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Novel
08→←07【幸せの為に幸せを捨てられるか】
ジリリリリリリ
目覚まし時計がけたたましく鳴る音で俺はベッドから飛び起きた。ヤバい、寝坊だ・・・!あぁもう!なんで目覚まし時計の時間が30分遅くなってるんだ!?昨日の夜は、小テストの採点をしていたからいつもより寝るのが遅くなってしまったのだ。俺はベッドから飛び降りると、素早く身支度を整えて部屋を出た。今日は朝のうちにやっておきたい仕事があったのに!!
明日はちゃんと起きるぞ!!うん!


「はよーございまーす!」


職員室の扉を勢い良く開けて室内に入ると、既に殆どの教員が机について仕事をしていた。俺の声に返事をする先生達の苦笑まじりの挨拶を聞き流し、俺は急いで机についてパソコンを立ち上げた。授業で使う資料を慣れた手付きで仕上げていると、そろそろ教室にいかなければならない時間になっていた。朝に仕事をすると、よく捗るなぁ。俺はそんな事を思いながら教室へと足を運ぶ。
…そして案の定、教室についた途端梨本達が仕掛けた罠に引っかかってしまった。
盛り上がるクラスを落ち着かせ、出席をとる。騒がしい事この上ないが、俺はこの楽しい空間が大好きだった。














そしてその時は、突然訪れることになる。

















すれ違う生徒達と挨拶を交わし、悪戯好きな高校生を叱り、体育の授業では生徒と一緒になって思い切り体を動かす。今日も1日が楽しかった。
放課後、俺は職員室に残り黙々と仕事をしていた。いつの間にか日は暮れ、仕事をしているのは俺一人になっていた。そのことは特に気にも留めずパソコンのキーボードを打っていると、ふと職員室の扉をノックする音に意識が現実に引き戻される。


「失礼します」


二度のノックの後に遠慮がちに扉を開けて入ってきたのは、東月だった。東月にしては珍しく今日提出の課題が終わっておらず、今日中に出せば特別に減点はしないと言っていたのだ。まさか本当に今日出してくるとはなぁ、流石だ。東月から課題を受け取り、労いの言葉を掛け俺はまたパソコンへと向かったのだが、どういうわけか傍らに立つ東月は立ち去る気配を見せなかった。


「陽日先生」


名前を呼ばれ、ドキリと心臓が跳ねる。
仕方がないのだ、俺は生徒である東月に密かに想いを寄せているのだから。


「ん、なんだ?」


平生を装い返事をすると、東月はいやに神妙な顔でまた名前を呼んだ。俺が手を止め目線を東月へと移すと、東月は苦しそうな笑顔を作って言ってきた。


「迷惑なのはわかっています。…でも、言わせて下さい。俺……先生の事――――――――――――――





























昨晩遅くまで小テストの採点をしていたから寝るのが遅くなったのだが、目覚まし時計が鳴る前に起きれるなんて、ツイてるなぁ。(でももう少し寝ていたかった)
俺は寝不足のせいで重い身体でベッドから降りると、部屋の窓辺で大きく伸びをした。朝日の優しい暖かさに目を細める。(あと30分でも寝ていれば、疲れが取れたような気がする)
さて、今日は朝のうちに片づけておきたい仕事があったんだ。


「おはようございまーす」


職員室の扉を開け寝ぼけ眼を擦りながら、俺にしては珍しく覇気のない挨拶をする。ちらほらと教員の姿が目についたが、俺に形式的な挨拶を返すと再び自分の仕事に戻っていった。俺は自分の机につくとパソコンを立ち上げ、授業で使う資料を作り始めた。しかし睡眠不足の頭では作業効率などたかが知れており、なんやかんやで始業の時間が迫ってきていた。(やっぱ寝不足はダメだな。こんなにも仕事が捗らないなんて。)
教室に入る前に、まずトラップが仕掛けられていないか確認するのは、もう日課になってしまっていた。まったく!梨本達も飽きないな!…俺自身も全く飽きないが、疲れの残る身体の今は、生徒の悪戯に付き合うのが少々億劫だった。(おかしい、普段はこんな事思わないのに)














