かない…。なんか課題あったっけ?いや、こないだ提出したばっかだしなぁ。
もやもやして気持ち悪いので、俺は気分転換に外に出た。


「あー……」


学校で、廊下で偶然すれ違った副会長の視線は痛かったし、なんか頭が痛くて保健室に行ったら星月先生が何故か頭を撫でてきた。いや、おかげで頭痛は和らいだが…あの星月先生が頭痛くらいで生徒の頭撫でるか?
他にも、今日はなんかいつもと違う感じがした。他の奴が変なのか……、それとも俺が変なのか…。
何とは無しに屋上庭園に行くと、夕方の風が心地好かった。


「はぁ、誰かいねーかなぁ」


そうひとりごちてぐるりと見渡すと……少し離れたベンチで寝ている神楽坂を見付けた。なんでこんな所で…、いや、アイツいつも変な所で寝てるよな。寝てるけど、折角見付けた知り合いだ。話し相手にでもなってもらおうーっと。神楽坂の傍に行き、一先ず「おーい」と声を掛けてみる。


「…………ん」


「…あ、起きた」


神楽坂はうっすらと目を開けると、顔を上げて「あれ」と言った。


「名無し………?」


「よー。悪い、なんか暇でさー。ちょっと隣いいか?」


「うん」


隣に座り深く息を吐くと、神楽坂は俺の顔をジーッと見つめてきた。


「何かついてる?」


「………、覚えてない?夢…」


「は…?」


覗き込むような神楽坂の目。なんで神楽坂が俺の夢なんか気にするんだよ…、つーか、教室でも夢の事で羊達の態度が不自然だったな…。なんか関係あるのか?


「それ、教室でも似たような事聞かれたけど…俺の夢がどうかしたのかよ?」


「……名無し、ちょっと…乗って」


「えっ!?」


質問を流され、唐突に神楽坂に「膝に乗れ」と促される。いやいやいや、いきなりなんだよ!?野郎同士でそれは流石にキモいだろ!


「…乗ればわかる。」


「何が!?」


俺は断固拒否していたのだが、腕を掴まれ…神楽坂が腕を掴んでくるとか相当だな、と思い渋々頷く。本当は遠慮したいぞ、男の膝に座るなんざ…。マジで今日はどうしたんだよ皆……。
観念して、一瞬だけだ一瞬、と神楽坂に座る。すぐに降りるつもりだった…のだが、俺はしばらく動く事が出来なかった。
神楽坂の上に俺が座ってる…?何これデジャヴュ………いや、正夢…


「……正夢…………、…夢…?」


あれ?なんだっけ、なんか…思い出せそう……。なんだ?何の夢だ…!?


「………あ…」


神楽坂が俺を見上げてる光景、…見た事がある。確か、朝焼けで………蛇がいて…。


「……えーと…っ」


…思い出せそうなのに、あと一つのきっかけが足りなくて出てこない。喉まで出かかった言葉が出ないみたいに、気持ち悪い…!
すると神楽坂は、ヒントのように一言呟いた。


「………星座。」


「そうそう、星座……!って、なんでお前が俺の夢を知って………………、…ああぁぁぁぁ!!!!」


うーーっわ!思い出した!今めっちゃ思い出した!!
思わず俺が叫ぶと、流石に驚いたのか神楽坂は少しだけ目を見開く。そんな神楽坂の肩をガッと掴み、俺は……まず真っ先に謝った。


「すまん神楽坂!夢とはいえ…お前との約束忘れてた!!」


「あ、あぁ……。いや……夢だし…平気…」


会いに来いって言ってたのに忘れるとか駄目だろ俺!……それにしても、神楽坂の驚いてる表情って新鮮だな…。
驚かせた張本人のくせに俺がジロジロと神楽坂を眺めていると、神楽坂は「夢は、どこまで覚えてる?」と質問してきた。


「えーとー………、…十二個部屋があって、番人に鍵を貰わなくちゃならなくて、…………そのために…」


えろい事をして。


「……………で、最後にお前がいて、…って……あれ?」


粗方思い出した時点で、はて、と言葉を止める。一体ナニをやったかはハッキリ思い出せるのに…


「…………誰がいたっけ…」


夢に出てきた人物を、神楽坂以外全く思い出せなかった。
十二人もいたのに一人も思い出せないってなんだ!?


「うー…………、…確か…星座…だよな。……」


真っ先に思い付いたのは牡羊座の不知火会長だが…、夢とはいえ恐れ多過ぎる!いくらなんでも、ないない…。


「……あぁそうだ!お前、最後に俺の記憶消すとか言ってたよな!」


「うん、言った。」


そうだ、だから思い出せないんだ!
映像として思いだそうとすると、白い靄がかかったみたいに記憶が霞む。誰が夢に出てきたのかは気になるが……思い出さない方がいい気がする…。


「……ていうか、そもそもなんであんな夢見たんだっけ…?」


「……星座の導き」


「え、そうだっけ?」


物凄く非科学的な答えだが…、まあ、たまにはこんな事もあるかもしれないな。


「いやー、思い出した思い出した!」


もやもやしてた気分が晴れて、スッキリした!夢の事も思い出したし降りるか、と俺は神楽坂から降りようと身体を動かす。しかし、唐突に神楽坂に抱きしめられてしまい…それは叶わなかった。


「…かっ……神楽坂!?」


「………」


「…あ……」


神楽坂に無言で抱きしめられ、俺はもう一つ、忘れていた事を思い出した。一番…大切な事を。


「神楽坂…………」


記憶が残っていないところもあるが、…覚えてる。夢の中のルールで直接は言われなかったが…神楽坂は俺が好きなのだと伝えてきた。動揺した俺に、目が覚めたら会いにきてと神楽坂は言った。


『俺も、その時に言う。だからアンタも、その時に言って…正直な気持ち』


……。


「……いい?言っても…」


神楽坂の細い声。俺を抱きしめる腕に力を込めて、ちらと見上げてくる。俺がゆっくりと頷くと神楽坂は腕を解いて身体を離し、俺と目を合わせた。


「………、…」


「……」


「……緊張、する」


「おい!」


って、何ツッコミ入れてんだよ…。しかし俺のツッコミで幾分が緊張が和らいだのか神楽坂は表情を綻ばせると、そっと呟いた。


「うん…、………好き」


「………お…う…」


気持ちは知っていたとは言え、改めて言われると…言葉が出なかった。顔が熱くて、心臓が五月蝿い。


「名無し…、……アンタは、嫌い?俺の事…」


「嫌いな奴の膝に乗るかよ」


「良かった……」


ほっと溜息をついて、俺の胸に顔を埋める神楽坂。俺に嫌われてない、ってだけで満足したみたいな態度が、何故か落ち着かない。
…この感情は…なんだ…?


「…神楽坂、俺の気持ち言っていいか?」


「………うん」


俺は一つ深呼吸して、……ありのままの気持ちを伝えた。


「お前の事は…嫌いじゃない、むしろ好きだと思う……。」


「………」


「…でも、さ。……多分、友達として好きなんだよ、お前の事。」


「…うん、わかってる」


「…………」


神楽坂の声は、落ち着いている。確かに神楽坂の事は気になるし、この"好き"は友達以上の可能性もある。だがもしこの感情が吊橋効果によるものだったら…?それで安易に好きだと言うのは、神楽坂に対して失礼だ。………けれど、…


「…でもお前の、このままでいいみたいな態度………なんでだろうな、…すっげームカつく」


「……え…?」


顔を上げた神楽坂を見下ろすと、呆けた表情をしていた。俺は頭を掻き目を逸らすと、「だから」と恥ずかしさをごまかすように少し怒ったような口調で続ける。


「…お友達からお願いします!って事だよ!!」


「………」


「………な、なんだよ…なんか言えよ!」


別に告白ではないがそれと同じくらい恥ずかしい事を言ったというのに、神楽坂は小さく口を開けたまま固まっていた。
我ながら古くさいというか有りがちというか……でも、今の気持ちをありのままに伝えるとしたら、これしかなかった。


「……答え…、不満か?」


神楽坂の頭を小突き、唇を尖らせる。すると神楽坂はもう一度俺を強く抱きしめ、小さく言った。


「ううん……」


「…あっそ」


「じゃあ、好きにさせる。アンタを……」


「へっ、やれるもんならな」


あーくそ、顔熱い、つか絶対赤い!
顔が赤いのを見られないように、神楽坂の事を抱きしめ返す。神楽坂が動揺するのがちょっと可愛くて、俺が耳元で「お前が狼狽えてどうすんだよ」と小さく言うと、「……五月蝿い」とぼやいた神楽坂に、首筋にキスされた。


