Lv.1-24
「あー…俺、『透過(ダイブ)』消して攻撃系の能力つけてぇんだけど」
未来はテーブルに肘をついてそう零す。
未来の先天性能力は『重力制御(グラビティ)』、そしてもう一つ、『侵蝕(シンパシー)』という能力を持っている。
これがどういう能力なのか、俺はよく知らない。精神系の能力らしいんだけど、未来の奴、俺には教えてくれないんだ。ムカつく。
とにかく、未来が持っている『透過(ダイブ)』は少し前に―――といっても3カ月は前だが―――就いた仕事上必要だったため、ミツハさんに付けてもらった能力だ。
「まぁ未来は精密制御に長けた能力者だからな、『透過』は使い辛かっただろ」
ミツハさんは未来をじっと見据えてそう言った。
俺としては、使い辛かっただろといってもレベル8もあったんだから全然使い勝手がいいんじゃないかと思うんだけど。あ、それは俺がどんなに頑張ってもレベル3を脱せないショボイ能力者だからか。そうか、そういうことか。
俺ががっくり肩を落としていると、ミツハさんは隣で「まぁまぁそう落ち込むなって」と声をかけてくれる。でも否定してくれないのが辛いです。
「彼方はそのままでいいさ。むしろ下手に違う能力加えてもキャパが足りなくなるだけだし」
その通りです、と俺はますます肩と言わず上半身をテーブルに落とした。
そうなのだ、俺は絶対的に新たな能力を付加するべき『余地(キャパシティ)』が足りない。
能力は好きなだけバンバン付加できるのではなく、相応の『余地(キャパシティ)』が必要なのだ。
だから、元々の『余地』が広い者ならいざ知らず、そうでないものはあるものを削って広げるしかない。
俺は削れるものがないから、どうにもならないのだ。
ちなみに未来の『余地』は広い方であるが、適性のある能力は必然的に高レベルになり、そうなると必要な『余地』がぐんと上がるのだ。そっちの方がキャパが足りないと言われても断然格好いいよな…。
「まぁ未来は何かいいの考えとけよ、大抵は揃ってるし」
「わかった」
未来はそうミツハさんに返して席を立つ。
コーヒーカップが空になっているから、注ぎに行ったのだろう。俺はそれを視線だけで追った。
そして未来の背中が見えなくなると、今度は無言でミツハさんを見上げた。
「ん?」
ミツハさんは未来という読み手を失った雑誌を引っ張り寄せている途中で俺の視線に気づき、声を上げた。
「どうした?」
俺は軽く首を振った。
別に大した用事ではなかった。
ただ、こうして改めてミツハさんを見上げて、ちゃんと帰って来てくれたのだという実感が今になって湧いてきたのだ。うん、やっぱり生のミツハさん最高。
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