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Lv.0-50
 しかし俺の言葉にめげることのないヤマトは「うーん、素直じゃないなー」といつぞやと同じような言葉を抜かし、更には「そいつの前だから照れてるの?」ともう脳味噌をかきまわしたくなるような見当違いの言葉ばかり放ってくる。駄目だ、こいつもう駄目だ。
 俺はもう駄目なヤマトを無視して、そのままの勢いで「未来!」と叫ぶように呼んだ。
 すでに元通りの調子に戻っていた未来は、俺たちの遣り取りを見て込み上げてきた笑いを堪えているのか、腹筋が小刻みに震えていた。
 関係者じゃない奴はいいな、俺は笑いたくても笑えないのにな。とりあえず肘をその震える脇腹に叩き込んでおくことにした。
 
「未来!」

 そして再度呼べば、肘鉄を食らった脇腹を片手で擦りながら未来は今度こそ「ああ」と応える。最初からそうしろよ、と心の中だけで吐き出して俺は未来の相槌に頷く。

「いくぜ」

 そして足元から上方へ持ち上げられるようなあの浮遊感が湧き上がって俺と未来の身体はヤマトから離れていく。
 再度浮き上がった俺たちを、眼下のヤマトは、もうナイフを投げて止めるような真似はしなかった。
 ただ静かにその様子を視界に収めているように俺には見えた。
 そう、元からそういう『約束』だったのだから。
 俺はそれにホッとして、無意識に肩に入っていた力を抜く。
 その日の疲れ―――主に、というか粗方目下の変態が関与したことによるものだと言っていい。むしろそれ以外ない―――が、一気に出たようなそんな脱力感が俺を襲った。
 そうだ、小一時間前の俺はようやく仕事が終わって、あの人に会いに行くんだとはしゃいでいたんだっけ…。
 ヤマトにさえ出会わなければ最高の気分のままだったのに、会ってしまったが最後、尻の穴に指は突っ込まれるし追いかけ回されるし、気分は最悪というカテゴリーを逸脱して急降下したんだ。
 いや、突っ込まれたのが指だけだっただけまだましなのか? いやいや、そんなことが『まし』だと思えてくる俺っていったいなんなわけ?
 段々自分の価値観―――といっていいのかわからないけど―――がずれてきている気がする俺は、けれども、今は安全な未来の小脇に抱えられ、あとはあの人の待つ温かい場所に帰るだけだと落ち込みそうになる自身を奮い立たせた。
 よし、もうヤマトのことなんて忘れて早く帰ろう、そう思って俺が未来に檄を飛ばそうとしたとき、件のヤマトの声が俺の耳に届いた。

「なぁ彼方ー、最後に一つだけいいかなー?」

 口元に片手を添えた形で目下のヤマトは俺に手を振って声を張った。

「最後も何もない! もう黙ってろ!」

 未来の小脇というポジションと、ヤマトから十分離れたその距離に、俺は強気になって言った。
 ついでにシッシッと犬を払うような手の仕草でヤマトに返す。
 それにヤマトは大きな声で「冷たいなー。あの情熱的な彼方はどこ行ったんだよー」と頭のおかしいことばかり言うから、俺は「死ね、死んでしまえ」としかもう言いようがない。
 俺を抱えた未来もチッと舌打ちして淀みなく空中を移動する。

「彼方―!」

 大分遠くなったヤマトの声が、また俺を呼んだ。
 無視だ、無視、と俺は無意識にそう自身へ念を押した。そうしないと、首を回してヤマトを振り返ってしまいそうな自分がいたからだ。刷り込みって怖い。
 俺がそんな思いで身震いしていると、ヤマトは「なぁ彼方―!」と大きな声でまた一方的に叫び出した。
 俺はなんだか嫌な予感を感じて、未来を急かすように硬い横腹を叩く。それに応じて未来が俺を抱く腕に力を込めた。

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あきゅろす。
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