Novel 【拍手】02*12 「なあ梓」 翼がおもむろに声をかける。 「ボーッとしてる時って、どこを見てるものなのだ?」 「は?」 意味不明な質問に目を細めるが、言われてみれば確かに、と梓は顎に手を当てる。何も考えていない時でも目は開いている。そして、どこかしらを見ているものだ。しかし、何を見ているかと聞かれると返答に困る。 「……景色」 「どんな景色」 「あぁもう五月蝿いな、なんでそんなこと気になるんだよ」 梓が面倒くさそうに翼に背を向けると、翼はその距離をぐっと縮めた。 「今、まさに俺ボーッとしてた」 「だから?」 「ふっと気がついたら、やっぱり視界にはお前がいたんだ」 何も見ていないようで、それでも見ていた姿があった。 「キスしていい?」 「ダメ」 「ぬぬぬ……今結構ロマンチックな雰囲気作ったんだぞ!」 「知らないよ」 意識していなくても入ってくる姿。本質的に梓が好きなのだと、翼は改めて感じた。 END 2019.7.12 前へ*次へ# [戻る] |