Lv.0-42
そんな状態の俺を置き去りに、ヤマトは言葉を紡ぎ続ける。
「それでー俺以外に懐かないようにしっかり躾て、これでもかっていうくらい可愛がってあげるー。ちゃんと首輪で繋いでね」
ちなみに色はどんなのがいい? と楽しそうに訊ねてくるヤマトに、俺は唇をきつく噛み締めたままどうすることもできない。
ただ、できるならこの世から首輪なるものを全て消滅させたい、とだけ思った。
怯えて口を開けない俺にヤマトはなおも続ける。
「うん、ほんと我ながらいいアイディア。彼方はそれでなくてもすぐ逃げようとするしー。そんなことしても無駄なのになー。はは、でもそういうところが可愛いんだけど」
おそらくは首輪について言っているのだろう、ヤマトはしきりにうんうんと頷いていた。
その脳内で、『俺』がどんな姿でどんなことをされているのかは、想像に難くない。…難くないのが嫌過ぎる。
「でも本当は俺だってそんなことしたくないんだからなー? ただ大事にしたいだけー。でも彼方が『引っ掻く』から、俺だって『お仕置き』しなきゃならなくなるの。わかってくれよー?」
誰がわかるかと、人をまるで猫のように―――ペットのように扱った言い方に俺は内心血が湧き上がるのを感じた。
けれども、どれだけ怒りを感じても、俺の震える唇はヒュゥという高い吸気音しか零せない。
笑いながら、しかし全く気を緩めないヤマトから目が離せない。
「甘い顔ばっかりしてちゃ彼方には悪影響だってわかったことだしー。今日の賭けで言ったことも全部してもらいたいけど―――とにかくまずは『躾』が最優先。痛みも苦しみも、俺が与えるすべてが幸せなことだってわかってもらえるまでは、ね。俺にとって彼方からもらうすべてがそうであるようにさー」
あはは、とヤマトはまた笑った。まるで歌を歌っているかのように淀みなく零れおちるその言葉の羅列に、俺は息もできずに身体を震わせた。
「………っ」
ただ、声にならない、悲鳴にもならない何かが俺の喉奥から零れおちてくるようだ。
噛み締めていた歯列を割って、恐怖に濡れたドロドロとした感情が胃酸とともに逆流してきそうになって、俺は震える瞼を必死の思いでぎゅうと閉じた。
閉ざされた真っ暗な視界。ようやくヤマトを映さなくなった視界。安堵が広がるはずのそこにあるのは、しかし明確な恐怖だった。嫌というほど感じる存在感。
飛び込んでくる風の音がより一層強くなった。
苦しい。呼吸が、心臓が、胸が、痛い、痛くてしかたない。
俺を抱えたままの未来が、「狂ってやがる」と忌々しく吐き捨てた。
そうだ、ヤマトはどこかおかしい。根本的に何かおかしいんだ。何がおかしいのかわからないけれど、おかしい、それだけは言える。
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