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小説
愛玩動物の、(7)
千寿先輩が、所用のために学園の外に出て外泊するようになってから、1週間程たつ。
その間、僕は変わらず授業に出て、風紀委員会室で日向先輩のもとで事務方の雑務をこなしていた。日向先輩と邑雲先輩には、千寿先輩から連絡が入るようであったけれども、僕の携帯が鳴ることはない。
こちらから連絡してみようか、と何度か思っているのだけれども実行に移せず、悶々とした日々をおくっていた。
先輩と、初めて出会ったあのときから、僕が先輩の好意や優しさを悉く退けた日々を除いて、常に先輩の存在は僕のそばにあって、たとえそれが強要されたものであったとしてもこれだけ長く先輩の存在を感じられないのは初めてだった。
先輩が、僕に穏やかに微笑みかけてくれる、優しい声が僕を呼んでくれる。そんな、たとえようもなく幸福で、残酷な夢を毎晩のようにみるようになった。
夢に望むほど、あの日々は僕にとっては渇望するそれで、幾ら悔やみ自らを疎んだところで、僕の置かれた立場が変わるわけではないのに。
何もかもすべて、僕に非があるのは明らかでだからこそ先輩に申し訳ない。
どうしたら、許してもらえるのか。どうしたら、僕に再びあの笑顔と穏やかさを与えてくれるのか。・・・・どうしたら、僕をペットとしてではなく、一人の人間として扱ってくれるのか。
分不相応の、悩みだろうけれども。


「深海!」


幾ら思案したところで、答えの出ない問いに思考をがらんじめに戒められていた僕は、背後からかけられた声にのろのろと顔を上げた。


「麻生君」


「なあ、珪祥先輩、どこにいるんだよ!俺、あのひとに話があるんだけど」


びくり、と思わず肩を揺らした僕は鸚鵡返しに尋ねていた。


「そうだよ。ここ最近、全然見かけないしさ。なあ、深海どこにいるんだよ」


「あ、えと。先輩は、今学園に居ないんだ。公休で外に出てて。いつ戻るのかも、僕にはわからないし」


「何だよそれ!いつ帰るか何でわからないんだよ。それとも深海、珪祥先輩が俺のほうを好きだからって、業と会わせないようにしてるのか」


「・・・・え?」


何故、そうなってしまうのか。脈絡もなく唐突に断言され、反応が一瞬、遅れた。


「やっぱり。おかしいと思ったんだ。いくら俺が珪祥先輩と会おうと思っても会えないし、部屋に行っても出てきてくれないし!珪祥先輩だって、俺のこと好きなはずなのに、深海がみんな邪魔してるんだろう。俺が珪祥先輩の恋人になるのが許せないんだ」


語気も荒く、激昂し僕を責め立てる麻生君は僕を憎悪の眼差しで見つめた。


「どうせ深海は、卑怯な手を使って俺の珪祥先輩に取り入ったんだ。先輩が優しいことをいいことに、風紀委員にしてもらったり成績だってろくに良くもないのに、奨学生にしてもらったりしたんだろう?セフレにもしてもらって!いい加減にしろよ、珪祥先輩には俺のほうが相応しいに決まってるんだから。顔だって、家柄だって。あのひとが好きなのは俺なんだから」

麻生君の言葉に血の気がひいていった。
先輩のためにも、何か言い返さなくては唇が凍りついたように、動かない。


「深海が、俺に珪祥先輩の居場所を教えないなら俺にだって考えがある。絶対に喋ってもらうからな」


麻生君は、僕の手首を手荒に掴むと僕を引き摺るようにして廊下を歩きだした。
受けた言葉の刃に、衝撃を受けたままの僕はただただ引き摺られていったのだった。

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