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Lv.1-25

「ミツハさんだなぁって思っただけです」

 俺は、ヘラっと締まりのない笑みを浮かべてそう素直に答えた。だって、そのまんまのことを考えていたんだから。
 そんな俺に、ミツハさんは一拍置いてからハァと大きな溜息を吐いて、「ああもう」とその艶やかな黒髪に指を突っ込んでガリガリと頭をかき始めた。

「ミ、ミツハさん?」

 俺はそんなミツハさんの奇行に恐る恐る声をかけた。
 そうすれば、ミツハさんは「いや、なんだ、なんつうかなぁ」と言葉を濁して俺の方を見る。俺はその言葉の続きを首を傾げて待った。

「…愛い奴だなぁと思ってな…」

「うい?」

 俺はミツハさんの言葉を鸚鵡返ししてさらに首を傾げた。
 自慢じゃないが俺は学もないし語彙も多くないので、難しい言葉はわからない。うん、まったく自慢じゃないな。
 ミツハさんはそんな俺にますます「ああもう、早まったかな」とブツブツ零し始める。どうしたんだろうか。俺の困惑も極まり始める。
 そしてそんな時に、未来がコーヒーを片手に戻ってきた。未来は、俺たちの顔を交互に見てから口を開いた。

「…何変な顔してんだよ」

「変な顔ってなんだよ」

 そんな間髪いれぬ俺の鋭い突っ込みは華麗にスルーされ、突っ込まれた未来は再び自分の席に戻った。
 そして、未だに何事かを零し続けるミツハさんに視線をやってから、その手元にある、本来は未来のものだろう雑誌に視線を落とした。

「おい、勝手に取んなよ」

 未来はミツハさんの手元に出張している雑誌に手を伸ばした。
 けれども、雑誌は未来の手に戻ることなくミツハさんの膝の上に移動した。これまた素晴らしく素早い動きだった。やっぱり俺より未来、未来よりミツハさんの方が反射神経がいいらしい。つまり俺が揺るぎない最下位なんだけどさ。
 未来はそれに眉を顰めて「ミツハ」と声を荒げた。
 ミツハさんはそんな未来を横目に、「別に減るもんじゃねぇしいいだろ」と軽く言う。未来はそれ以上は文句を紡がず、ただチッと舌打ちする。
 つまりアレだ、未来も俺と同じ心境なわけだ。俺は未来にやられてイラッときたが、未来はミツハさんにやられてキているわけだ。
 俺だったらミツハさんになら読みかけでも未読でもどうぞどうぞと差し出すけどな。
 そんなわけで二人の空気が険悪になって来たので、俺は「食器洗ってくる」と一人席を立った。
 俺と未来の喧嘩とは規模が違うんだ、あの二人の場合は。
 俺はそそくさとキッチンに潜った。これで一安心だ。俺の身はな。


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