Lv.1-18
俺の消沈など目にも入っていないのか、ミツハさんは未来に向かってフンと鼻を鳴らす。
「まぁ別に、俺は彼方の相手がヤマトだっていいんだぜ? あいつのこと嫌いじゃねぇしな。あいつが目を光らせてるから彼方は大概安全だし」
そして言外に「未来ではなくヤマトが俺の身の安全の最終障壁になっている」と含ませて、ミツハさんは意地の悪い笑みを口元に浮かべた。
対する未来はどんどん険しい表情に変わっていく。正直、怖い。
むしろミツハさんの爆弾発言に俺はどう反応すればいいのか。全然よくないです、と大声で叫ぶことができればいいのだが、今のミツハさんに下手に触れると心に大きな傷ができるだろうから俺は小さく唸って口を噤んだ。
それにミツハさんの言葉に確かに、と思う部分もある。
ミツハさんの言うように、俺は『ヤマトのお気に入り』のため、大半の連中―――よっぽどの命知らずか、その情報がもたらす意味を理解できない脳味噌のイッてしまっている奴ら以外―――は俺を見てもスルーする。
下手に手を出して最強の男に睨まれるのは恐ろしいからだ。
俺はその『お気に入り』というのがまるで人として扱われていないようで気に入らないが、その言葉の意味がもたらす恩恵はありがたく頂戴している現状だ。その方が、確かに安全だし。
でもできるなら俺だって相手は選びたい。
それが平々凡々の俺の出すぎた我が儘だってわかっていても、俺は主張する。
相手はミツハさんがいいと。あんな鬼、人でなし、悪魔―――つまり最悪な奴ことヤマトは絶対に嫌だ。
俺がそんな思いで頭を抱えていると、未来が徐に「そんなの」と口を開いた。
「…そんなの、今だけだ」
「あぁ?」
「あいつは必ず、俺が―――俺が、殺す」
ミツハさんの唸るような低い威嚇の声にも臆せず、未来はそう言い切った。
その声音は、ミツハさんの放ったものより硬く、感情を押し殺したものだったが、そこに滲んだ決意の色は傍観者の俺ですら感じ取れるほど強かった。
面と向かって放たれたミツハさんにはより強く響いたことだろう。
そして未来の視線は、そう言った後も真っ直ぐとミツハさんを見据えたまま、逸らされることはない。
ミツハさんもそんな未来の視線を一身に受け、何かを見定めるかのように口を噤んだ。
俺はというと、そんな2人をじっと見つめているしかできない。下手に口を挟めるような空気ではなかった。真剣そのもので、ふざけた言葉で濁せる間ではなかった。
俺はとうとうその空気に耐え切れなくなって小さく俯いた。気道がぐっと締まったような息苦しささえ覚える。
それは、ヤマトと対峙した時のような圧倒的な力からくる圧迫感にも似て、俺の身に圧し掛かった。
重苦しい、冷えた空気だけがその場を支配していた。
そして、その沈黙を不意に破ったのはミツハさんだった。
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