Lv.0-6
ヤマトは俺の顔を覗き込むように頭を垂らし、その翡翠の双眸を呆然とする俺だけに向けた。
猫のような形と色をしたそれを俺は直視することが出来ず、ビクリと身体を震わせて視線を離した。
そんな俺の反応に、ヤマトはその双眸をゆっくりと細める。
意外にも長い睫が眦に影を作り、翠がより一層色を濃くするのが視界の端に映りこむ―――しまった、これは危険信号だ。
ハッとして視線を元に戻すが、既に遅く、ヤマトはにっこりと笑むとその形のいい唇を開いた。
「かーなーたー」
その唇が紡いだのは、間延びした音で綴られた俺の名。
その声は、どこか怒りの色を含んでいるように思えて、俺はますます身を縮こませた。
そしてそんな風に引け気味になる俺を、ヤマトは許さないとばかりに手首を掴み引き寄せる。
栄養失調ではないがヤマトに比べると大層貧相な俺の手首はギリギリと締め上げられて、肌の色を白く変えた。
「っぁ!」
その痛みに俺が小さく声を上げれば、ヤマトは目を細めて「ああごめんねー」と心にもない謝罪の言葉を吐く。
それを裏付けるように、俺の手首を掴むその骨張った男の指にこもる力は緩められることなく、ギリギリと俺を苛んだ。
勿論、ヤマトが本気を出して俺の手首を掴めば、想像もしたくないが間違いなくブチッと千切れるだろう。だから、手加減はしているのだと思う。
けれども、痛いものは痛いのだ。
俺はヤマトの手を払おうと必死に手首を振る。いや、振ろうとした。振ろうとしたが、それはヤマトの圧倒的な腕力で抑え込まれてしまう。
そんな俺の抵抗がまたヤマトの癇に障ったのか、ヤマトは掴んだ手首をぐいと引き、たたらを踏んで前のめりになった俺の身体を自身の胸で受け止めた。
パーカーを纏った硬い胸板がちょうど俺の目線の先にあって、俺は慌てて離れようとするが、それすらヤマトの力で抑えられて叶わない。代わりに、不本意ながら身長差のあるヤマトを見上げる形で睨み、不快感を顔一杯に浮かべて無言の訴えを向ければ、ヤマトは薄く笑って俺の身体をゆっくりと片手で撫で上げてきた。
その手つきにゾワゾワと俺の背筋は粟立つ。正直に言おう、非常に気持ち悪い。
けれどもヤマトはそんな俺にはお構いなしで、捻り上げた手首はそのままに、引け気味になる腰から脇腹にかけて指の腹で形をなぞるように片手を這わしてきた。
「っゃ…」
やめろ、と震えて言うことの聞かない唇から必死に出そうとした音は、結局上擦ってしっかりとした音を結ばなかったが、ヤマトは俺の意思を汲み取ったのか、「やだね」と短く言い切った。
それはこっちの台詞だといいたかったが、そう言う前に俺の唇は意に反してきつく噤むことになった。
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