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Lv.0-46
 眼下でヤマトが「あーマジでむかつくなー」と不機嫌さを隠さない声音で零すのを聞いて、弱気な俺はビクリと震えて未来の小脇で竦み上がる。
 壊れたナイフを片手で弄りながら再度「むかつく」と吐き捨てたヤマトを、俺はもう直視できずに視線を逸らした。
 ゲームに負けた瞬間から―――もっといえば未来が現れた瞬間から―――ヤマトの機嫌は地を這うようなレベルだったけれども、ここに来てさらに底辺をぶち抜いてマイナスへと急降下しているといって過言ではない。
 ヤマトが発する不機嫌オーラは、俺のあってほしくなかった経験群から、最悪な今後の展開を導き出す。
 それはもういっそのこと気絶してしまいたくなるような悲惨な俺の姿だ。
 俺が思うにヤマトは非常に―――いや異常に、のほうがしっくりくるような気がする―――根に持つタイプだ。すぐに忘れてくれない。割り切ってくれない。酷い奴だ。
 だから、こういうことは後が恐ろしいことになる。
 そう、例え加害者―――ここで言う『加害者』はヤマトの気分を害する存在という意味だ―――が俺でなくとも、ヤマトの鬱憤は巡り巡って俺へ降りかかってくるんだからな。
 「この前凄く腹立つことがあってさー」と言う、俺にはどうでもいいというか全く関係のない理由で襲われたことが今までに何度あったことか…いや、思い出すのはよそう、痛い記憶しか蘇らない。
 もっといえば、加害者が未来やあの人―――つまり俺の『特別』な存在だったりすると、最悪中の最悪、地獄だ。うん、鬼が悪魔と合体して得体の知れない変態になるというか、混沌になるというか、とにかく、俺が死にそうになるんだ。あれやそれで。
 そしてその最悪のパターンは、殆どの場合、話を聞くかぎり、俺が責められる理由は全くない。
 とばっちりもいいところだ。余所でやってくれといいたい。俺を巻き込むなとも。
 むしろそれを口実にして俺で遊んでいる気がしないでもないのだが、そんなのはどうでもいい、止めてほしい。
 とにかくヤマトは最低なやつだ。
 最低なやつだけれども、最強なやつでもあるので、弱い俺がどうにかできるはずもなく、故に、俺は助けを求めるように逸らしていた視線を未来へと向けた。
 俺としては早くこの居たたまれない場から脱出したい。もう、それは大分前からの切実な願いだ。しかし、いまだ果たされない願いでもある。
 というのも、俺の脚たる未来にその気が起きなければどうにもならないからだ。
 勿論、動くに動けない、一触即発の空気がヤマトと未来の間に漂っているというのが未来が動かない一番の理由なのだろうが、それでも俺は逃げたいんだ、一刻も早くこの場から。
 けれども、脚たる未来は動けない。ならば自力ではどうかというと、間違いなく不可能だ。
 動けない未来から離れて、一人でこの両極端の怒気が渦巻く極寒地帯から速やかに離脱なんてできるはずがない。
 それははっきり言える。言えてしまうのが悲しいが、覆せないすでに経験済みの事実だ。
 それに加えて俺の現在地が空中という時点でもう俺の離脱作戦は初めの一歩で失敗に終わっている。
 『重力制御(グラビティ)』を使えない俺は、未来から離れたら重力に従って地面へと落ちるだけだ。
 最悪、落ちたところをヤマトに拾われたりしたら踏んだり蹴ったりもいいところで、泣くに泣けない状況になるだろう。
 ちなみに拾われずに落ちたらそのまま昇天間違いなしだが、ヤマトに捕まるのと昇天するのを天秤に掛けたら、昇天のほうへ傾くだろう。
 それくらい、未来たちが原因の鬱憤晴らしは酷いものなんだ。死んだ方がましだと思えるくらいには。


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