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小説
曇天(4)
僕のバイトのシフトは、決まった曜日に休日がとれるものではなく、バラバラだった。それに僕は大学に通う学生だった。どうしても休まなければならない日も出てくることもあったから尚のこと、だった。


皇夜とせいちゃんがあの小さな、繁華街の何処にでも点在するであろう店の常連となってからというもの、店には客が増えた。
皇夜の見ているものの背筋を凍りつかせ、凄みを与える美貌とせいちゃんの、際立ったものではないが人目を惹き付け、離さぬ美貌は言い方は些か悪いかもしれないが客寄せには充分過ぎるものだった。
その頃には僕も、二人との会話に吃りを併発することがなくなり、時には笑顔も浮かべられるようになった。相変わらず、僕と皇夜が会話をすることはなかったけれども。


・・・・異変に気付いたのは、そのバイトのシフトを組むために僕が休日の希望を書き込んでいるときだ。いや、予兆は既に何らかの形で僕の前に現れ、存在を刻みつけようとしていたのかもしれなかったが。
何時ものように、どうしてもバイトに入れない日に丸を付けていた僕は一番最後であろうはずが僕以外のバイトの同僚が誰ひとりとして、休日を書き込んでいないことに気が付いた。偶然だろうか。それにしてはいつも何かと休日を自由にとり、そのツケが僕のところに回りそれを当然だと疑わない彼らにしては珍しい。

僕はそれ以外の理由を幾つか思い浮かべたが、結局は偶然という結果で納得したのだった。


僕が買い出しに行かされていたある晩のことだ。
経営者としては些か抜けたところのあるマスターは、商品の発注を忘れることが多々あり、僕がそれを補うため小僧のように使い走りにされるのだが、その日は予定外に時間がかかり店に帰りついたときにはすっかり遅くなっていた。
指の肉に食い込むほどに重い瓶の類を持ち直し裏口から入った僕は息つく暇もなく、慌てた様子のマスターに店に引っ張り出された。

歩き回り足が棒切れのように固くなっていた僕を、問答無用で連れていった先は、店の客寄せに一役かった常連の指定となった席だ。僕が買い出しに行っている間に、来店していたらしい二人は既に帰り支度を整えていた。
学生だということと、名前しか知らない彼らは来店すると閉店まで帰ることはない。そのことを不思議に思った僕は二人にもうお帰りですか、と声をかけていた。
僕の存在に、どうやら今はまで気付かなかったらしい二人、皇夜は僕の姿を上から下まで眺めると、帰り支度をしていたのが嘘のようにまた、椅子に腰を沈め僕に追加注文をした。それはせいちゃんも同じで、僕はそのオーダーを受けて裏に引っ込んだのだった。

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あきゅろす。
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