[携帯モード] [URL送信]
B






 寂れた駅を様々な制服が行き交う。


 住宅地がメインのであるこの辺の土地は、見知らぬ制服が駅から吐き出され、うちの学校の制服が吸い込まれてゆく。朝はその逆。

 普段ならば電車が人の波を流し、刹那に賑わい、再び殺風景な沈黙が訪れる。そんな寂れた駅は火をつけたらよく燃えそうだ。


 「ヤバイよこれはマジでヤバイ。どうしよ、いたらどうしよっ、サインとかもらっても平気なのかなっ?大丈夫かなっ?」


 寒さに小さく跳ね、妙なテンションになっている理香の横で、オレはくしゃみをひとつ。

 べつにな、影ロウはオレも多少なり興味あるから待つのもいいんだ。寒いのは仕方ないし、昨日あたりそろそろ山では雪が降るかもなんてハナシも聞いたさ。

 でも2時間待っても来ないとなると、テンションのひとつおかしくなるさ。


 「2時間なんてばっちこーいっ!!2日でも2ヶ月でも待ってやらぁ!!」


 忠犬かお前は。

 理香の影ロウ情熱は冬の寒さに負けないらしい。なかなかあきらめようとしない。こっちのくじけ具合も見てほしいもんだ。


 オレ達以外にも影ロウ目当てであろう人はちらほらいる。しかし、痺れを切らして今は半分以上帰ってしまった。オレも帰りたいなぁ、チクショー。

 あー、あいつらハニワかよ。ずりぃな、でもうらやましいとは思わないぞ。


 「あっ――」


 突然横から引っ張られ、思いっきりバランスをくずす。転ぶまでには至らなかったが、危ない。マジで危ないんだけど、理香。


 「いた!」


 嬉々して叫ぶ理香の声に、寒さに震えていた人々や、さっきのハニワも何かに気付く。



 ――音、鳴る。



 駅近くにある小さな公園。その隅にある土管の上、そこから音楽が聞こえ、何かがいた。暗くてよくわからない。

 オレ達同様、音に惹かれるかのように人が集まる。

 そして旋律にリリックが重なる。


 「……っ」


 理香が息を呑むのがわかった。いや、オレもか。

 唄の良し悪しはわからないが、これは上手いと言っていいんだろう。マイクなしでこの音量はすごい。

 土管に立つふたりとその下で楽器を鳴らすふたり。男女4人のグループだ。

 いわゆるツインボーカルっていうやつで、女性と男性のハモりがなんかもうすごい。最後にはやっぱすげーなんだ。すげーすげー。


 『ワタシハ、満タサレテイル』


 ――え?

 何だ、いまの……ブルーマインド?

 満たされていると言ったわりには、つまんなそうな声だったけど……

 一体、誰の心だ?


 「あれっ、修?」


 聞き慣れた声が、いつもの調子でオレを呼んだ。ん、この声は?


 「叶亥先輩!?」


 理香が素っ頓狂な声を出す。当たり前だ、寮にいるのだろうと思っていたマナミがここにいるんだから。

 なんか私服だし、マナミも影ロウ目当てか?


 「違うわよ。なに、アンタ知らないの?」


 腰に手をあて、なんか偉そうにしている。よくわからんが、腹立つ。

 なんだよチクショー知らねぇよコノヤロー。


 「ホントに?わからない?」


 つい、とあごで土管の上を示す。女性の澄んだ高音が寒空に響く。ひと昔前に流行ったバラード……って、アレ?

 マナミがふぅ、とため息ひとつ零しながら、言った。



 「あれ――アミイよ」




 


[*前へ][次へ#]

3/17ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!