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小説
侵害
・・・・ああ、まただ。
針のように細い、そのくせ憎悪の孕んだ視線が向けられていることに気付いた俺は、人知れず溜め息をついた。


授業の合間の、短い間の休み時間。トイレに行くものや他のクラスに行くもの、自席を離れ友人の席で談笑するクラスメートに混じり、俺は窓際の自席に座りぼんやりと窓のそとを眺めていた。
季節は夏に向けて湿気を含んだ気温が上昇していて、そのくせ校庭に植えられた桜の樹木は深緑の葉を青々としげらせている。


・・・・その視線は、常につきまとうわけではない。時折、思い出したかのように視線が向けられる。
それは、大抵俺の隣で穏やかな笑みを浮かべる營が不在の時が最も。俺が無防備に一人でいるときだというべきだろうか。
視線の主は勇気を振り絞って視認せずとも、予想出来る。多くのクラスメイトたちに囲まれた輪のなか。他愛もない冗句をよく通る声がつむいでいく彼だ。皆が慕い、好意をもつ彼は俺とは正反対のタイプだ。
俺の背中にめが付属されているわけではないが。


「聯君。どうしたの?」


休み時間の開始とともに、何処かに姿をけしていた營がいつの間に戻ったのか、俺の隣に座りのぞきこんでいた。

「香椎。戻ってたのか」


「うん。聯君に何も言わないでいたから、急いで戻ってきたんだよ」


ものやわらかな笑顔で、にこやかに俺と会話する營は曖昧に笑む俺に弓なりの綺麗な線をえがく眉を悩ましげによせ、華奢なつくりをした白い手を俺の額に当てた。


「どこか具合でも、悪いの聯君。保健室、行こうか?」


「だ、大丈夫だよ。營。なんでも、ないから」


必要以上に、營が俺に触れると視線が益々きつくなる。ここには營もいるというのに。


「でも、心配だよ。聯君」

俺の額にあてていた手をずらした營は、俺の右手を握った。


「ほんと、に」


「あの男が気になるの、聯」


いきなり低くなった營の声に俺は思わず肩を揺らした。
俺のめのまえには、何時もとかわりない中性的な美貌の營が穏やかにほほえんでいる。だが、色素の薄い瞳は苛烈な光をおびていた。

「さっきから、聯のことばかり見てる男だよ。うっとうしい、煩わしい。近頃べたべたとよく話かけてくると思えば。ああ、また退屈しないで済む。ねぇ、聯」

くすくすと、營は小さく笑い声をたてる。誰もが心やすまるはずの、營のなごやかな声に、俺は肌を粟立てた。

營はまた、遊びを始めるつもりだ。


「ふふ、あいつの頭のなかでは、俺は聯にあえがされてるとでも思ってるのかな。聯にくみしかれて、聯のペニスを俺の尻に突き刺してるところでも?本当に逆なのにね」


「營、止めてくれよ」


淡く色付いた營の上品な薄い唇から出る言葉が、あまりにひわいで俺は首を振った。


「俺が女役だとおもいこんで馬鹿なやつ。どうしてやろうか」


低く笑い声をたてる營に、俺は何も言えない。
いたたまれなさのなさに、うつ向く俺の背中に、鋭く視線が突き刺さる。


妬むなら、妬んでくれてもいい。けれども、俺に暴力をふるうのは、止めてくれ。俺のためじゃなく、君のために。
營の、嗜虐心をあおらないためにも、どうか。

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あきゅろす。
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