Lv.1-9
とにかく、そんな顔で未来は「あいつのどこがいいんだよ」という不敬極まりない言葉を放ってくるのだ。
それに俺が熱意の籠った口調でミツハさんの素晴らしいところを語り出せば、それにますます不機嫌そうな顔になって、結局最後まで聞かずにどっかに消えてしまうのが常だった。なんだよ、聞いておいて途中で消えるなよ、という俺の言葉もスルーだ。本当にふざけてる。
そしてこの俺の中途半端に燻った思いの暴走列車はどこに格納すればいいんだ、と叫んだ回数も数知れず。
つまり、そんな不毛な遣り取りを幾回としているわけだ。
けれども本当に、ミツハさんの素敵なところは沢山あるんだ。
俺はチラリと部屋の片隅―――壁紙なんて洒落たものはない、コンクリートの打ちっ放しの壁にくっつけるように置かれたテーブルへ視線を向けた。
そこには埃は辛うじて被ってはいないが、若干日に焼けた写真が治まった写真立てがあった。
ちなみに埃を被っていないのは、俺が未来の家を訪れるたびにそこだけ掃除しているからだ。無造作に置かれすぎて日焼けだけはどうにも免れなかったが、それでもまだ存在していることの方が重要なのでこの際日焼けは目を瞑ることにしている。
でもできるならもう少し気を配ってほしいと思う。未来のやつに期待はできないけれども。
ちなみに俺がそこまでする理由は一つ、その写真が大事なものだからだ。
そう、たった一枚の『家族写真』なのだ。
数年前、確か4年前だったか、俺が13歳くらいに撮った一枚の写真。
そこには、どうにもバランスの取れない3人組が写っていた。
俺はその写真を手に取るためにソファから立ち上がった。座ったときと同じく軋んだ音を立てたそれを気にすることなく、摺り足加減でテーブルに近づき、安っぽいフレームを手に取る。
すると写真を外界と隔てる薄いプラスチックのような透明の板がキラリと室内の照明を反射させて俺の目を刺激した。それに眉を顰め、俺は手首を捻って光の位置を調節しつつじっとその写真を眺めた。
俺の視界の中、今よりも幼い自分がそこにいた。
家族3人中、一番背の低い俺。いや、別に凄い低いわけではないのだが、未来とミツハさんが俺を挟むように立っているせいで、やたら小さく見えるのだ。むしろやたらしょぼく見えるというか。
そのうえ野暮ったい真黒い髪が重たそうな印象を思い切り与えていて、自分で言うのもなんだが、うん、まぁ暗いっていうか。普通にどこにでもいる感じ。可もなく不可もなく、そんな存在感。自分で言っていて若干虚しい。
そしてそんな俺を挟むように、左隣りには日に当たって痛みすぎた茶髪に磨きがかかっている未来がいる。俺よりも年上の未来は、この時18かそこらだったはずだ。
けれどもサングラスで殆ど顔が見えないのは今と変わらないので変わりようがいまいちわからない。
とりあえずすらっとした長身で不機嫌そうなオーラを醸し出しながら腕を組んでいた。なんか偉そうなポーズだ。
そして、俺の右隣に立っているのが、ミツハさんだ。
ミツハさんの容姿は…ああもう、神の領域だ。俺の中では聖域。言葉で表すなんておこがましい。許してください。
けれども、背徳心一杯で語らせてもらえば、見た目は精々20代前半といったところ。
そして俺とは似ても似つかない艶のある黒髪に、気だるげで、けれども芯の通った、見る者の背筋を正させる眼光を秘めた黒瞳。スッとした鼻梁に薄い唇、未来と引けを取らない身長に長い脚。
痩身ながら、決して見栄えが悪いわけではないバランスの取れた肢体に、俺はいつだって惚れ惚れしてしまう。
本当にこんな綺麗で格好い人がこの世に存在していていいのか、俺はたまに本気で思ってしまうほどに。
同じように未来もサングラスさえ外せば、切れ長の野性的で男らしい容姿をしているし、俺の家族は本当に格好良すぎて、一人取り残された気分になるのも事実だった。
その写真だって、俺がいるのが不思議で仕方ないくらい完成された美があった。
けれども、そんな美の結晶が―――もといミツハさんが、そこら辺の石ころと同じような俺の肩に肘を掛けて、その写真の中で薄く唇を綻ばせて微笑んでいるのだ。もう俺はそれだけで頬がにやけてしまう。ああ格好いい。最高、神様ありがとう。
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