[携帯モード] [URL送信]
Lv.0-47
 そんな、ヤマトが未来たちに向ける―――いや、もしかしたら俺に、なのかもしれないけど―――それは、酷く重く暗い負の感情で、その息苦しさに俺は窒息しそうになる。
 それを思い出して、俺は無意識に垂れたままの自分の腕を俺を抱えている未来の腕に添わせた。
 冷えた皮膚に伝わる未来の温もりが伝わって少し俺の中の動揺や恐怖が治まる。それに俺はホッと安息した。
 けれども、それも束の間、チッという舌打ちが聞こえて眼下に視線を投げれば、形のいい眉を歪めたヤマトの不機嫌顔が目に飛び込んでくる。
 しまった、と俺は慌てて未来から手を放す。
 俺にはよくわからないけれども、ヤマトは特に、未来が俺に触れることを嫌うのだ。反対に、俺が未来に触れるのもまた、輪をかけて嫌う。
 そのため俺は無意識のうちにヤマトの不機嫌レベル降下の回避行動をとるまでになっていた。そして今回も条件反射でそれを行っていた。
 でもこれ、よく考えるとおかしいよな、俺たちがど突き合おうがくっ付こうが俺たちの勝手のはずなのに、一々ヤマトに合わせるなんて、本当におかしいことだ。
 でも、そうしないと痛い目を見るのは自分だということもわかっているので、俺は結局ヤマトが望む行動をとってしまうんだ。悔しいことに。
 そうさせるヤマトが俺に抱く感情を、向けてくるその感情を、もし、もしも、愛とかそういう類だと仮定して―――ちなみに俺はヤマトが俺に向けてくるその感情を愛だとは認めない。俺は俺をヤマトにとって都合のいい玩具程度の認識でしか捉えていない。だから嬲るし、追い詰めて、好きなだけ遊ぶんだと思う。そうとしか思えないくらい、この数年間、俺は苦痛と絶望ばかり味わってきたんだ―――、俺に触れる未来を嫉妬という意味で敵視するのであれば、見当違いも甚だしいところだ。
 未来は最も近しい存在群、家族であるがゆえに、ヤマトが邪推するような―――所謂、『惚れた腫れた』の―――関係にはない。これは現在の揺るぎない事実だった。
 ただし、そうなる可能性だけを考えればゼロではないのも確かで。
 俺たちの間には、見たまんま、どう足掻いてみても埋まらない外見差が存在するから、一滴たりとも血の繋がりはないし―――といっても近親婚の強い傾向のある富裕層にはこれは通用しないけどな―――、そういう意味では拘りのない立ち位置であることは間違いない。
 だから、ヤマトのように邪推に邪推を重ね、何か特殊なフィルターを掛けて俺たちを覗き見れば、そう見えるかもしれない。見えるかもしれないが、でも俺たちは家族であって恋人ではない。
 いや、一部例外もあるけどな。あの人も家族だけど、好きになってしまったのは仕方ない。目指せ恋人の地位、を目標に驀進中の俺は、もしそれをヤマトに言われたらぐうの音も出ない。あれ、駄目じゃないか?
 …まぁそういう点から見れば、可能性の話だけど未来だってそういう対象になる日が来るかもしれない。
 現に今も、俺の目に映る未来は格好良くて惚れ惚れしてしまう。
 家族の欲目を差し引いても、十分格好いいだろう。まぁ、俺の中の未来のイメージはいつだって格好良くて強くて、優しくて頼りになって、でもどこか抜けてて、少し怒りっぽい、それでも俺の自慢の相棒で兄で、仲間なんだ。好きか嫌いかと問われれば、大好きだ。
 でも、まだ恋情とは違う気がする。ああもう、よくわかんないや。俺は考えることは苦手なんだ。
 早々に思考を放棄した俺は、未来とヤマトに視線を彷徨わせてから、これからどうしようと実際には抱えられない頭を心の中だけで抱えた。


[*down][up#]

47/55ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!