E 歪んでいる。そう言われた。 誰にって……調停者に。 「ホントか、アル」 「うん。原因はわからないけど……歪んでる。というか暴走気味」 長い耳に下がるピアスを気にしながら、調停者アルタイルは言う。 「ナツヤシュウ。キミは『破壊』と『流転』を持つ人間に、一体なにをしたの?」 さっきまでの会話と全く関係のない質問。しかも意味がわからん。 なんて答えるべきか迷っていると、もうひとりの調停者がつぶやく。 「やっぱ違うんじゃ……」 これもまた意味がわからない。 ただわかるのは、ふたりの表情がひどく似ているということ。ピリピリしているというか、焦りのような。強張った表情だ。 なにをそんなに焦ってんだ? 「お前にはわかんねぇよ」 シリウスが軽く一蹴。毒を吐くような物言いがちょっとムカつく。 「今日はキミに、教えに来た」 いつもの朗らかな笑顔など微塵もうかがえない、人形みたいなアルに、右、目が……ッ! 「また、暴走した」 「『傍観』よりタチ悪りぃな」 チカラが発動していても、手で覆ってしまえば心は聞こえないことに最近気付いた。しかし青い右目が "何か”を捉える前に覆わないと意味がない。 さっきのは、アルに対して発動したのか? 「そんなことはいいんだけど、早く宝を見つけた方がいいよ」 「そうしないとお前ら――」 「シリウス」 何か言おうとしたシリウスの言葉を遮り、アルタイルは告げる。 「キミはアマノレンヤに会ったかい?」 レンヤ?まぁ、会ったぞ。宝探しに協力してくれる。 「彼のチカラ、知ってるよね?」 『デザイアチューン』だな。知ってるぞ。 「そのチカラを得たことで、その人間はどうなった」 どこか哀しい顔で、シリウスが言う。デザイアチューンを得て、レンヤは……どうなったか。 ヘッドホンと耳栓をしていないと、周りのあらゆる声を聞いてしまうらしい。それでそれをひたすら口にし続ける。それこそ機械のように、レンヤにそれを止める術はない。 「つまり彼は、不自由なんだ」 多少飛躍的だが、まぁそうなるな。 レンヤが不自由だということに肯定の言葉を返すと、アルとシリウスはわずかに笑う。そして、 「あはっ」 アルは空を仰いで笑みをこぼした。晴れ晴れとした表情ではあるが、どこか影を感じる。 シリウスはそんなアルを微笑ましげに眺めていた。子を愛でる親のまなざしに、よく似ている。 「じゃあナツヤシュウ。お前に質問だ」 向き直ったシリウスは、もういつもの生意気な吊り目で、ヒトに向かって指なんかさしやがる。てめ、それマナー違反だろっ。 「お前らは神から神のチカラをもらった」 一部だけどな。 「人間は神の一部で、不自由になってしまう。お前やアマノレンヤ。ほかにも、な」 マナミは重宝してるけどな。最近は皿を浮かすことに成功している。 「もし、お前ひとりで神のチカラを一手に引き受けたら、どうなると思う?」 13コのチカラを、オレが? ……いや、マジ無理。遠くばっか見えるし刃物は出てくるし、ウサギに変身するし……レンヤのチカラは、いらない。 シリウスが曖昧な表情をした横で、アルはひときわ大きく笑い声を響かせる。 「神は、ゼウスは、お前が要らないと言ったチカラ全てを持ってた。だから神だった」 理解しづらい、ハッキリしろ、右目が疼いてしょうがないんだ。 アルはぴたりと笑い声を止めると、笑顔を口元にのみ残し、言った。 碧の瞳は、猛禽類のように、鋭く殺伐とした光を放っていた。 「神様は――不自由なんだ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |