O 初めてチカラが発動したのも、このへんだった。 3階に着いた瞬間。幼い声が罵りあいをしているのが聞こえた。 『サクまで裏切るんか。そうしたらうちはひとりになるんや』 『リクは分からずやだ。ウチはひとりになんかなりとうない』 『どうせみんなおとんと同じなんや。サクもタクも、ミクだってうちを裏切る。ひとりにする』 『ひとりになったら、意味がないんや。リクはわかってない』 お互いを反発する言葉ばかりが聞こえ、しかしお互い『ヒトリ』を嫌っている。 同じ荷物を背負うヒトリ。 ふたりが嫌うヒトリは、別のヒトリなんだ。 「お前は……」 「なつや、しゅう」 4階に姿を表すと、声がぴたりと止んだ。同じような顔が同じような表情で固まる。 しかしすぐに、 「お前、神を喚んだことあるんやろ?いますぐここに喚べ」 リクがダンッと足を鳴らし、偉そうに命令する。 神なんか呼んで何するんだよ。 「決まってんやろ。うちらの願いをかなえてもらうんや」 まだ宝見つけてないだろ? 「関係ないっ!!あとで見つけるからかめへん!!」 なんて自分勝手な……。マジで呆れてしまう。 呼ぶのはいいが、 ――どっちの願いを叶えるんだ? それを聞いた瞬間。リクの顔が強張った。思ってもいない質問だったのか、それとも…… 「どっちもあらへん、『うちら』の願いや」 まだわからないのか、こいつは。サクはとっくに分かっているのに。 じゃあ聞こう。舟越 李久。お前の願いはなんだ? 「うちの願いは……ひとつの人間になることや」 誰と? 「そりゃ、サクとや」 じゃあ舟越 叉久。お前の願いは? リクが、ハッとした。やっとわかってきたか。 「ウチは、一人になりとうない。同じ荷物なんか背負いとうない 「サ――」 「一人になったら、リクと遊べへん。じゃけ、いやや」 これで間違いない。こいつらを導く場所は――同じなんだ。 「サクは、うちを裏切るんやな」 「ちがう。ウチは、リクと」 「嘘つけッ!!だって、だって一人になれば、別れることがなくなるんや。それなのに……」 お前は、馬鹿だな。 「なんやて?もっかい言うてみぃ!」 独りになりたくなけりゃ、一緒にいればいいじゃん。荷物だって、ふたりで半分こすればいいじゃん。 どうして一人になりたがる。サクは一人が嫌なんだよ。 「だって、そりゃ……」 裏切るからか?裏切られていなくなって、独りなるのが嫌だからか? 「……そうや」 ホント馬鹿だなお前。 まずお前らは――ふたりですらないのに。 舟越……卓とか、そのミクって子とか、あと母親。それだけじゃない。 レンヤもお前らを心配してたし、マナミも似合わない説教かましてた。虎ヶ峰もお前らのワガママ聞いてあれこれ頑張ってくれた。アミイさんもずっと見ているし、オレだってこうして此処に来た。 お前の周りは、こんなにも広いんだ。ふたりっきりの世界なんて、あるわけない。 「「……」」 ただお前らは失うのが怖くて互いにもたれ合っていただけだ。 立って、歩けば、いろんな世界がある。その中でいろんな人と繋がることができる。 一人じゃ、手を繋げないだろう? 「リク」 サクが、正面からリクに向き合う。 今まで自分の横にいた自分の半分が、自分を見る。 「ウチは思ったんや。荷物があるなら背負わなくても、半分こすればいいって、ウチとリクみたいに」 「……」 「ふたりで荷物持ってどこにでも行こう。――『一緒』いよう?」 ふわりと、サクが笑う。細めた目が舟越によく似ていた。 なんだ、似てんじゃん。 [*前へ][次へ#] [戻る] |