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Lv.0-49
 なんだかもう何もかも嫌だ、と軋むような首を捻って助けを求めるように未来を見上げれば、どことなく固くなった未来の表情に、俺はあれ、と違和感を覚える。
 サングラスの奥の瞳を大きく開き、薄く形のいい唇をぐっと噛み締めた未来は、まるでヤマトの言葉にダメージを受けているような、ショックを受けているような、そんな苦々しい―――いや、怒りにも悲しみにも見える、なんだかとにかく辛そうな―――表情に見えたからだ。
 そんないつにない未来の様子に、俺は何だかいてもたってもいられずに「未来?」と小さく声をかける。
 そうすれば、ハッとしたように未来は噛み締めていた唇を離し、一拍置いてから「あの野郎…」と低い声を出した。
 そのまま眉根を寄せて怒りのこもった視線をヤマトに向ける。
 そんな未来に、ただの思い過ごしかと、俺はどこかひっかかるものを覚えるものの意識を自身へと戻した。
 きっと、あまりもあまりなヤマトの発言に言葉も失うくらいに呆れ返っていたからに違いない。
 そしてそのあまりにもあまりなヤマトは「おーい彼方ー聞いてるー?」と血まみれの手をぶんぶん振っている。乾き始めている血は酸化して黒ずみ、なんだか非常に目によろしくない。
 だが、俺はそんなヤマト、否、変態、もとい妄想男を睨んだ。
 そして受け入れたくなかった情報を処理したうえで湧き上がる疑問を一つ、脳内で零した。

 ―――いつ誰が誰と『恋人同士』になったというんだ?

 そんな、俺にとっては答えがすでに出ている腹立たしさ極まりない疑問が。
 脳内に思い浮かべた『こいびとどうし』という言葉の響きに、うっかり俺はヤマトと手を繋いだりベタベタしたりする自分自身を想像して、そのあまりの衝撃に一瞬意識が飛びそうになる。破壊力抜群だ。というか、むしろ想像できた自分自身の想像力に拍手を送りたい。
 だが自画自賛するよりもまず、俺にはやることができてしまった。ヤマトの妄想を否定する、という重大なことが。
 というのも、ここで力いっぱいヤマトの言葉を否定しておかなければ、後々「だって否定してなかっただろー?」と主張されて押し切られるのは目に見えている。口では―――口でも、だけどさ―――絶対に勝てないんだ、悔しいことに。
 だから、俺は口内に目一杯空気を含んで、それを一気に吐き出すように叫ぶ。

「てめぇ気持ち悪いこと言うんじゃねー! 誰が恋人だ! 勝手に決めるな!」

 この変態! と最後に付け加えれば、目下のヤマトは案の定、「えー」と不満の声を出した。
 「俺たち恋人だろー」とふざけたことを言ってなおも食い下がるヤマトに、俺も一歩も引く気はない。引いたら負けだ。

「違うって言ってんだろ! 他人だ他人!」

 もう、できるなら二度と会いたくない他人だ。それがいい、そのほうがいい、俺の肉体的にも精神的にも、その方が断然いい。だって、俺はヤマトが大嫌いだ。

「あんなに愛しあってるのにさー」

「あってない!」

 全然あってない! あいたくもない! そう叫んで俺は宙ぶらりんになっている両手を交差させて断固拒否の姿勢をとる。絶対にこれは譲れない。いつの間にかに『愛し合っている恋人同士』にさせられたんじゃ堪らない。俺が愛してるのはあの人だけなんだ。

「あんなに一杯セックスしてるのにー。彼方も俺とするの好きでしょー」

 ヤマトのその言い分に思わずブッと噴き出した俺は、「死んでしまえ!」と吐き捨てる。
 そりゃあ、会うたび襲われている俺としたら、その回数たるや数年間という時間があったにしろアレだ、うん、まぁ、多いかもしれない。回数は多いかもしれないが、決して合意ではない。ここが重要だ。


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