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Lv.1-17

「…俺の、俺の完全な不注意だった。最近はあいつも鳴りを潜めてたから、気を抜いてたんだ」

 未来が重い口を開いてそう言った。テーブルの上に放り出していた手をその痛み切った髪に持って行ってくしゃりと握りしめる。
 自嘲気味に吐き出された未来のその言葉に、ミツハさんは至って淡白に「ふーん」と答えただけだった。
 重苦しい沈黙が、幸せなはずの食卓に落ちた。湯気を立てる香ばしい料理の香りがやけにその場に不似合いで、俺は無意識に口内に溜まっていた唾液を嚥下する。

「まったく仕方ねぇやつだな。彼方一人守れねぇなんて」

「………」

 再び未来の薄い唇がグッと噛み締められる。ミツハさんはまた一口、瓶を呷った。コトンと瓶がテーブルに置かれる音がやけに大きく響いて、消える。
 俺は、今にも口から飛び出しそうな暴れまわる心臓の鼓動を何とか抑え、意を決して口を開いた。何か、言わなければと思ったのだ。

「…っあ、あのミツハさん、その、未来が悪いわけじゃないんです、俺が、俺がまんまとあいつに騙されて…」

 俺の声は無様に震え裏返っていたが、それでもそれに構うことなく俺は何とか言葉を紡ごうと必死だった。
 そして無意味な身振り手振りの俺に、ミツハさんは「ん、知ってる」とただ一言、短く返した。それだけで、俺の声帯は声を紡げなくなる。

「つうか、彼方じゃヤマト相手にどうこうできるはずがないのは目に見えてるからな、それは仕方ねぇの。下手に抵抗してなにかあったら最悪だから、そういうときは彼方、お前は大人しく流されてろ。ヤマトは少なくともお前を殺さないから、多分な」

 ミツハさんはそう言って俺の頭をポンポンと叩いた。その手は、未来へ放っていた言葉に反して、酷く優しい。俺はどう反応したらいいか困ってしまう。
 それでも「わかったか?」と聞かれて、曖昧に頷いた。
 わかりたくはないが―――だって、大人しく流されるなんて、最悪だ。それが例え生き残るための最良の術であっても、だ―――つまりはそれって、ミツハさんが俺の身を案じてくれているってことだろうから。無碍になんてできるはずがなかった。
 ミツハさんはそんな俺の心情を理解しているのか、苦笑を零してから、再び未来に向きなおった。

「―――で、問題は未来、お前だ」

 そしてミツハさんは、ビシッと目前の未来を指差す。

「俺が怒ってんのはな、―――お前がしっかり彼方の手綱を握ってねぇって事実に対して、だ」

 俺は、ミツハさんの言った言葉を脳内で反芻し、そして数秒間の後思わず「はい?」と素っ頓狂な声を上げた。
 今、なんだかとんでもない言葉がミツハさんの口から飛び出したような気がしたのだが、俺の聞き間違いだろうか。聞き間違いだよな。俺は変な汗をかきながら自己完結する。

「ああ…」

 未来がそれに同意するように頷く。俺はそれにも動揺する。え、いや、何に同意してんの、何で頷いてんの未来。
 俺は理解できずに2人へ視線を交互させる。ミツハさんはそんな俺に構わず口早に続けた。

「何年一緒にいんだよ? 横から掻っ攫われて悔しくないのか未来。それでも男か、ああ? だからヤマトにいいように出し抜かれて彼方が食われるんだっつーの」
 
「え、ちょ、ミツハさん何を…」

 言っているんですか、と俺が続ける前に「彼方はちょっと黙ってろ」と跳ねのけられて俺は沈んだ。撃沈。泣きそう。


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