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Lv.0-44
 そんな自己嫌悪の世界に陥りそうになる俺に、まるで叱咤するかのように未来が「彼方」と確かな響きで名を呼んだ。

「大丈夫だからな」

 そしてそう力強くそう続けられて、俺はハッとして未来を仰ぎ見た。その横顔に、俺は惚けてしまう。

「彼方は俺の大事な『家族』だ。指一本触れさせねぇよ」

 そして未来はそう言い切り、俺を抱く腕にまた力を籠めた。
 まるでその決意を自身へ言い聞かせ、そして確かめるように俺の身体を抱きしめる未来に、俺の脆い身体は悲鳴を上げた。
 締め上げてくる力は、腕がちょうど当たる肋骨に痛みが走るほどだったからだ。
 けれども、広くもなく狭くもない、若干打たれ弱い俺の心は、外郭たる肉体の中で歓喜の声を上げたのだ。
 胸の奥のほうが熱を帯びたように熱くなって、柔い素材の俺の心に芯が通るような感覚を呼び起こす。
 俺の弱った内面を立ち直らせてくれるような不思議な力を持っているんだ。
 いつだって、どんな言葉だって、未来とあの人が言う言葉なら。
 そう、未来は仲間であり、俺の数少ない―――あの人と、俺と、そして未来の、たった3人だけの―――『家族』なんだ。俺の世界を構築する大事で、大切な。

「みらい…」

 震える舌を必死で動かして、俺は呼んだ。その響きは稚拙で何とも情けないものだったけれども、俺は構わなかった。
 ただそこに今俺にできる精一杯の感謝を―――ありがとうの一言も伴わないものだとしても、ただそこに俺がその気持ちを―――込めている、その事実があれば俺はそれでよかった。
 伝わらなくとも、自己満足と笑われようがそれでよかった。
 だって、俺と未来の関係は、そういうもので決まるものではないのだから。
 未来が、そんな俺の声に反応してさらに言葉を重ねた。

「俺があんな野郎のいいようにはさせない―――絶対に、だ」

 視線を、チラと俺に向けて―――けれども下方のヤマトへの警戒は怠らないままに―――未来は笑った。
 安心させるためのそれに、俺の胸はますます熱を孕んだ。ドキドキと激しく心音が響く。
 冷風に吹かれて冷えていた頬に熱が戻るのを感じた。
 それは今までの恐怖からくる極度の血圧亢進症状ではなく、まさに未来から運ばれてきた温かい感情の、優しい感情の波のせいだ。
 やばい、なにそれ、やばい未来。
 もう俺の脳内にはいい意味での『やばい』しか巡っていない。ヤマトとは大違いだな。
 というのも、今、俺の目に映る未来が、やたら輝いて見えているからだ。
 サングラスさえなければもっと輝いていたのに、と思うのは仕方ない。勿体ないくらいの容貌を隠すそのサングラス、似合っていないわけではないが―――いや、すごく様になっているけど―――やっぱりないほうが爽やかさ急上昇だ。うっかり惚れてしまうかも、しれないかも。
 しかし、俺のそんな家族としての好印象とは正反対に、非常に悪印象を受けた人間が一人いたようだ。
 下方からビュンと高速で何かが飛んでくる。
 それをまた叩き落としたのは未来の『重力制御(グラビティ)』で、俺たちに届く前にそれは消えた。
 飛んできた『何か』は、確認したらやっぱりナイフ。見事にコンクリートにめり込んでいる。
 そして投げつけたのは目下のヤマトで間違いないだろう。凄い殺気の滲んだ視線が飛んでくる。ううう、下見たくない。


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