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Novel
プラヴィック-Pluveck-番外編 V







プラヴィック収監施設。プラヴィックを捕獲、或いは保護し出荷もしくは実験材料として扱う。食用でないプラヴィックはEXEとして起用される事もあるがそれは実力に応じる。
人間の見た目をした、ある程度の知能を持った動物を相手にするのは……優れた知能を持ちながらも倫理観に欠け、死刑囚として執行を待つ犯罪者達だった。

「お前への“教育”を先延ばしにしていたのはコイツだ」

琥太郎は、おずおずと現れた水嶋有李を顎でしゃくる。彼女が何を犯したのか……しかし死刑確定となった彼女の本質は変わらず穏やかなものであった。たった一匹のプラヴィックに情を寄せる程。

「ごめんね、陽日君……まだ幼かった貴方に、事実を伝えるのが辛くて…。でも結局酷い仕打ちになったよね…!」

「水嶋さ……」

「感動の再会はいい。直獅、さっさとシャワーを浴びて自室に戻れ。処分はそれから言う」

「琥太にぃ!!」

有李の悲痛な叫びがフロアに響く。琥太郎はさっさと踵を返すと、施設の奥へと歩を進めた。
手当の必要もないなら俺は不要だ。さっさと仮眠を取りたい。
琥太郎はだらしなく履いたスリッパを引きずって歩いていく。彼は医者として輝かしい成果を上げ続けた研究者だった……が、彼の享楽的な趣味に世間は唖然としたのである。彼は消化器のオペをする際、信用のおける助手を除いて全ての者をオペ室から追い出す事で一時話題になった。その真の目的は……消化器内に麻薬や毒薬を含んだ、体内で溶ける袋を縫い付けじわりじわりと殺すか堕とすかしていたのである。世間は悲鳴を上げ、琥太郎は即刻死刑を言い渡された。しかしその腕と狂気を政府に買われこうして施設で勤めを果たしている。

「センセぇ……ッ!」

今まで信頼を寄せてきた。だからこそ直獅の中で怒りが湧き上がってしようがないようで、ぱきん、ぱきんと剥がれ落ちる血液の音をかき消すように全身に力を漲らせる。

「今まで……仲間だと思ってきてたのに…」

「……」

琥太郎は足を止めない。

「友達だって、思ってたのに!!!」

「そうか……」






「それはお前の、妄想だ」






その一言が、遂に直獅を“キレ”させた。牙を剥き出し、爪を向ける。直獅は物心ついた頃からここにいる。同族の仲間はおらず、人間としかコミュニケーションを図ったことがない。教育も受けてこなかった彼にとって、人間が……琥太郎が仲間だったのだ。

「てめぇえええええ!!!!!」

怒りで目は充血し、こめかみに浮かぶ血管は今にもブチ切れそうである。直獅は冷たい床を壊すように踏みしめると、指をすぼめ爪を立て、心臓を貫こうと思い切り腕を振りかぶった。琥太郎の事は大好きであったが、大好きだったがために自分では怒りをコントロールできなかった。

「それが“人間”なのかよ!!!この野郎ォォォォォッ!!!!!」

直獅の爪は、易々と肉体を、心臓を貫いた。

「がフっ……」

しかし貫いた相手は、琥太郎ではなかった。琥太郎は、彼女が……有李が自分を庇うだろうという事が最初からわかっていたかのように、一瞬だけ立ち止まったが……、すぐに歩き出した。

「なっ…!?」

「ダメ、だよ陽日君……、琥太にぃ、は…友達、なんでしょ…?」

慌てて腕を肉体から引き抜く直獅であったが、それはかえって逆効果で、次から次へと血液があふれてとまらない。

「水嶋さん!!なんであんな奴庇うんだよ!!」

有李は確かに直獅に教えるべき事を教えずかえって傷付けるきっかけを作った人間である。しかしそれはあくまで直獅を想っての事だった。

「聞い、て、陽日君……」

「アンタを壁にしたアイツを殺すのが先だ!!!」

「琥太にぃは、君たちにとって、絶対いい存在になる…その研究をしてる……だから…直獅」

息も絶え絶えの有李が、最後の力を振り絞り名前を呼ぶ。

「EXEになって。貴方の力で貴方達の運命を変えて。今はまだ、貴方はここでしか生きられない。食べ物だって人間と異なる。でも……」

「EXEって…なんだよ……ッ」

「貴方の力で人間とプラヴィックを守るの……正しく力を使っ、て……」

がくり。
直獅は嗚咽した。















有李の死亡が確認された後にやってきたのは、有李の弟だった。後任としては前任者よりも腕が立ち周囲の信頼を集めた。知ってか知らずか、後任者は直獅にきちんとした教育を受けさせることはなかった。姉さんの意向だから、か、自分自身の判断か。
後任は直獅に次々と仕事を言い渡す。自分で学べと言わんばかりに。
そのうち直獅は察するのである。

俺は人間じゃなかった━━━━

人間と俺たちが共存する事はできない、と。
ではどうやって生き延びるか……

「ここでEXEとして働くしかない」

自分を裏切った人間を守るのが使命。
それが……プラヴィックとして生まれ落ちてしまった、自分の運命なのだ。
















2019.7.6


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