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Lv.1-4
 とにかく、俺は自然を装って隣にいるそいつに問いかけた。

『…そういえば、あんたの名前は?』

 俺がそう言えば、そいつは演技染みた反応ではなくて、本当に驚いたようにその翡翠を見開き、俺を見つめ返してきた。…なんだよ、こっちが恥を忍んで聞いてるのに。

『あれー? 彼方ってば、俺のこと知らなかったの?』

 あれー? と再度零すそいつは、本当に驚いたように赤髪をかいた。
 そしてどこか困ったように表情を崩す。俺はなんだか居心地が悪くなって『…悪かったな』とそいつに顔を背け、俯いて零した。
 なんだか居た堪れなかった。
 けれども、そいつはすぐに笑みを張り付け直して、俺に声をかけた。

『んー気にしないで? ちょっと驚いただけだからさー』

『………』

 気にしないでと言われても、と俺は無言になった。何とも言えない空気が満ちる。俺の足取りも無意識のうちに遅くなった。
 悶々とした気持ちの悪い感情が俺の中を渦巻いて、どこにも漏れ出すことなく淀んで溜まった。ああ、嫌な感じ。
 けれども、そんな俺のことなどお構いなしに、そいつは全身でぶつかってきた。そう、まさに言葉通りに、その均整の取れた身体を貧相な俺の背中へとぶつけるように抱きついてきたのだ。
 そのあまりの勢いに、俺は肺に溜まっていた空気を一気に吐き出してぐえっと呻いた。路地に倒れなかったのは、そいつが俺の身体を抱きしめるように支えていたからだ。
 けれどもその元凶はそいつだ。許すまじ。
 『なにしやがる』、と文句を紡ごうとした俺に、そいつは至極明るい声で言った。

『―――ヤマト』

『は?』

 その言葉に、文句を言おうとしていた俺の口は、結局素っ頓狂な声しか上げられなかった。なんだって?
 けれどもそいつは、『ん、だから』と気を悪くした様子もなく繰り返す。

『俺の名前、ヤマトっていうの。―――ね、ヤマトって呼んで?』

 低いくせによく通るその声で、そいつは確かにそう言った。
 そう、そいつ―――その気安い男の名前は、『ヤマト』。

 そしてその名前は、俺の記憶に強い印象でもって焼き付いて、今も離れないまま。


 ―――もう、3年も前のことだ。

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