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小説
五百万記念祭B(3)
ラストです。王妃がこのあとどうなったかはご想像にお任せします(笑)




紫月のドレスでは危険であろう、と成城の進言を受け、満夜が紫月の年頃に着ていた衣装を借りた王妃は初めて被ったという帽子をしきりにかぶり直しながらも、王の騎乗する馬の背に乗った。
護衛には華京院のみ、王妃付きの侍女も成城一人というごく少数で王は遠乗りに出かけた。
外見の幼くなった王妃は、きょろきょろと馬の背の上であたりを見回しながらも、紫月のように身を乗り出すことはない。以前、王妃と同じように子らを伴い遠乗りに出かけた際、王の前に騎乗していた紫月は何を見たのか身を乗り出し、危うく落馬しかけた。
咄嗟に王が首根っこを掴みぶら下げたから良いものの、一歩間違えば怪我では済まされまい。
王の淡々とした叱責に、紫月は神妙に頷いていたが、同行した王妃の顔色から血の気が完全にひき、母をそれ程まで動揺させ心労を与えてしまったのだと自覚したらしい紫月は、しきりに母に詫びていた。
前方を飛ぶ、色鮮やかな小鳥や木々に咲いた花々、路傍にひっそりと咲く花を興味深そうに見つめていた王妃を馬の背から下ろしてやり、男装の成城とともに周辺を見回ってもよい、と許可を与えると王妃は成城に手を繋ぎ、森へと駆け出していった。
成城の騎乗していた馬の手綱を手にした華京院と王は近くの木に馬を繋いだ。
華京院の差し出した手巾で、額に浮いた汗を拭った王は、森の入り口にて路傍の花を摘み、成城とともに手を動かし、何かを懸命に花の茎を用いて作ろうとする王妃の姿を確認し、木の根本に腰掛ける。
成長とともに、人間の顔の造作は変化するが、王妃は幼い時分の造作が長じても色濃く残っているようだ。
淡い色合いの瞳もそのままに、王妃がそのまま幼くなった、としか言いようがない。
熱心に花を摘み、茎を輪状にしながら編んでいるようだが、王妃はどちらかといえば器用な性質ではない。茎の長さが均等にならず王妃は肩を落とす。その王妃に、成城が自身の作った花輪を渡すと王妃は恐縮しながらも受け取り、成城に丁寧に礼を述べた。
王の姿に気づくと、王妃はこちらにむかいかけ、そして転んだ。
盛大に転倒した王妃を抱え上げ、王は慌てて駆け寄ってくる成城に王妃を手渡した。





それから二日経ったが、王妃は幼くなったままであった。
王は殆ど気にしていなかったが、阿倍野の動揺は最たるもので、王妃付きの侍女らも不安を隠せない。
動じていないのは、王と二人の子らで私室より出ることはないものの、母のもとを訪ねては以前と変わりなくすごしている。
執務が滞っては、と執務室にて執務を行っていた王は、夕刻王妃の私室を訪れた。
窓際の背椅子に腰掛けていた王妃は、王の訪れに椅子から降りようとしたが、幼子の身体では機敏な動きはできない。
王がひょい、と抱え上げると王妃は、申し訳なさそうに微笑んだ。


「申し訳ございません、陛下。私が幼くなってしまいましたばかりに」


阿倍野の動揺は勿論のこと、己に仕える侍女らの様子に王妃が気に病まぬはずがなくまた、己の身体の変化を不安にあるいは恐れぬはずがない。
王は俯いた王妃の小さな頭を眺め、口を開いた。


「たとえ、その幼い姿であろうと成長するのを待てばよいだけのこと。何を詫びる必要がある」


淡々とした王の言葉に、王妃はきょとんと王を見上げた。
王妃が王のもとにとついできたのは、十五のおり。あと十二年ほどすれば、その年齢になるだろう。
王にとっては、幼くなろうが王妃が王妃であることにかわりはなかった。


「は、はい、陛下」


ふんわりと嬉しそうに微笑んだ王妃を抱え、王は寝室に向かったのだった。

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あきゅろす。
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