Lv.1-7
そんな俺の壮大な決意に水を差すように、未来はまた口を開く。
「まぁ、爆睡してるからいつ起きるかわかんねぇけどな」
ミツハさんの名前一つで目を輝かせた俺に、未来はまた苦笑を浮かべていて、俺は眉間に皺を寄せて食いかかる。
「うるさい未来、ミツハさんが起きるかもしれないだろ!」
そんな俺の言葉に、未来は首だけ回していた身体をぐるりと再度俺に向かい合わせて「いやいや」と手を振る。
「お前の声のがデケェしこの位で目が覚めるようなタマじゃねぇよ、あいつは」
ミツハさんに対して何たる口振り、と怒りを吐き出したいのだけれども、その内容に、俺はグッと口を噤むしかなくなる。
そうなのだ、ミツハさんは一度寝に入るとなかなか起きない、その、肝の据わったというかなんというかな人なのだ。
そしてそれが、俺の未来への八つ当たりの最もたる要因であったりする。
なんで起きていてもらわなかったんだ未来、と。だって、一度寝たら、本当に丸一日は起きないんだ、ミツハさんは。会いたくても会えないじゃんか!
うぐうぐと言葉に詰まった俺に、未来はまた近寄ってきて「まぁとにかく、な?」と落ち着かせるような声音で話しかけ、俺の広くない肩に大きな掌をおいた。
「飯でも作るからちょっと待ってろ」
人間、腹が減ると怒りっぽくなるものだしな、とどこかの格言のような言葉を零し、未来は今度こそ俺から離れてキッチンへと踵を返した。それに俺は咄嗟に一言。
「豆入れるなよ!」
いや、俺、球状のパサパサした物体―――所謂豆類だ―――が苦手なんだよ。そんな俺の好き嫌いのリクエストに、未来は「了解」と返し、軽い足取りでキッチンへその長身を消した。
ああ見えて、未来の作る食事は俺の大好物なので大賛成だ。その上、ミツハさんが帰ってきたこともあってきっと豪勢な食事になるだろう。そう、ここが北区域であることすら忘れさせるような食事に。
まぁそれは、未来やミツハさんが凄い高給取りだからなんだけどさ。俺が必死に―――それこそ命をかけて―――働いてもそうそうお目にかかれないような食事だ。
なに、俺の生活水準なんてそんなもんさ、食えればいいんだ、食えれば。
けれども、そんな『食えればいい』という食生活を本当にしていたら、今頃俺は骨と皮で死んでいるに違いない。
食えもしない極貧生活状態にもなる俺に、ほら食えそら食えと救いの手を与えるのはいつだって未来で、俺の胃袋は未来に育てられたと言っていい。
とにかく、そんな胃袋の母である未来に対して、それまで八つ当たり感情を抱いていたことに若干罪悪感を感じて、心の中だけで「すまん未来」と謝罪する。
いやほら、声に出すと「いったいどんなこと考えてたんだ」とか言われるかもしれないし。そこら辺はうまく曖昧にしておかないと駄目だろう。
むしろ、そんな考え自体が駄目だけどさ、どうせ未来はそんな俺でも許してくれるとわかっているから。
未来は駄目な俺でも許して受け入れてくれるから、好きだ。ミツハさんとは別次元で大好きなんだ。
そんな感情を再確認して、俺は頬を緩めた。
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