[携帯モード] [URL送信]
Lv.0-43

「っおいこのクソ野郎! そんなことこの俺が許さねぇからな!」

 瞑った瞼の裏の世界、暗闇の中で、喉の奥のほうから絞り出されたような怒りに震えた未来の声が響いた。
 「お前だけじゃなく俺も絶対に許さないがな」と俺は心の奥底で付け加えて、のろのろと瞼を持ち上げた。
 そして未来の顔が見えるよう首を捻れば、恐らくは怒り心頭といった様子だろう、空いた片方の拳をぐっと握りしめている姿が視界に映り込む。
 それをなんとなしに開いた両眼で眺めていれば、変な方向を向き続けているせいで首が痛みを訴え始めた。
 そのままの状態を保持できずに俺は再び首を元に戻す。視線は再び地上へと落ちた。
 しかし、意図してヤマトを捉えないように視線をずらすのは忘れない。
 これを忘れると、再び金縛り地獄に陥るのだ。恐ろしい、恐ろしいったらありゃしない。
 うっかりその恐ろしさを思い出して再びブルリと震えた俺の身体に気付いて、未来は俺を抱える腕に力をこめた。ギュッとされる。うん、若干苦しいな。でも、美形は何をやっても様になるなぁと、どうでもいいことを考えて、俺は小さく息を吐いた。
 正直なところ、そんなことでも考えなければ恐ろしい現実に目を向けるしかなくなるから、この数年―――目前の悪魔、ヤマトと出会ってからの、といっていい。俺に危害を加えるのは基本的にこいつしかいない。他は基本的に俺の存在自体をスルーだ、スルー―――で培われた俺の処世術が、情けないが現実逃避行動というわけだ。
 そんな俺は、未来の小脇に抱えられながら「明日何しようかなぁ」と平和な明日を夢見ていた。
 まぁ今日が終わって『明日』が来た時点で俺が生きているか死んでいるかは、うん、(助けてくれるはずの)未来の実力次第だけどな! 
 …他力本願で何が悪い。だって俺、弱いんだ。仕方ない。…うん、開き直るのって時に自分を惨めにさせるよな…もうやめよう。

「テメェの許可なんて必要ねぇし、引っこんでろよクソガキが」

 俺がそんな現実逃避行動をとっていると、目下のヤマトは未来に向けてそう冷たく吐き捨てた。
 俺に対するものとは大分違う、低く地を這うような声音。
 そこに感情の起伏は全くない。平坦すぎることが、かえって俺を震え上がらせる。
 勿論、話の流れからみてもその言葉も、その感情も、自分に向けられたものではないのはわかりきっている。
 わかっているけれどもそれにすら俺は怯えてしまう。
 もう駄目だ。ヤマト恐怖症だ。しかも重症、末期。そしてきっと不治。
 でも、だって、そうなるのも全てヤマトが悪い。ヤマトの声が酷く怖い色で空気を震わせるのが悪いんだ。
 言っていることも怖いが、もう存在自体が怖いから、弱い俺はただ未来の腕の中で縮こまるしかない。
 まるで亀みたいだ。だいたい俺、のろまだし、すぐ捕まるし。潜ったはずの自分の甲羅も脆いって、最悪じゃないか。頼りになるのは未来だけ。あぁ、情けない…。


[*down][up#]

43/55ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!