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 オレは――飛んだ。


 いや、べつにオレは飛べるんだとかそういうんじゃなくて……まぁ自殺行為に近いことは確かだけど。

 驚愕の表情を浮かべている虎ヶ峰が見えた。当然だろう。

 風にあおられたのか、一瞬浮いたような感覚のあと、


 「んぐぇっ」


 堅い地面をのたうちまわるように、転がりながら着地。マヌケな声が漏れる。


 「捺谷!」


 給水塔から飛び降りた虎ヶ峰が、駆け寄ってくる。

 あぁよかった。マジで死ぬかと思った。


 虎ヶ峰、見たか?

 道なんて無かったけど、お前んとこに、来てやったぞ。


 「何やってんだ!お前バカだろ!?つうかバカだろっ!?」


 二度もバカ言うんじゃねぇ。お前に言われたら言い返せないけど。


 「危ないだろうがッ、死にたいのか!!」


 んなワケないっつうの。生きてやるさ。


 「じゃあなんで」


 急に言葉を切り、虎ヶ峰はうつむいた。そして、次に放たれた言葉は、


 「あんなことしたんだよ……」


 弱々しく呻くような声。この声は、どっかで聞いたことある。


 「なんでだよ」


 なんでって……そりゃ

 お前が扉開けてくれなかったからだろうが。


 「先に言ってくれよ……」


 あ、でもやっぱ開けても、飛ぶわ。

 お前に作ってもらった道を通ったって、お前はわかんないだろうからな。


 「……なにが言いたい」


 低くよく響く声。虎ヶ峰が怒るのって初めて見るな。

 さっき言っただろう。道標教えてやるって。


 「……」


 ていうかお前の道って、どんな道だ?


 「俺の、道は」


 再び、うつむく。


 「まっすぐ伸びた一本道だ。曲がり道も分かれ道もない、ずっとずっと平坦でつまらない道だ」


 つまらない道、か。


 「今までは景色があったかもしれない。でもじい様と父上がその道を歩いて、全て……消してしまった。あったとしても、砂漠みたいな乾いた景色だ」


 じーちゃんと親父さんとおんなじ道をお前は歩いているのか。


 「そうだ。最後に辿り着く場所も同じ。それまでの道も、つまらない」


 「俺は」

 『俺ハ』



 『「こんな道歩きたくない』」



 


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