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Lv.0-48
 そんな俺の苦悩を知ってか知らずか、眼下のヤマトは「家族家族ってうるせーなー」と吐き捨てると、壊れたナイフをコンクリートに叩きつけるように放った。飛び散った硬質な銀と生々しい赤が灰色の薄汚れた地面に映える。
 けれども、ヤマトの赤く彩られた掌、そこにあるだろう傷口はもう殆ど塞がっているに違いない。基本的に傷が出来難いんだ、こいつら―――つまり高レベルの能力者は。もう身体の造りが違うんだ、きっと。
 だからか、俺だったら絶対に痛くて涙が出ていそうな―――むしろ見ているだけで痛い―――血濡れた手もそのままに「あーマジ消えろって感じだしー」と苛々した様子で零し続けている。
 ブツブツと独り言を零すその様だけ見たら、こいつがこのエリア最強の男として恐れられているなんてわかりもしないだろう。
 だが、未来がひたすら口を噤んでタイミングを計るくらいには隙がないのも事実だった。
 俺にはただふざけているようにしか見えないのだが、実力者にはわかるものがあるようだ。例え能力が使えぬ状況下であっても、それだけヤマトは強い、のだろう。俺にはよくわからないけど。
 未来にならって俺も気を引き締め直し、目下のヤマトの奇行を眺めて…いやいや、観察していると、ふと、何かを思いついたように観察対象であるヤマトが目を瞬かせ、「あ、そっかー」と一人納得したように頷いた。
 それに、俺は嫌な汗が米神から吹き出す。
 なんだろう…嫌な予感しかしない。してくれない。こういうときの勘はまず外れないんだ。むしろ勘というよりも前振りがあるから勘じゃないのか? あ、これ現実逃避? もうどうでもいいからこれから開くであろうヤマトの口を誰か塞いでくれと、いもしない誰かに救いを求めてみる俺は、もう救いがないとわかっているんだ。
 そしてやはり、ヤマトの口は誰にも止められることなく開かれた。
 ならばせめて耳を塞いでしまおうとしたが、そうする間もなく「彼方とーそのうざい奴は『家族』なんだろ?」と、おそらく俺をこれから地獄に突き落とすであろう声が届いてしまった。
 それに俺は耳元まで届かず中途半端に上がって宙をかいた腕を、ゆっくりと下ろした。時すでに遅しとはまさにこのことだ。今からやろうものなら火に油を注ぐようなもので、すでにその前科のある俺は「ちゃんと聞いてよねー」という言葉とともに飛んできた拳の重さと頬の痛みを思い出して、苦いものが滲みだした口内に眉を寄せた。
 過去の―――そして現在進行形の俺の痛みの元凶であるヤマトに、俺は自棄になって「そうだって言ってんだろ!」と叫んだ。
 何度も同じことを言わせるなとばかりに嫌々とした表情で未来も力強く頷いている。
 しかしヤマトは、そんな俺たちの返答に満足したように笑みで返して―――もうこの時点でなにかやばい雰囲気がぷんぷんしている。聞きたくない―――「だったらさー」と続けた。

「だったら、恋人同士のことまで首突っ込んでくるのっておかしいだろー。ただの『家族』なのに」

 違うか? と高らかにヤマトは言い放った。
 それに俺は、口を噤んで黙り込んだ。一瞬、何を言っているのかわからなかったからだ。
 それから、うん? と俺は軽く首を捻った。
 俺の耳はおかしくなったのか? 酷い幻聴が聞こえた気がするんだけれども。幻聴かな、幻聴だよな? いやいやいや、幻聴ではなかった気がする。確かになんだかアレな単語が聞こえた気がする。いや、本当に。あれ、本当に?
 そんな自問自答に脳味噌が処理速度を落として―――というよりも拒否反応だ―――俺は数瞬フリーズした。それでもなんとか脳内に留まっているヤマトの爆弾発言、もとい妄想発言を必死の思いで処理分析しようと俺は痛む頭を必死に働かせる。
 そして更に十数秒の間の後、何とか脳内処理が正常に行われた俺は、どっと精神的に疲れ果ててしまった。


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