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オメガバース設定1(6)
・・・・嫌な夢を見た。悪夢ではないけれど今までに何度も見ているとても嫌な夢だ。
僕は布団の上に起き上がり、夢から覚めたまま掛け布団を押し退けて立ち上がる。
ふらふらとした足取りのまま、部屋を出て廊下を歩く。
途中で何度か躓きながら、渡り廊下を歩き母屋へ向かう。
離れは勿論、母屋も夜も更けた遅い時間のせいか、人の気配はなく静まりかえっていた。
それでも、疎らに照明は点いていて慣れない母屋のなかでも迷わずに来れた。
夢見心地のぼんやりとした意識がはっきりしたのは、兄さんのやや怪訝そうな、つくりもののように整った顔立ちを見た瞬間だった。


「朔夜?」


度のあまりはいっていない眼鏡をかけた兄さんの目が、僕の全身を見つめる。
こんな遅い時間に、母屋の兄さんを、忙しいはずの兄さんの部屋を訪ねてしまったことに、漸く我にかえって気が付いた僕は、ご、ごめんなさいと謝っていた。


「ごめんなさい、兄さん、あのなんだかよくわからないうちに寝ぼけて、そしたらいつのまにかここにいて、兄さんは忙しいのにあの」


兄さんの格好から察するに、まだ眠ってはいなかったようだけれど、僕は必死に謝罪した。
兄さんは、僕の要領を得ない説明にも動じず、僕の腕をつかんで部屋にいれてくれた。
そんな薄着でうろつくな、と夜着の上になにも羽織らず、素足でここまで歩いてきた僕を咎めたけれど、遅い時間にいきなり部屋を訪ねたことは、口にしなかった。
僕をひょいと子供を抱えるみたいに抱き上げた兄さんは、広い私室を抜け寝室の扉を開くと、ベッドメイキングされた広いベッドに僕を下ろした。


「先に寝てろ」


ふかふかの、ベッドの上に下ろされた僕はもぞもぞと中に潜り込む。
叱られるかと思っていたけれど、よかった。
枕に頭をのせて、そうしていると兄さんが戻ってきた。シャワーを浴びてきたらしい兄さんは、ベッドのなかで枕に頭をのせている僕のとなりに入ってくると腕を伸ばして僕を胸のなかに引き寄せてくれた。


「嫌な夢でも見たのか?」


「うん」


兄さんの、厚い胸のなかでこっくりと頷いて僕は兄さんの長い足に足を絡める。
そうか、と兄さんは僕の背中をゆっくりと撫でてくれた。
母さんがあんな風にいなくなってから、僕は何かあるとすぐに兄さんに頼るようになった。
嫌な夢を見たといっては、こうして兄さんのベッドに潜り込んで甘えた。幼い頃ならともかく、高校生になった今でも僕は兄さんに甘えている。
他の、世間一般での兄弟ではきっとこんなふうに弟は兄に甘えないだろうし、兄も弟を甘やかすことはないだろう。
自立をしたときのことや、これからもっと成長したときのことを考えないこともないけど、僕は周りの人たちに随分と甘やかされて育ってしまったと、思う。
父さんも、兄さんも本当に僕に甘い。
Ωで、身体の弱い僕はどうかわからないけれど、αでいずれは父さんのあとをつぐ立場にある兄さんには、同じαの女性との、結婚がもちあがってくるだろう。兄さんがそれを望むかどうかは別にして、父さんがそうしたように兄さんもその道を進むことになる。
・・・・そうなったとき、僕はどうなるのだろう。
この家も、父さんのあとをつぐ次期当主の座も兄さんのものだ。次男の僕にはつげるはずがない。
父さんは僕のために色々と準備をしてくれたり備えをしてくれているようだけれど、僕もいずれはこの家を出ることになる。
・・・・自立をするのは、誰にとっても当たり前のことなのに酷く不安で仕方がない。
兄さんの、温かい腕のなかで微睡みながら僕は来るべき日に恐怖すら覚えた。

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あきゅろす。
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