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小説
曇天(14)
「さくちゃん、急に居なくなっちゃうんだもの。大学生だとは聞いてたけど、何処の大学か分からないし、あんまり急だから何かあったのかと思って心配したんだよ」


せいちゃんの、彼らしい調子の口調が嫌に響いて僕の耳に届いた。
響くはずだった。いつの間にか不特定多数の性別や年齢の矮小なくくりのない、一つの広い空間にいるはずの彼らは誰一人として会話を楽しむでもなく、アルコールを浴びるように怠惰的に飲むわけでもなく、皇夜とせいちゃんが連れてきた冴えない容貌の、青年である僕の存在に注目し或いは、何故この場所に居るのかを訝しく思い、無駄を省き、口を開かず些細な物音を立てないからだった。そしてそれは、好奇心や興味の好意ではなく明らかに場違いな僕に対する不快感や敵意に他ならなかった。それぐらいは、如何に己の鈍さを情けなく思っている僕でも分かる。いや、鈍い僕でも分かるほど、彼らが感情を隠していない。そういうこと、だろうか。


せいちゃんの問いに、直ぐ様答えを返そうとした僕はしかし口を開けなかった。僕には、これほど多いひとの前でおそらくは僕の言葉を聞き逃すまいとしている彼らに対して声を出せるほど、豪胆な性格の持ち主ではなかったから。


口籠もる僕に、せいちゃんは、彼にとっては当たり前なのであろうその静けさに軽く肩をすくめた。


「ここって、こんなに静かだったかなあ?俺の声しかしないけど」


明るく澄んだ、他意のない声が響くと同時にかまびすしく感じるほど大きな音、が降るように戻ったのだった。

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