Lv.1-21
とにかく俺たちはそんな悪環境で生きられないから、シェルターと呼ばれる防護膜だか防護壁だかで覆われた、12に区分された地域に籠もることで生き伸びているというわけだ。
そしてこの全12地域は環状に連なっていて、その中心に『中央(センター)』という独立した地域が存在する。
ここはそれこそ地域の代表級しか入ることのできない場所だ。
なんでも俺たちの能力の資質を見極める―――そしてそれによって地域の代表者を選抜する、『神の眼(ザ・シークレット)』の能力者が住まう場所らしいからな。
年に一度そこで会合が行われるという話をチラリと小耳に挟んだことがあるが、正直俺には関係のないことだ。うん、微塵もな。
話を戻すが、地域は環状になっているから、地域間を移動するには、それぞれの地域の出入り口ともいえる扉(ゲート)を通らなければならない。
この扉を管理しているのが『門番(センチネル)』と呼ばれる人間なのだ。
『門番』はその名の通り、扉の番人だ。
他地域からの侵入者、そして自地域からの不法脱出者の監視、管理をしている。
地域間で下手な抗争を引き起こすことのないように、というのが目的らしい。
普通に通行許可証を持っていれば何事もなく通り抜けできるが、持たずに通ろうとすれば、拘束され厳しい尋問が待っているという、恐ろしい奴らだ。捕まりたくない。
ミツハさんは、そんな奴らをぶっちぎって地域間を通り抜けるのだという。
それは、ミツハさんが尋常でない力の持ち主だからできることで、そうでなければ何度か死んでいてもおかしくはない。それくらいにしつこい奴らなんだ、『門番』は。
ちなみに『門番』は、一地域に一人しか存在しない。
そしてこいつらは、その地域の代表者にしか従わないのだそうだ。
しかもそいつに一生を捧げるというから俺としては「うげ」と唸る他ない。
仕える人間が代表でなくなった日から、その『門番』も『門番』でなくなるとか、なんだそりゃな世界だ。
それ故に、『門番』は『門番』であることにやたら高い誇りを持っているし、自分の仕える代表者が第一だ。
代表者の顔に泥を塗るような真似をすることほど、屈辱なことはないだろう。
それを、ミツハさんはさらりとやってのけるのだ。
無断で自地域を横断されたとなれば、監視者としての面目も丸潰れ、そんな『門番』を持つ代表者もたかが知れると、つまりそう言う感じに。
しかも、それが今回に始まったことではないと来ているから性質が悪い。
もうミツハさんの常習者と言っていいくらいの無断横断っぷりは、一部の『門番』間では有名らしい。
それでも捕まることなく逃げ切れるのは、やっぱりミツハさんが凄いからだ。素敵過ぎる。
でも、本当はもっと安全な方法で扉を潜って欲しいものだ。複雑。
「今回は疾風(はやて)の奴がしつこくてなー。前回イオの奴を打ん殴ったのが相当頭に来てたらしい」
俺は思わず飲みかけていたコーヒーをブフッと噴き出した。な、なんだって?
俺が言葉も紡げずに戦慄いていると、代わりに未来が俺の思っていることを口に出した。
「おいミツハ、イオって第5の代表じゃねぇか! なにやってんだよ!」
未来はそう言ってテーブルから身を乗り出してミツハさんに問い詰める。俺も同じく横のミツハさんを凝視した。
その二つの視線に、ミツハさんはどこか居心地悪そうに口を開く。
「なにって、あー…ちょいと『読取装置(ダウンローダー)』を使うのに接触してさ。で、ベタベタ触ってきたからムカついて打ん殴ったっつーか」
「ベッ!?」
俺は思わず復唱する。べ、ベタベタだって?! 第5の代表こと、イオ、万死に値する。
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