そしてその時は、突然訪れることになる。















すれ違う生徒達と挨拶をする。
悪戯好きな高校生を叱り、体育の授業では生徒と一緒になって思い切り体を動かす。
普段通りを装ったが、しかし疲れた。(今日はツイてない…。)
放課後、俺は職員室に残り黙々と仕事をしていた。朝に仕事を進められなかった分、急いで終わらせなければ…。しかし焦っても焦っても、どうにも上手く仕事が進まない。
いつの間にか日は暮れ、仕事をしているのは俺一人になっていた。そのことを特に気にも留めずパソコンのキーボードを打っていると、ふと職員室の扉をノックする音に意識が現実に引き戻される。


「失礼します」


二度のノックの後に遠慮がちに扉を開けて入ってきたのは、東月だった。東月にしては珍しく、今日提出の課題が終わっておらず、今日中に出せば特別に減点はしないと言っていたのだ。(普段真面目にやってるから、とはいったが、実際は俺が東月を好きだからっていう依怙贔屓だ)
まさか本当に今日出してくるとはなぁ、流石だ。東月から課題を受け取り、労いの言葉を掛け俺はまたパソコンへと向かったのだが、どういうわけか傍らに立つ東月は立ち去る気配を見せなかった。


「陽日先生」


名前を呼ばれ、ドキリと心臓が跳ねる。
仕方がないのだ、俺は生徒である東月に密かに想いを寄せているのだから。


「ん、なんだ?」


平生を装い返事をすると、東月はいやに神妙な顔でまた名前を呼んだ。俺が手を止め目線を東月へと移すと、東月は苦しそうな笑顔を作って言ってきた。


「迷惑なのはわかっています。…でも、言わせて下さい。俺……先生の事…、………好きなんです」


「と…う、づき…?」







突然訪れた告白という時間。俺は勿論交際を承諾した。両想いだったなんて、今日は朝から冴えなかったが、その分一番のツキが今回ってきたようだ。
その後の日々は、非常に充実していた。東月と過ごす時間はとても楽しく、また温かく、幸福そのものだった。放課後の教室で夕日に照らされながら静かに口付けを交わすなんて、中々ロマンチックじゃないか。

しかし、幸せな日々はそう長くは続かなかった。

教師と生徒が交際しているという事が、どういうわけか学園全体の噂となり、その証拠ともいえる写真が出回ってしまったのだ。俺は星月学園にはいられなくなり、泣く泣く東月とは縁を切らねばならなくなった。
(…ツイてない)
あの日、…告白されたあの日、どうしてこうなる事を予測できなかったのか。俺はそればかりを悔やんだ。


























一瞬意識が飛んでいた。
慌てて顔を上げると、若干頬を染めて俯く東月が目の前にいた。
何を言ったのか、俺は聞いていない。しかし、東月が何を言ったのかは不思議とわかっていた。
そう、告白されたのだ。
嬉しい、素直に、嬉しい。しかし今意識を失っている最中に見た映像がフラッシュバックする。突然舞い込んだツキに目が眩み、立場を忘れて欲求に従った自分の末路を辿った映像が。
今朝、寝坊したことは実は今日一日を非常に効率よく過ごす為に必要な不幸だったのだ。先の映像では、寝坊こそしなかったがそのあとのモチベーションは下がり活力のない一日を送っていた。たった30分の犠牲が、一日を幸せにした。
…ならば。
俺の答えは決まっていた。


「…ありがとな。でも……俺とお前は教師と生徒だ。付き合うことは…できないよ」


付き合っている事が発覚したら、東月だって後ろ指を指されることになる。
これは………これから先の人生を幸せにする為の、必要な不幸なんだ。











俺と東月は向かいあったまま、しばらくの間静かに泣いていた。















end



2012.4.5

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