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小説
愛玩動物の、(6)
目覚める直前まで、見ていた夢があまりに幸福なものであったから、すっかり寝過ごしてしまった。広いベッドの上には僕1人で、部屋の主の姿はない。
僕を置いて、先に授業に出てしまったのだろうと察しをつけた僕は慌てて寝乱れた髪を撫で付けながら、自室にもどろうと寝室を出て玄関へと続く居間の扉を開けた。居間のソファー腰掛け、新聞を広げた日向先輩とテーブルに漆塗りの椀を置いた邑雲先輩は扉を開いた僕を揃って見つめた。


「漸くお目覚めですか。あと十分遅ければ邑雲が叩き起こしに向かっていましたよ。そんなところに立っていないで、さっさと座りなさい」


「は、はい」


ぴしゃり、と厳しい口調でたしなめられた僕はばたばたと足音を立てて空いていた日向先輩の向かいの席に腰掛けた。
テーブルの上には、見事な和食料理が広げられそれを調理した邑雲先輩は僕の前の箸置きに箸を置いた。
三人分にしては朝から食べるには随分と量が多いよう、であったけれども日向先輩も邑雲先輩も健啖家で、やや食の細い僕には羨ましい限りなのだった。


「あ、あの」


「千寿なら所用で外に出ています。何かあれば連絡が入るでしょう。食事が冷めます。早く食べなさい」


先輩が、公休で外に出ることは何度かあって珍しいことではない。僕はいつもそれを、日向先輩あるいは邑雲先輩から聞かされる。
箸を懸命に動かし、無言で食事を摂る僕よりも会話をしながら食事する日向先輩と邑雲先輩のほうが早いというのはどういうわけだろう。
日向先輩と邑雲先輩の会話は、知識の豊富さと見識の広さを十分にうかがわせるそれで、耳にしているだけでも興味深い。
いつの間にか箸を止めて、聞き入ってしまいその都度、日向先輩に嗜められてしまうのだった。


「深海、手元が疎かになっていますよ。それくらい食べないでどうするんです」


日向先輩の注意を受けながら、邑雲先輩の拵えてくれただし巻き卵を懸命に口に詰め込み、漸く食事を終えた僕を、先輩が急かした。


「支度を整えてきなさい。遅刻しますよ」


邑雲先輩が腕を振るってくれたのは、僕が寝坊したせいだろう。食堂での時間を短縮してくれたに違いない。
寝室にとって返し、制服を着た僕はあまり活用をしていない携帯電話のフリップをひらきかけ、しかし制服のポケットに滑らせた。
・・・・あんな夢を見たせいだろうか。
先輩に思わず、電話をかけようとしたのだけれども、どうしても出来なかった。今までも僕が先輩の携帯に、かけたことはなかったけれど。
どのくらいで、戻られるのだろう。
常に首に嵌められた、首輪を指でなぞりながら僕は溜め息をついたのだった。

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あきゅろす。
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