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Lv.1-6
 そんな感情を隠さずにムッとした顔でいれば、未来は小さく笑って「さて、と」と俺から離れた。逃げたな。
 けれども逃亡疑惑のかかった未来は、そんな俺の思考も振り払って数歩先に行ったところでピタと歩みを止め、首だけを回して「そうだ彼方」と俺を振り返る。

「なに」

 俺が素っ気ない声音で返せば、未来は未だかけたままのサングラスを押し上げて「ああもう…」と力なく零した。
 ついでにその見るからに痛んだ前髪をかきあげて、ぐしゃりと掌の中で遊ばせる仕草が無駄に格好良くて俺の癇に障る。美形って得だ。些細な仕草がやたら格好良い。
 いや、それは勿論未来という人間の中身を知っているからこそ余計に思うのかもしれないけれど。
 まぁそんなことはどうでもいい。どうでもよくはないけれども、この際置いておくことにしよう。
 だって、所詮俺の僻みだってわかってるからな。ありきたりの平凡顔で埋没する個性の持ち主である俺が、誰もが頷く美形かつ頼り甲斐のある未来と並んだら…どうなるかなんて火を見るより明らかだ。
 とにかく、俺はそんな内々の怒りも相俟ってギロリと苛立った視線を未来に向けた。
 勿論そんな行為も、凡庸な容姿の俺がしては酷く滑稽に違いない。その上、威力も何もあったものではないだろうが、やっている俺自身は至って本気だ。
 そこには俺の僻み以外にも別の怒りというか八つ当たりに似た感情が含まれているのだから。
 そう、怒りの成分は8割方、八つ当たりだ。
 残りの2割はやっぱり僻みだったり未来の俺への扱いの酷さに対するものだったりするのだけれども、それでもやっぱり大方は八つ当たりなのだ。俺はそれをよく理解している。
 そんな荒んだ視線を送る俺に、未来は一つ咳払いをしてそれを受け流すと「とにかく」と続けた。

「ミツハが起きるまでうちにいるだろ?」

 ―――『ミツハ』。
 俺はその単語に反応して、大きくはない双眸を見開いた。

「いる」

 俺の答えは即決だった。むしろ、未来の台詞の最後の辺りと被りながら返す勢いだ。
 いや、だって、いるよ俺。未来を追い出してでもいるよ。
 何故ならば、未来が何気なく放った『ミツハ』という単語は、俺の、そう、とても大事な人の名前だからだ。
 俺の大好きな人で、そして俺たち―――俺と未来の、大切な家族のもの。
 本当は、脱家族で祝恋人になりたい人でもあるんだけど、目下、それは叶っていないのが悲しいところだ。くそう、いつかそうなってやる。


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