D オレは部活動とやらが嫌いだ。 青春するためには欠かせない要素らしいが、あいにくオレは自分の時間を大切にしたいし、何より青春する気はない。 でも、この光景を見ると少し印象変わるな。 ……。「……」 凛、と張り詰めた静寂。思わずこっちまで背筋が伸びる。 虎ヶ峰は閉じた瞳を、静かに、静かに開いた。 「昨日は迷惑かけた」 ただっ広い剣道場の真ん中で、ひとり座っていた虎ヶ峰はまっすぐに立ち上がり、こちらに歩いてくる。 いつも制服かジャージ姿しか見ないから、新鮮。 「噂は本当だったみたいね」 午後から部活動がある剣道部。しかし朝早く、剣道場にやってくる男子がいる。 その情報を元に行ってみれば、案の定、胴着姿の虎ヶ峰がいた。 「雄志くん。こんな早くから来て何してるの?」 情報収集だろうか?それともただの興味か。 虎ヶ峰は少し黙り込み、 「特に。家にいてもヒマなだけなんで」 いつもより更に堅いその言い方は、まるで言葉を選んでいるようだ。 何故オレ達がここへ来たのか、探ってるみたいだ。 何故ってそりゃ……虎ヶ峰。お前に教えることがあるからだ。 「なんだ」 昨日の、お前のあのチカラ…… 「……アレは、だな」 「雄志くんも会ったのね。調停者に」 無言のまま、見開かれる茶けった瞳。つまり会ったってことか。 マナミは持ってきたタオルを床に置くと――浮かせた。 スプーンよりは軽いせいか、結構調子いいみたいだ。 「なっ……」 漂うタオルに絶句する虎ヶ峰。まぁムリないか。 ちなみにオレも持ってんだ。使えないけど。 「俺だけじゃ、なかったのか」 神にチカラを与えられたのは、全部で13人。 今んとこ4人くらいしか知らないけどな。 「それでね、雄志くん」 タオルを掴み、畳みながら、 「みんなで神の宝を探すの」 「……?」 小首を傾げる虎ヶ峰。まぁ当たり前か。 オレはな、チカラを神から直接もらった。 その時、ふたつの事を言われた。まずこの学校のどこかに神の宝を隠したこと。 13人全員のチカラで探さないといけないらしい。 「もうひとつは?」 コクコクうなずきながら真剣に話を聞く虎ヶ峰。仕草がいちいち幼いような気がするんだが…… まぁ。もうひとつは、宝を見つけたら―― 「願いをひとつ、叶えてくれるんだって」 あ、いいとこ取りしやがったなチクショー。 「願い?」 「そ、お願い事。ああなりたいとかああしたいとか」 「ああなりたい……」 掠れた声でつぶやき、うつむく虎ヶ峰。 ……あぁ、えぇと べつにムリにとは言わない。強制は嫌いだからな。まだ13人見つかってないし…… この話、同意するか? 「同意って……会員登録じゃないんだから」 言葉のあやだ。意味は合ってんだからいいだろ。 で、虎ヶ峰どうする? 「……悪いが」 うつむいたまま、呻くように言葉を落とす。 「その話、断らせてくれ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |