[通常モード] [URL送信]

小説
王国パラレル(貪欲)番外3
・・・・暴力と凌辱の嵐が過ぎたあと、僕は漸く眠ることが出来る。


僕の夫である国王は、望まずにそうた妃に子を産ませるために夜更けに訪れる。ただ身をかたくし、顔をこわばらせるだけの妃にふるような暴力と凌辱を与える。
その間、僕は苦痛に耐えただひたすら王が解放してくれる、そのときを待つしかない。
世継の君は、正妃の腹から誕生しなければならないのだと知ったのは、嫁いだその日、初夜でのことだった。
伴侶となる王妃の、そのあまりの凡庸さに極めて無関心を貫く王に、ただ飾りものの王妃になるであろうことを確信した僕は、新枕の床で告げられた、僕の、王妃の役目の重大さにただおののいた。
・・・・世継の君のみならず、王子、王女殿下は王妃の僕からではなく、王の寵愛深い、高貴なお方から誕生するのであろうとおもいこんでいた。
元より、母国であっても誰にもかえりみられることのなかった僕が王の寵を注がれる、その栄誉にもくすることはけしてないだろう、とも覚悟してきたから。


ただひたすら凡庸な王妃に子を産ませなくてはならない王の、その心中を察するとただ申し訳ない。
僕は、異母兄の変わりに嫁いできたいわばまがい物だ。
・・・・あの、聡明で優しい、慈愛に溢れた、心根ばかりではなく輝くような美しさをもつ異母兄の変わりにだ。


王が下級の女官に産ませた私生児たる僕を、王族のなかで兄弟だと認めて下さったただひとりの方。母亡きあと、自身の舘に引き取り養育して下さった方だ。
あの方が、王妃として嫁いできたならば、と思えど一年の半分以上を寝台の上で過ごし、胸に軽視出来ない持病を抱える異母兄の身体は、この極寒の雪に耐えることが出来ないだろう。
・・・・だからこそ、僕はすべてを覚悟で嫁いだ。けして王に、あいされることがないであろうことも、凡庸な王妃よとさげすまれるであろうことも、すべて承知した上で。



「・・・・はっ、ごほっ。ぅ、ごほ」


灯りのおとされた王と王妃の寝室は、凍るような静けさにみたされている。
僕の身体を乱暴に放り出すと、王は痛みに震える僕に言葉をかけるでもなく、背を向けた。
僕は政務を司る王の、健やかな睡眠の妨げになるまいと身動きも、勝手に口をついて出るうめき声も唇を噛み締めて抑える。
傍らから静かな寝息が、聞こえ僕は漸く詰めていた息を吐き出す。途端、苦鳴が耳障りなほど出てしまう。

「くっ、はあ・・・・」


寝台をふらつく足で下りて、王がなげすてた衣服を暗がりのなか、手足を使って探す。
ようようそれを着付け口元を手で押さえ、僕は物音を立てないように寝台の下から、絹織のかけものを引っ張りだした。
侍女に頼んで用意してもらっておいたもので、軽くとても温かい。
寝室には、広すぎる寝台しかないけれども扉の脇に備え付けられた作りの頑丈な背椅子が寝台以外の調度品だった。
ふらつく足で背椅子に座り、両の足を腕で抱えた。


早朝、私室に戻るために目覚めた王の、寝台の上で休む僕を見る冷ややかな視線に、いくじのない僕は耐えることが難しくなっていた。何故お前のような人間が、ここにいるのだと言わんばかりのそれに。
暫くすると、痛みに慣れ焦がれ、待ち望んだ眠気漸くが僕におとずれた。
・・・・今日は、どんな夢だろう。母のだろうか、異母兄のだろうか。
痛みに耐えたあとの夢は、ただただ優しいものばかりだ。母国での、優しい日々のそれはたとえ夢のなかであっても、僕が忘れかけていた幸福を思い出せる。僕にも幸福であった日々があったのだと、涙が出るような優しい思い出が。




不意に目覚めた王は、肌寒さに眉宇をひそめた。灯りの落とされた室内のなかで手探りで広い寝台を探るが、指を撫でるのは指通りのよい絹の感触だけだった。不浄にでも出ているのか、と王は苛立たしげに舌打ちした。


素足で寝台から下りた王は、扉のすぐ隣、備え付けられた背椅子に探していたものが寝息をたてているのに気が付いた。最も、視界を覆う闇のなかではそうとは知れなかったかもしれないが、膝を腕のなかに抱き抱え、膝頭に右頬をのせたまま不自由な体勢だろうに心地よさそうに薄く開かれた唇から幼い吐息がもれていた。
・・・・常にもの悲しげに微笑むそれからは、想像もつかない程、王妃は幸福そうに微笑んでいた。たとえようもない、これ以上ない幸福に満ちたりた笑顔で。

名状しがたい、憤怒にも似た凶暴な感情が、王の瞳に宿った。
手荒に肉付きの悪い腕を掴み、大した力加減もせずに引っ張る。必然、王より一回りも小柄な身体は椅子からずり落ち、冷えた床の上に崩れた。


小さな呻き声が王の耳に入ったが、腕を掴んだまま寝台にとって返した。体勢を立て直す暇を与えぬまま、小柄な身体を寝台に投げる。
大股に寝台に戻った王は、呼吸を乱す王妃にのしかかり、細い顎を指で掴み、淡い色合いをした瞳を間近で深々と覗き込んだ。


「何故あんなところにいた」


感情の色彩の薄い声が、痛みに涙を流す王妃に問い掛けた。


「・・・・御寝の妨げになると。私のようなものが居ては、陛下のお心静かになりはしないかと。あの、適いますならば、寝室を別にして頂いても。私は頂けるならばどの部屋でも結構ですので」


「伽を厭うあまり、寝台を抜け出すに飽き足らず、そなた寝所を別に設けろというのか。・・・・そなた、よもや己ひとりが伽を厭うとでも思っているのか」


王の言葉に、王妃は僅かに目を見開いた。
王が、その表情しか知らぬもの悲しげ笑みを浮かべ王妃は静かに言った。


「陛下の、御苦しみは十分理解しております。私のようなものを相手にしなければならない、陛下のお苦しみは本当に、よく」


ですからどうか、寝室を別に、と言い掛けた王妃の頬を王の平手が張った。


「わかったような口をきく。寝所を別にしたとて、そなたの相手をせねばならぬことに変わりはない。私の手を煩わせるな」


王の低い恫喝に、王妃はただ悲しげに微笑み、身体中を痛めつけられつつも、王に謝罪を繰り返した。
・・・・王妃の流産の報が王のもとにもたらされたのは、その翌日のことだった。

[*前へ][次へ#]

8/57ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!