「っ…!お、お前!んなトコにキスすんな!」


「…ごめん?」


「なんで疑問形なんだよ畜生…」


夢の事はよくわからないが、それでもいい。友達から、なんて今時有り得ないかもしないけど……俺達はそんな感じに、緩くて良いんだと思った。


「ところでお前、俺なんかのどこが好きなんだよ」


「………、…変なところ」


「お前にだけは言われたくねぇぇぇぇ!!」


夕焼けの向こうに、濃紺の夜空が広がり始める。"夜空の廊下"よりも、ずっと広くて…高い空だ。
綺麗な空なのに、俺のツッコミのせいでなんか台なしだった。




























































〜蛇遣い座の部屋〜
(付き合い出してしばらく経った、とある日)











「神楽坂ぁ…っ、あ、…んん……!」


ローション塗れの神楽坂の指が、俺のナカがぐずぐずになるまでしつこいくらいに愛撫する。四つん這いだったのに腕に力が入らなくて、腰だけ掲げた格好でひーひー言っていた。神楽坂のベッドのシーツを、ぎゅうと握り締める。
俺達が付き合うきっかけになった妙な夢の中では、男に挿れるのも挿れられるのも案外すんなりいったが…やはり夢は夢だったらしく現実では指一本挿れるのも辛かった。しかし神楽坂は恐ろしいまでに丁寧で、今や指を三本突っ込まれても痛くない程だった。…む、むしろ……、…気持ちいい。


「名無し……挿れてもいい…?」


「ぅ、あ……神楽坂…っ、………」


ていうか好きな奴が目の前でこんななってて、よく今まで我慢できたなお前。あの意味不明なお友達から宣言から数週間、俺がちゃんと「好きだ」と告白するまで、あの時を除いて神楽坂は一切キスをしてこなかった。泊まりに行った事もあるのにスキンシップも最小限で、気持ち悪いくらい大事にされた(コイツだから気持ち悪くない…つーかニヤニヤしちまうのは完全に神楽坂病だな)。まぁその代わりちゃんと付き合ってからは、物凄く甘えてきたのだが、それがまた可愛いのだ。だから、自惚れた事も考えてしまう。


「言ってくれないと、わからない…」


「っひ!ぅ、やめ……っ、ソコ舐めんなって……んん!」


神楽坂は俺のナカをえぐるように指を曲げると、後ろから耳を舐めてきた。夢の中で俺は耳が弱いと知ったからと、神楽坂は俺を抱きしめる時によく耳を撫でたりして悪戯してくる。無視できればいいのだが、好きな奴に触られて無視出来る程、俺は出来ちゃいない。


「言う、から…ぁ……あぅ、ん!」


「ん……?」


神楽坂の吐息がえろい。若干呼吸が荒いのは興奮してるからだと思うと嬉しかった。俺は顔を神楽坂に向け、時折息を詰める。はあ、はあと必死に呼吸しながら、消え入りそうな声で神楽坂に言った。


「いい、から…っ………早く、お前の…………ちょうだい…」


「っ……、…本当………困る」


「何が、ぁ……っあ!く、ぅぅぅー…ッ」


指が引き抜かれたと思ったら神楽坂のペニスの先端がナカに捩込まれて、現実世界では初めてとなる挿入に呻いた。散々慣らされたから痛みはなかったが指よりも太いそれに圧迫されるようで…、でも俺は神楽坂の熱に胸が高鳴るのを感じた。大概馬鹿だな…俺も。
ゆっくりと侵入してきて、ようやく根本まで入ったところで神楽坂は深く息をつく。


