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妄想話。(7)
王の肩に縋り、室内を出た僕は王の肩ごしに回廊の壮麗さにただ目を見張った。
貴人の館には相違ないだろうが、豪華で優美な私室と回廊だけでも僕などが足を踏み入れるには恐れ多い。
王の足は、回廊から建物で出入口に向かっていて、大きく開け放たれた扉の両脇に華京院様といまひとり、騎士の正装姿の青年が控えている。
王に抱えられたままという、不自由な体勢ながら僕は慌てて頭を下げた。
血の温かみの少ない、色の薄い華京院様の唇がふ、と緩み扉をくぐる王に深く頭を下げる。
華京院様の、お顔をこうして直に拝見することも秘すように視界を遮られることもないのは、初めてだった。
何故だろう、と違和感を覚えた僕は扉を王が潜り抜けた瞬間に感じたひとの気配と金属のこすれ合う音にすがる手に力をこめた。
膝をつき、礼をつくす騎士らの間を王は僕を抱えたまま足早に待機する馬車へと歩を進める。
彼ら王騎士が、唯一無二たる主君に礼を尽くし忠誠を誓うのは当然のことで、だからこそ僕のような、王が秘すべき存在を他にもない王の腕に抱えられ騎士らの目にさらすことになってもよいのかと、僕は思った。僕に否やなどないけれども、このような過分な扱いを受けては気がとがめる。
馬車の扉の前に、いつの間に移動していた華京院様に靴を履いていない僕を手渡した王は先に馬車に乗り込み、僕を恭しく差し出す華京院様に一言労いの言葉をかけ、再び僕を膝の上に抱えた。
扉が閉められる寸前に、王の命により従ってくれていたマリアが馬に騎乗する姿が垣間見え、僕は王の膝の上で思わず安堵した。
王の腕に深くだきよせられながら、僕は衣服を与えられることのなかったそれとは別の、言い様のない不安に苛まれた。
軽々しく、粗略に扱われるのではない。
僕などには分不相応なそれに、王の膝の上で身体を強張らせると王の長い指が僕の顎を掴み引き寄せた。
温かな唇と舌に呼吸を乱しながら、僕は王の胸に手をついた。

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あきゅろす。
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