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Lv.1-20



 そして満腹になるまで食事を楽しんだあと、俺たち―――いや、俺とミツハさんが、の方が正しいけど―――は、テーブルを囲んで空白の時間を埋めるように話に夢中になった。
 未来は読書タイムとばかりにコーヒー片手に寛いでいたが。

「それにしても今回は長旅だったぜーっていうか強行軍?」

 ミツハさんはハハハと笑い、指を折って数え始める。

「9に上がってから、7、6、5…っとざっと4地域(エリア)制覇してきた」

 ミツハさんの言う数字の羅列は、地域の名称である。3カ月で4地域を練り歩いたならそれは凄いことだ。俺は目を丸くして「凄いです!」と素直に口にする。
 そうだろうそうだろうと胸を張るミツハさんに、俺は頻りに拍手を贈るのだが、その正面で未来は無関心にコーヒーを啜っていた。こいつ、何という態度だ。

「おい未来、聞いてんのか」

「聞いてる聞いてる」

 俺が問うてもこの調子で、未来はテーブルの上の雑誌に視線を落としたままだ。絶対聞いてない。ミツハさんの言葉は本腰を入れて聞かなきゃいけないんだぞ。
 俺はそんな思いで未来をキッと睨み、素早くテーブルの上の雑誌を奪おうと手を伸ばすものの、俺の指先が届く前にむかつくぐらい素晴らしい反射神経でそれは未来の手元に引き寄せられた。腹立つな。ちなみにこれで3度目の失敗だ。数えていたらますます腹が立ったので俺はテーブルの下の未来の脛を蹴っ飛ばした。…それすらすかしたけど。
 そんな俺と未来の遣り取りを気にした様子もなくミツハさんは続ける。

「まぁ何度か『門番(センチネル)』に追いかけ回されたけどな」

 そして飛びだしたその言葉に、俺は勿論、俺との水面下の遣り取りに悪い笑み浮かべていた、無関心だった未来も顔をあげて渋い顔になる。

「ちょ、ミツハさん…」

「…懲りない奴だな」

「余裕よ余裕、ぶっちぎって来たし」

 そしてミツハさんはまたハハッと笑って言う。
 けれども、言っている内容は凄いことだ。凄いというかとんでもないことだ。俺はハァと額に手をあてた。
 地域内にいると忘れてしまいがちだが、この世界は腐敗が進んで環境汚染が酷いことになっている。それこそ、地域外に出れば生きられないほどには。
 空気は汚れすぎて、吸い込めば肺胞の奥まで炭塵に塗れて酸欠になるし、間違って水でも飲めばまず口腔が溶けるだろう。
 見たことはないけれども、もしも生き物が存在するとして、それを食べればもがき苦しんで死ぬに決まっている。
 むしろそんな環境下で生きていられる生物がいるとしたら、もう化け物染みて返って俺たちの方が頭からバリバリ食われてしまうかもしれない。想像したくもないけれども。


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