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王国パラレル規格外7(3)
くだされた、父王の命令は絶対で僕は逆らうことも出来ずに早々に降嫁の支度を整えさせられた。
あの方のもとに輿入れするための品々をそのまま、一度も対面したこともない親子程離れた、男性のもとに嫁ぐことになった。
一国の王妃ともなれば、女官腹の僕ではなく亡き王妃様から産まれた、一の姫様のほうが相応しくかねてより王家と関わりの深い伯爵家の当主が僕の降嫁を申し出ていたことが理由だった。
かえりみられることも、況してや声をかけられたこともなかった父王の対面を喜ぶ暇もなく、何を言われているのか理解出来なかった。
加えて、乳姉妹としてずっと傍で仕えてくれていた紗悧も、王命により幼少より婚約していた男性のもとに嫁ぐよう命じられた。
私室に戻ると、紗悧の姿は既になく新たに付けられた侍女らに、僕は監視されながら日々を過ごした。
部屋からの外出は許されず、狭い私室内には複数の侍女が僕の行動に目を配り、そのくせ僕とは一切の接触を持たない。
食事や身の回りの世話をしてはくれているけれども、無言で行われ僕を気遣う優しさなど微塵も感じられない。むしろ、僕を疎み嫌悪感を示し髪を乱暴にすかれ、帯を必要以上に締められ、出される食事は冷えきったものだった。
紗悧のことを尋ねたくても、僕の声はことごとく無視されてしまい、無理にでも部屋から出ようとすればあっという間に侍女に囲まれてしまう。
男の身体ではあるけれども、僕はひ弱で力が強いわけではない。身体があまり丈夫、とはいえぬ質であることも災いしてか、体力もなく凡そ荒事には向かぬ武術とは縁遠いこの身を、此れ程疎ましく感じたのは初めてだった。
せめて文だけでも、と懇願した僕の言葉は今や誰の耳にも届かない。
伝え漏れるのは、僕の代わりにあの方のもとへ輿入れすることになった一の姫様の、贅を凝らした花嫁衣装の豪華さ、婚礼道具の華やかさで一の姫様のみならず、共につき従う侍女らの衣装も新着されているという。
一切の抜け目なく、僕を監視し続けながらも、僕についてくれている侍女らは隣室の僕の耳に入るほどの、慎みのない声であれやこれやと各々、意見を述べていた。
それに引き換え、こちらの姫様のお道具はどれもみずほらしいものばかりですこと、と侍女の忍び笑いに僕は閉じこもりきりになった部屋のなかで聞いた。
あの方からいただいた、文や着物は何も持っていない僕の、唯一の宝物で文は勿論、寸法の合わなくなってしまった衣装も、捨てることなど到底出来ずにしまい込んである。
あの方のもとへ嫁ぐことになっても、この宝物は共に運んでいこうと、そう思っていたのに。
僕のような、一の姫様がおっしゃるとおり分を弁えぬ叶うはずのない望みを抱いたせいだろうか。
紗悧が言った、雪花国の皇太子妃、王妃になるという望みを。
僕には、亡き母以外に家族などいない。僕が自死したところで、悲しむ人間など、紗悧以外に思い当たらない。その紗悧も、今は僕の傍にはいてくれない。
蔑まれ、疎まれ続けたこの後宮のなかでそれでも僕が失望せずにいられたのは、あの方の存在があったからだった。
その望みが断たれた。だというのにいくじのない臆病な僕は、潔く死ぬことも恐ろしくてできない。苦しい、寂しい。
慰めのない一人きりの部屋は、ただ冷たく寒かった。

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あきゅろす。
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