K スポーツの秋とはよく言ったもんだ。 暦(コヨミ)のうえではもう冬だが、見事な秋晴れ、澄んだ空気に陽射しがほどよく当たる。 「じゃあまずは鬼から」 実行委員放送係の虎ヶ峰はいないので、代わりにゴローが教卓で指示を出す。 オレの手には――ネコ耳カチューシャ。 まぁオレはつけないけどな。ホントによかった。 全部で300人。監視役の実行委員も含むとそれを越える数になる。鬼と逃走者くらいは見分けをつけようと、コレだ。 名前を呼ばれた鬼が前に出て、オレからネコ耳を受け取る。みんな嫌な顔か微妙な表情しか浮かべない。逃走者や見学はニヤニヤしている。 鬼は真っ先にわかるよう、棟ごとに違う耳をつける。 小棟はウサギ。中棟はネコ。高棟はネズミ。ちなみにネズミは某有名なアレだ。 「はい、修」 理香が渡してくれたのは、大きめのバッチ。青地に白抜きで番号が書かれている。 「なんだ、捺谷もやるのか」 ゴローがジャージにバッチをつけながら言う。お前もやるのか。 「いやぁ、部活で体力作りも兼ねて参加しろって、鬼がよかったんだけどな」 ゴローもつけてるバッチは逃走者用のバッチ。番号はのちのち役に立ってくる。ちなみにこれも棟ごとに色が違う。 『うちらはそれでも一緒にいる』 あの日、リクサクは自分達が分けられたことにショックを受けていたが、結構したたかで、放課後に部活へ向かっていた虎ヶ峰に、多少のルール変更を伝えたらしい。 『まず、リクとサクは鬼とか関係なく行動を共にする』 それをわざわざ寮まで来て伝えるのがイインチョーらしい。 『勝利条件なんだが……困ったことに』 そしてリクサクが出した困ったこととは、 『――神様の宝を見つけた方が勝ち、だと』 それを聞いた瞬間。真っ先に浮かんだのは、あの調停者。 あのふたりには宝探しのことを話していない。まぁ舟越が話す可能性もあるが、あいつらは仲が悪い。反抗期の娘とコミュニケーションをとりたがる父親並に悪い。まず聞く耳をもたないだろう。 つまりは、オレが動く気配がないので謀ってみた、そんな感じだろう。 「修。誰か呼んでるよ」 理香の一言で現実に引き戻され、見ればアミイさんが扉の前に立っていた。 その手には、ネズミ耳。有名な奴の。そっか、アミイさんは鬼なのか。 「マナミが盗撮してカノンに横流しするって張り切ってた」 まぁ、レアだもんな、そのネズミは。 「このチョイスはなかなか微妙だよね」 微妙な笑顔でつぶやくアミイさん。確かにそこかよ、って感じだよな。 慌ただしい空気は、イベント独特のそれ。放送がせわしなく鳴り続ける。 『九時半より三棟交流会 "鬼ごっこ”を開始します。各担任より連絡を受け、配置について下さい』 虎ヶ峰の声が、スピーカーから流れる。 [*前へ][次へ#] [戻る] |