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小説
突発中編(番外)
俺の大事な大事な幼なじみの、菫が泣いている。えんらく可愛らしい顔をした菫が、大きな目から涙を溢しているのは、俺にとっては自分が泣くことより辛い。

「菫、菫。泣かなくていいんだよ。おれはきにして、ないから」


「ちがうよ、蓮華ちゃんは僕が泣いてるからそういうんでしょう?ほんとうは、胸がいたいのに」


意地悪なクラスの男の子たちが、俺をもらいっこ、だとからかうのはいつものことで、買ってもらったランドセルや教科書、上履きや靴かくされたりするのは、いつものことだったけど菫はいつも泣いてくれる。
たぶん、俺が泣いたら菫はもっともっと、泣いてしまう。それはどうしてもいやだから、俺は絶対に泣かない。


泣いてる菫を目の前に、おろおろとするしかない俺は情けなくてなんだか悲しくなってきた。鼻が、つんとする。


「帰りが遅いぞ、オトウトよ」


ひく、と小さくしゃっくりが出る前に綺麗な声がしたから、思わず飲み込んでしまった。


「たつみ兄さん」


腰に手をあてて、ただたっているだけなのに、兄さんの後ろからはきらきら輝く後光がさしているみたいだった。


自分の名前も、菫も兄さんの名前も、まだ漢字で書けない。菫は名字も名前も、ついでに俺の名前も書けるのに。


「その頭の悪そうな呼び方は止めろ」


ずかずか近寄ってきたたつみ兄さんは、鼻水をしきりに啜る俺と俺の制服の裾をしっかりつかんで泣きじゃくる菫をため息まじりに眺めた。


「・・・・なんだ。またくだらんことでからかわれたのか」


「く、くだらないことなんかじゃないです!も、もらいっこなんて酷い」


「事実だろう?こいつは私の両親が養子縁組をしたのだから。もらいっこか、随分と頭の悪そうな表現だ」

たつみ兄さんに言いくるめられた菫が、ますます顔をぐしゃぐしゃにする。


「菫、泣かないでくれよ。たつみ兄さんの言うとおりなんだ。仕方ないんだ」


「でも、蓮華ちゃんはいつもいつも」


二人でぐしぐし、と鼻水をすすっているとたつみ兄さんは、まったく、と溜め息をつきながらも憤慨した。

「泣いている暇があるならそいつらのもとに案内しろ。たかだか人間を初めて七年しか経っていない未熟者が、自分の言葉に責任もとれるはずがなかろうが。想像力のない馬鹿どもめが私のオトウトにそんな暴言を吐くとは!」


たつみ兄さんは、一息に言い放つと、俺の手をひいて泣きながら帰ってきたばかりの道をひきかえし始めた。


「でも、兄さん。これは俺のことだもの。頼ったらいけないんだよ」


「お前はつくづくすくえん愚かものだ。多勢に無勢、ひとりを多数で相手にする馬鹿どもに遠慮なぞ必要あるか!
いいか、お前はたとえ養子だろうが赤の他人だろうが誰がなんと言おうと私のたったひとりのオトウトだ。オトウトを守ってやるのが兄の、私の役目だろうに。わかったのなら、その間抜け面は止めろ。お前はいつもにへらにへら笑っていればいいんだ、オトウトよ」

にやり、と笑った兄さんをかっこいいと思った俺は、クラスメートをぼこぼこにしながら高笑いする姿にとんでもなく後悔したけど、嬉しかったのも事実だ。
よもやそれが、俺の暗黒時代の幕開けだとも知らずに。ふはははははは。

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あきゅろす。
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