H
草木も眠る丑三つ時。
……使い方合ってる?自信ないんだけど。
オレは昨日の――正確に言うと一昨日の出来事を、いつもの日々じゃなくなったキッカケを、思い出していた。
『よぉ人間』
昨日――厳密に言うと一昨日、学校が終わり西日に向かって歩いていたオレは、不審者に遭遇した。
『お前、ナツヤシュウだな』
アロハシャツ。
まず思ったのは、なんでオレの名前を?まさか……ではなく、寒そうだなアロハシャツ、だった。
早いとこならもうクリスマスの装いをしているこの季節。アロハなんてやってる場合じゃない。
ハ●イ帰り?とも思ったが、
『オレ様はゼウス。神様だ』
落ち葉を踏み締める裸足を見て――なによりその発言に、ハ●イ帰り説は消えた。
いかにしてスルーするか考え、黙っていると、
『お前にオレ様のチカラを与えてやる。ありがたぁぁあく、頂戴しろ』
うわ、なんか気持ち悪い事言ってきた。
西日が逆光になり、顔はハッキリと確認出来ないが、ほっそりしたシルエットからは女性に見える。
でもオレ様って……まぁヒトの事言えた口じゃないけど。
『お前の他に12人、つまり13人にオレ様のチカラを与えた』
かがんだら地面につきそうなほど長い髪。後ろで三つ編みにしてあるから、解いたら400年間放置された呪いの日本人形並の長さなんだろうな。
『そしてオレ様は、この敷地内に宝物を隠した!』
キレのある動きで天を指さすアロハシャツ。効果音つきそう。
『それを皆で仲良く見つけろよ』
仲良く、か。宝探しに仲良くはハードル高いって。
『んで、発見した暁には――願いを聞いてやる』
またキレよく指をさす、オレに向かって。人に指先向けちゃいけないんだぞ、神だからとかいう理由も受け付けん。
『それを皆に伝えろ。――あと』
腕を下げると、西日が揺らいだ。思わずバッチンバッチン瞬きをする。
アロハシャツが消えていた。
「え?」
西日とのコラボイリュージョンに驚いていると、
『お前にだけ、極秘の宝探しだ』
すぐ背後で声がした。とっさに振り向こうとしたけど、直立のまま1ミリたりとも動かない。
ていうか……動けなかった。
『13人の』
どこまでも澄んでいて耳に染み込んでゆく、中性的な声。
頬に触れる髪は白く、わずかに毛先が灰に染まっている。
『ホントウの願いを見つけてほしい』
この時だけは何故か命令口調じゃなかった。
「ホントウの、願い……?」
『人間は愚かだ。だから己が真に望むモノすら、間違えてしまう』
だから、と神はわずかに微笑んだような気がした。
『ナツヤシュウ。お前が見つけてやるんだ、そいつのホントウの願いを。そして教えてやれ、気づかせてやれ』
オレが?
『宝を見つけ、13人全員がオレ様にホントウの願いを口にした時、』
次の言葉をオレにささやき、神は消えた。
『お前に良いモノをやろう』
蠱惑な響きを含んだ声。ふ、と自由になる身体。
アイツは――マジで神だった。
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