Lv.1-12
「だからそういうのが馬鹿にしてるっつうの!」
俺はそんな心意気から―――むしろ勢いともいうが―――声を荒げてそう未来に叩きつけた。譲れないものは譲れないんだから仕方ない。
けれども、向かう未来は俺のそんな攻撃を軽くいなして「だからしてねぇって」と返して続ける。扱いが慣れている気がするのは俺の目の錯覚か。
「俺の自己満足だよ。でもな、ここにいればあのクソ野郎はこねぇだろ?」
「だからだな」と未来の説得は続く。
俺はそれに喉元で小さく呻いた。確かに未来の言う通りだったからだ。あの『クソ野郎』―――もといヤマトは、未来の寝座のあるこの周辺には近付かない。どういうわけか、未来の家の周辺で、俺を追いかけ回していたヤマトは苦々しく踵を返すのだ。たとえ数メートル先に俺がいたとしても、だ。あの時はもう駄目だと思ったな、腰が抜けかけてたし。いや、そんな思い出話はよそう。
とにかく、ミツハさんも「何かあったら未来のところに逃げ込め」と俺に念を押すくらいには、安全が確認されているのだ。
「…そ、それは否定できないけどな…でも…」
だがしかし、俺はそれでも諦めきれない。むしろ、正論を突きつけられればられるほど反抗したくなるというか、そんな子供心だ。
そんな俺がフォークを握りしめたまま逡巡していると、未来がテーブルに身を乗り出して俺の頬をその男らしい指先で、その大きな掌で包み撫でてきた。その指先は酷く優しい。
「な、彼方。俺はお前がどうのこうのって言ってるわけじゃねぇよ。ただ、俺が心配症なだけなんだ」
未来は眉尻を困ったように下げて、まっすぐ俺を見つめてくる。
うう、馬鹿野郎、そんな風に言われたら、嫌だなんて強く言えなくなってしまうだろうが。
俺がそんな風に情に流されかけて言葉に詰まっていると、未来が駄目押しのように畳みかけた。
「…なぁ彼方、そうしてくれると、俺は凄く嬉しい」
「未来…っ」
それで、俺は限界だった。まさに俺の最終堤防が崩れた瞬間だった。
もう、そこまで言われたら、首を振るなんてとてもできない。だって、とても心配されているのだと、大事にされているのだと、わかったから。
俺は頬を撫でる未来の手を自身のそれと重ねて、うんと頷く。否、頷こうと首に力を込めた。
しかしそこへ突然、未来以外の声が俺の鼓膜に飛び込んできて、俺は動きを止めた。
「…なーに楽しい話してんだ?」
そう、そんな声が俺の鼓膜を直撃した。
俺は未来を見つめていた視線を、その声のした方へゆっくりと向けた。まるで機械仕掛けのような緩慢な動きの理由は、急にその声の持ち主を視界に収めるのに俺の心の準備ができていなかったせいだ。
だって、その寝起きのせいで少し掠れた、けれどもとても綺麗な声は、あの人のものだったから。
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