「んぅ、う……はぁ…あ…神楽坂ぁ…っ」


「はぁ……っ、名無し…可愛い…」


「はぅっ!あ、あっ……うぁあっ!」


ずるずると抜かれたと思ったら、また奥まで突かれる。抜かれる時の切なさと突き込まれる熱さが堪らず、俺は声が抑えられなくなった。


「可愛い…、可愛過ぎて、困る……っ、ん…」


「うる、せ…っ、ひっぁ、ああ!…くっ、ぅぅん………」


そう、神楽坂は二人きりになるとやたら可愛い可愛いと言ってくるのだ。自分の行動を思い返しても可愛げのあるところなんか皆無なのに、…やっぱり変な奴だ。


「神楽坂…、あっ…ぅ…、ちょっと……タンマ…!」


「ん…、なに……?」


「待っ、て………っ、イっちまいそ…ッ、…っ!?ひ、ぅっあああぁぁっ」


ぐちゅぐちゅという音が耳につく度に身体の熱が上がって、俺はもうイってしまいそうになった。どうせなら神楽坂と一緒にイきたくて、待ったをかけたのに…なんでコイツは言う事聞かないんだ…!


「ば、か…神楽坂ぁっ!やっ、ぁ、んんんっ!やだ、イっ…ちゃ、ぁ……ぅぅんっ」


「わざと…?あまり、言わないで……そういう可愛いこと…っ」


どこか切羽詰まったような神楽坂の声に、身体がきゅう、と熱くなる。


「だって…ぇ……っ、んっ、ああぁ!おまえと一緒に…イきた、い…っ……は、ぅあっ、あ!」


「くっ、ぅ………、俺を…そんなに喜ばせたいの…?名無し…ッ、」


「なっ、あ……知らな、ぃ…っい、あ、あっ…あぁ、…んっ!」


気持ち良くて何も考えられない…けど、なにやら墓穴を掘っているらしい事は確かだった。身体が揺すられ、その度に視界が霞んでいく。初めてっちゃあ初めてだが、やっぱり、夢とはいえ快感を知っているからか…早いけど、もう限界みたいだ。


「かぐらざか、…っ、も、無理…無理…っ!イく、ぅ…っ」


「っ、は……名無し…、呼んで、名前…」


「はっ、…ぁ…っしき……四季、ぃ…!んっ、んんぅっ!」


「あぁ、本当……可愛い…名無し…っ」


「あっ、あ……あぁ!や…も……イく、イ………っ、んあ!あ、四季…っ、ひっあ、あ…ああぁぁぁぁっ!!」


びくっと身体が跳ね、頭が真っ白になる。あ…、イったのか…とぼんやりと考えていたのだが、俺が休む間もなく神楽坂に突かれ、情けない声が上がった。


「ひゃあぁっ!待っ…今、イったばっか、だ、って…ッ」


「ごめん、…っ待てない……」


なんとか振り返り涙のにじむ目で睨みつけると、余裕のない神楽坂の顔が見えて…不覚にもドキッとしてしまう。


「あっ…、そんなに…締め付け、ないで…」


「ふっ、ぅ…うぅ……っ!」


「……っ、!」


神楽坂は息を詰めると、突然ずるりとペニスを抜いた。直後、尻に生暖かいものが掛かって…神楽坂の過保護具合に俺は呆れて溜息をつく。


「…お前な………、…別に気ぃ遣わなくていいっての…」


ナカに出したっていいのに。後々面倒くさいらしいけど、神楽坂だったら別に…。


「…アンタに、無理させたくない……」


「俺は女子か!!…はぁ、ホントお前って馬鹿。」


「…馬鹿じゃない」


「馬鹿だ馬鹿、ばかぐらざか」


「…………」


「まぁ…どうでもいいんだけどさ……」


「…なに?」


「…………キス」


「ん」


身体を起こしてキスをねだれば、神楽坂は俺を抱きしめそっとキスをしてくれた。最初は唇を舐めたり軽く吸ってみたりする程度だったのだが、焦れた俺が舌を捩込むと、神楽坂はちょっと驚いた様に目を開いたがどこか嬉しそうに俺のキスに応える。


「…っん……、ふ…」


「ぅん…」


「っはぁ…、………神楽坂…」


「……うん…?」


「………」


口にするのが恥ずかしくて言えなかったが、俺は心の中で「好きだ」と呟くと、神楽坂の背中に腕を回して身体をくっつけた。
俺の性格をわかってるからか無理に追及してこない神楽坂が愛おしくて、結局言ってしまう俺は……うん、やっぱり神楽坂病なんだな。


「好きだよ、四季……。」


















end












2012.6.7

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あきゅろす。
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